白い本

とある町の商店街を2本のツノが生えている少年___ワザワイが歩いていた


ワザワイ「この町では何やろっかな」


ワザワイは商店街を見回す。と、ある書店に目が止まった。ワザワイはそれを見てニヤッと笑うと書店へと近づく。


ワザワイ「これにしよ…!」


ワザワイは書店に向かって手をかざした



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ゆきと「へー、こんな本も売ってるんだ〜」


中学2年生の中島 幸人(なかじま ゆきと)は書店に来ていた。


ゆきと「久しぶりに書店に来たけど案外面白いな」


ゆきとはあまり本を読まないが、今日は暇だったため、書店に寄ってみることにした。すると、いろんなジャンルの本があり、学校にある本を見つけた時は何だか不思議な感じがした。それが面白くて現在、書店に来て30分は経っている。


ゆきと「たまには書店もいいなー!でも、もうそろそろ帰ろっかな。」


本を買うつもりはない。それなのに長居するのも失礼だと思った。ゆきとは外に出ようと出入り口へ体を向けたとき、ある本が目に入った


ゆきと「…何の本なんだろ…」 


その本は、本来本の題名が書いてあるはずの背表紙には何も書かれてなく、ただ真っ白だったのだ。ゆきとはその本を手に取る。すると表紙も真っ白だった。


ゆきと「こういう本なのかな…?」


ゆきとは真っ白な本を元の位置に戻すと書店を出た。








翌日、ゆきとは学校で親友の_飯田 友春(いいだ ともはる)と話していた。


ゆきと「なんかほかに話題あるかな?」


ともはる「うーん…」


2人はさっきまで給食の話をしていたがその話も終わってしまい、話題が尽きてしまった。


ともはる「…あ、そうだ。題名も絵も書かれてない真っ白な表紙の本を買うと幸せになるっていう噂知ってる?」


ゆきと「え、知らない」


ゆきとがそう答えると、ともはるは人差し指を立てた


ともはる「なんか、その真っ白な本は滅多に現れなくて、時々書店に現れるんだって。で、その本を買うと女の子が現れて幸せにする魔法をかけてくれるらしいんだ!」


ゆきと「へー、真っ白な本か…」


すると、ゆきとは昨日のことを思い出した。


ゆきと「僕、それ見たかも!」


ともはる「えぇ?!」


ゆきとの言葉に驚いたともはるはつい大声で叫んでしまった。さっきまで喋ってたクラスメイトたちが一斉に注目する。しかしそれは一瞬で、みんなまたお喋りに戻った。


ゆきと「もー、突然大きな声出すなよ〜」


ゆきとは大袈裟に耳を塞いで小声でともはるに話しかける


ともはる「お前のせいだよ〜!」


ゆきと「何でだよ」


ともはる「…で、本当に見たの?」


ともはるは興奮気味にゆきとに訊いてくる


ゆきと「うん、見たよ。背表紙も表紙も真っ白だった」


ともはる「まじかよ…どこにあったの?」


ゆきと「普通にあの商店街にある書店だよ」


ゆきとが淡々と答えると、ともはるは目を輝かせた


ともはる「まじ?!お金持ってきて良かった〜!」


ゆきと「え?」


ともはる「俺さ、もし見つけたら買おうと思ってて!ゆきとも一緒に来てよ!」


ゆきと「えぇ?!」


ゆきとはともはる1人で行くと思ってたが自分が誘われて驚いた


ゆきと「1人で行きなよー」


ともはる「えー?別にいいだろー?」


ともはるはゆきとの腕にすりすりと顔を擦りつける


ゆきと「ちょ、気持ち悪いからそれやめろ!」


ともはる「なら一緒に来て〜」


ゆきと「わかったよ!行くから!」


ゆきとはともはるを引き離すと「ふぅっ…」とため息をついた











放課後、ゆきととともはるは書店に来ていた


ともはる「どこにあった?」


ゆきと「えっと…」


ゆきとは昨日真っ白い本があった棚を見た。


ゆきと「あれ…無くなってる!?」


その棚のどこを探しても真っ白い本はない。


ともはる「誰かが買っちゃったのかな?」


ゆきと「…たぶんね」


その後、2人で全部の棚を探したが結局見つからなかった。


ともはる「もう暗いし帰ろっか」


ゆきと「そうだね」


2人は空を見上げる。空には星が見えてきた。もうすぐ日が落ちる。急いで帰らないと親に怒られるだろう。


ともはる「ゆきとありがとな、俺のわがまま聞いてくれて」


ゆきと「どういたしまして!僕たち親友だろ?」


ともはる「そうだな!ありがとう!」


ゆきととともはるは笑みを交わす。


ゆきと「明日、また探してみようかな」


ともはる「オッケー!もし買えたら教えてよ!」


ゆきと「ともはるは買いたいんじゃないの?」


ともはるはその本が買いたくて今日書店の中を探したはずだ。それなのにゆきとが買ってしまったら幸せはゆきとの方へ行ってしまう。


