アクロバティックサラサラ

ある日、バレー部の練習を終えた中学3年生の荒川 音色(あらかわ ねいろ)と住本 菜々(すみもと なな)が話しながら帰っていた。


なな「ねえ、今日暑くない?」


ねいろ「あっついよね!」


ねいろは手で仰ぐ。

今日はとても強い日差しがジリジリ照りつけている。気温は30℃を超える真夏日だ。


なな「体育館にエアコン無いの地獄だよねぇ〜」


ねいろ「ねぇ〜!それに比べて吹奏楽部と美術部はいいなぁー!クーラー効いた部屋で過ごせるんでしょ〜?」


なな「そうそう、ずるいよねー!」


ねいろ「せめて扇風機ぐらい付けて欲しい」


なな「わかる〜!じゃないと私たち熱中症になっちゃうよね〜」


そう言いながら公園前を通った時、ねいろがふと立ち止まった


なな「ねいろ?どうしたの?」


ねいろ「ねぇ、あの人、暑くないのかな?」


ねいろが指さしているところをみるとベンチに赤い長袖のワンピースを着て赤い帽子を被っているサラサラの長い髪の女性が座っていた。


なな「確かに、今日は長袖で普通居られないよ」


ねいろ「だよね、寒がりでいつも長袖の先生も今日は半袖だったし」


なな「日陰があるベンチに座ればいいのに」


女性が座っているベンチは影がなく、日光が照りつけていた。


ねいろ「あそこに日影があること教えてあげよ!」


なな「え、でも知らない人だし…」


ねいろ「でも見る限りめっちゃ暑そうだよ。髪の毛も腰まであるのに下ろしているし」


なな「もー、ねいろってなんでそんな勇気あるの?」


ねいろ「んー、わかんない!」


ねいろはそう言って、女性の方に駆け寄って行った


なな「あぁ、待ってよ〜!」


ななは急いでねいろを追いかけた


なな「ねいろ〜」


ねいろ「あの、あっちに日影があるのでそっちへ行ったらどうですか?」


なながたどり着いた時、ちょうどねいろは女性に声をかけた。すると女性はゆっくり顔を上げた。その顔を見てななとねいろはゾッとした。その女性は眼球がなく、真っ黒だったのだ。


ねいろ「す、すみませんでした!なな、行こ!」


ねいろは女性に謝るとななの手を引いて慌ててその場を去った







ねいろ「はぁ、はぁ…」


ななとねいろは公園から離れた空き地まで走ってきた。


なな「…びっくり…しちゃったよ…」


ねいろ「私はびっくりより怖いの方が勝ったよ…」


なな「夢に出てきそうだなぁ…」


それほど2人は衝撃を受けていた。


ねいろ「と、とりあえず家帰ろ!」


なな「そうだね、早く帰ろう!」


2人は走ってそれぞれ家に帰った








次の日の朝、ななが教室に入り、窓側の自分の席へ行くと前の席のねいろが振り向いた


なな「おはよう、ねいろ」


ねいろ「おはよう」


挨拶を返すねいろは少し表情が暗かった


なな「どうしたの?体調悪い?」


ななが問いかけるとねいろは首を横に振った


ねいろ「なんか、昨日あの人を見て逃げちゃったことが申し訳なく思って…だって、そういう病気の人かもしれないから」


なな「確かに…」


そう思うとななも申し訳なく思ってきた。もし自分が顔を見て逃げられたら悲しくなるだろう。


ねいろ「もしまたあの公園にいたら謝ろうよ」


なな「そうだね、謝ろ!」


ねいろとななはハイタッチをすると、先生が教室に入ってきた。それをみてななは急いでカバンを机の上に下ろして準備をした。






社会の授業の時、ななはシャーペンをクルクル回しながら先生の話を聞いていた


なな(社会つまらないんだよなぁ…歴史とか将来使わないのになんでやるんだろ…)


ななはふと窓の外を見た。その瞬間__誰かが上から落ちてきた。赤いワンピースを着たサラサラの長い髪の女性だ。その女性は落ちながらななに顔を向ける。その顔には眼球が無かった。