ともはる「正直買いたいけど、親友が幸せになったら俺も嬉しいからさ!」


ゆきと「ともはる…!」


ゆきとはともはるの言葉に感動した


ともはる「じゃあ俺こっちだからまたな!」


ゆきと「うん!またな!」


ともはる「ねぇ、買えたらさ、実物見せてよ!」


ゆきと「うん!任せて!」


ともはる「待ってるな!」


2人はグータッチをして別れた。









翌日の放課後、ゆきとはまた書店へ行って真っ白い本を探した


ゆきと「ないかな〜、やっぱり誰かが買っちゃったのかな…?」


数十分探しているがなかなか見つからない。ゆきとは今日は諦めて帰ろうとした。その時、レジの隣の棚に背表紙が真っ白な本を見つけた


ゆきと「もしかして…!」


ゆきとはその棚に駆け寄り、本を手に取った。その本は表紙は真っ白だ。


ゆきと「あった!」


ゆきとは達成感を感じ、スキップでレジの店員さんに渡した


ゆきと「お願いします!」


店員「はい」


店員はゆきとから受け取った真っ白な本を見て首を傾げた


店員「お客様…こちら当店にあった物ですかね…?」


ゆきと「はい、そうですけど…」


ゆきとは戸惑いながら答える。この本は売り物じゃないのか?もしかしたら買えないかもしれない。そんな不安が押し寄せながら店員の返答を待った。


店員「どの棚にありましたかね…?」


ゆきと「えっと、この棚です」


ゆきとはレジの隣にある棚を指差す。すると店員は戸惑いが吹っ切れた表情になった。


店員「お手数おかけしてすみませんでした。こちら、980円になります」


ゆきと「あ、はい」


ゆきとは会計を済ませ、店員から本を受け取った。そして書店を出る


ゆきと「買えた…!」


一瞬どうなるかと思ったが、無事買うことができてゆきとは安心した


ゆきと「あ、ともはるに報告しないと!」


ゆきとはポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。




ゆきと:無事買えたよ!


ともはる:まじ?!じゃあ明日持ってきて!


ゆきと:了解!!




ゆきとはこのトーク画面を見て嬉しそうな笑みを浮かべ、スマホをポケットにしまうと家へ帰った。





家に帰って、ゆきとは自分の部屋で先ほど買った真っ白い本を見つめていた


ゆきと「…これってどんな本なんだろ…」


ゆきとは買ったものの、特に読む気にはならなかった。しかし、文字もイラストも書いてないただ真っ白な表紙のため、中身が気になる。ゆきとはパラパラッとページをめくってみた。


ゆきと「…中も真っ白なんだ…」


なんと、どのページも白紙だったのだ。


ゆきと「まぁ所詮は人を幸せにする本だからね」


人を幸せにする本も普通に読める物だったら良かったがそうはいかないらしい。ゆきとはその真っ白い本を勉強机の上に置いて、夕飯を食べにダイニングへ行った







夜、ゆきとは寝ていたが、なにか息苦しさを感じて目が覚めた


ゆきと「なんだろ…この感じ…」


ゆきとは起き上がると、寝起きの重い目を擦った。すると、部屋の隅に誰かが立っているのが見えた。


ゆきと「…誰?」


ゆきとはよく見てみると微笑んでいる白いずきんを被った少女が立っていた。


ゆきと(そういえば、幸せにする魔法をかけてくれる女の子が出るってともはるが言っていたな)


彼女がそうなのだろう。ゆきとは笑みを浮かべた。


ゆきと「君が幸せの魔法をかける女の子だろ?」


ゆきとは問いかけるが、少女は微笑んだまま動じない。そんな少女を奇妙に思い、ゆきとは少女を見つめた。すると急激に眠気が襲ってきて気を失ってしまった。




翌日、とある家に救急車やパトカーが止まっていた。そこの家に住んでいる中学生の少年が今朝、首のない状態の遺体として発見されたのだ。その家の周りには人々が集まっていて、その中にともはるがいた。


ともはる「あの本は幸せになるものじゃないの…?」


ともはるは絶望したように膝から崩れ落ちて泣いた。


その様子を少し離れたところから見ている少年がいた。ワザワイだ。


ワザワイ「やっと買ってくれたよ…」


ワザワイは「はぁ…」とため息をつき、そのあと微笑んだ


ワザワイ「みんなあの白い本買わないんだもん。でも、間違った噂を流して良かった」


白い本を買うと幸せになれるという噂を流したのはワザワイだ。実際はその本を買うと、白いずきんの少女が現れ、首を取られてしまうのだ。


ワザワイ「まぁ、"死遭わせ"にすれば間違いじゃないか!今回は僕頑張ったな〜!」


ワザワイはそう言うと、クルッと振り返り、跳ねるようにこの町を去っていった

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