なな「きゃあ!」


ななは反射的に立ち上がり、急いで窓を覗き込み、落ちていく女性を見た。すると、女性は地面に着きそうになった瞬間、スッ…と消えた


なな「え…?!」


ななは窓から地面を見つめた。確かに女性は落ちたのを見た。でも、その女性が跡形もなく消えてしまった。ななは訳がわからず呆然とした


先生「住本、どうした?急に立って。」


なな「あ、あの…さっき女の人が落ちてきたんです。だけどその人が突然消えちゃって…」


先生「はぁ…?」


先生は「意味がわからん」と言うように首を傾げて、窓から顔を出して地面を確認する


先生「…見間違いなんじゃないか?」


なな「見間違いじゃないです!本当に見たんです!」


先生「あのなぁ、人が突然消えることなんてないんだよ」


ななはそれを聞いて、何も言えなくなる。これ以上言っても信じてもらえない気がする。そう思い黙り込んだ


先生「住本、座れ。君は多分疲れて幻覚が見えてたんだよ。休み時間ちゃんと休めよ。授業戻るぞ」


先生は再び黒板の前へ戻り、話し始める。ななはなんとなく納得できない気持ちになりながらゆっくり座った。すると、ねいろが青ざめた表情でわずかにななを見つめていた。










なな「ねいろも見たんだね…」


夕方、ななとねいろは部活を終え、一緒に帰っていた。2人は社会の時間の話をしている。ななが見た女性が落ちている途中で消えたところをねいろも見たようだ。


ねいろ「…あれ、昨日公園にいた人だよね…?」


なな「たぶん…目が無かったし、服も同じだったから…」


ねいろ「でも帽子無かったよね?」


なな「ううん、帽子は手に持ってたよ」


そう話していると公園前まで来た。ななとねいろは息を呑み、恐る恐る昨日女性がいたベンチをみる。そのベンチにはまた赤いワンピースを着て、赤い帽子を被っているサラサラの長い髪の女性が座っていた。そのワンピースは今日落ちてきた女性と同じ服で、顔には眼球がない。


なな「いるね…」


ねいろ「早く帰ろうよ…」


ななとねいろは小声で会話をする。そして、帰ろうした時、ベンチに座っていた女性が顔を2人に向けた。そしてニヤッと笑い、立ち上がった。ななとねいろはその女性の大きさに唖然とする。女性は身長が異様に高かった。2メートル以上はあるだろう。女性はさらにニヤリと笑うとななとねいろに向かって走り出した


なな&ねいろ「きゃぁぁ!」


ななとねいろは恐怖を感じ、走り出した。





ねいろ「ねぇ、どうしよう!」


なな「わからないよ!でも捕まったら無事じゃ済まないと思うよ…!」


ななとねいろは必死に走る。ななはチラッと後ろを見た。後ろには女性が追いかけてきている。女性は走っている途中であり得ないほど高くジャンプして距離を縮めてきたり、塀を乗り越えていく。そして何より、その女性の走る速度がとても速い。ななとねいろとの間はあっという間にわずか5メートルほどになった。


ねいろ「なな…!」


なな「ねいろ!もうちょっと頑張って!止まったら捕まっちゃう!」


ななはねいろと繋いでいる手に少し力を入れる。そして、走る足を速めた。しかし、女性との間は変わらなかった。少しずつ間が縮まっていく。


ねいろ「いやぁ!」


なな「来ないでよ!!」


2人は叫ぶ。しかし女性は速度を変えることなく追いかけ続ける。間が2メートルぐらいになった時、女性は口を大きく開けた。ななとねいろは走りながらも女性の口をみてギョッとした。女性の大きく開かれた口の中には無数の尖った鋭い歯があった。


なな「もっと速く走らないと…!」


ねいろ「うん…!」


ななとねいろは共にスピードを上げようと前方を見た。その時、何かが足に引っかかり、2人は転んでしまった。足元を見ると髪の毛が足首に絡みついていた。女性の長い髪の毛だ。その髪の毛で立ち上がれなくなったななとねいろに向かって女性は口を大きく開いた


なな&ねいろ「いやぁぁぁぁぁぁ!!」


2人の悲鳴が響き渡り、やがてその悲鳴は聞こえなくなった。




その近くの物陰から1人の少年が出てくる。その少年はツノが生えている。ワザワイだ。ワザワイは地面を見つめる。そこには2つのスクールバッグがあった。そして前方をみると、遠くに小さく赤いワンピースを着て赤い帽子を被った長い髪の人の姿が見える。それを見て笑みを浮かべた。


ワザワイ「アクロバティックサラサラもよくやってくれたなぁ。一気に2人仕留めてくれた。」


ワザワイは面白そうに笑う。そしてアクロバティックサラサラに手のひらを向ける。すると左目の十字架が光り、アクロバティックサラサラから黒いモヤが出てワザワイへ吸収された


ワザワイ「次は3人以上目指そっかな〜、その分僕は得を得られるからね!都市伝説たちには頑張ってもらわないとだな!」


ワザワイはそう言うと、スキップをするようにその場を去って行った。

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