悪魔のテディベア

けいと「あい、お誕生日おめでとう」


小学6年生の倖田 圭人(こうだ けいと)は、今日10歳の誕生日を迎えた妹の愛(あい)に微笑んだ。


あい「ありがと!お兄ちゃん!」


けいと「もう10歳とか早いね」


あい「親みたいなこと言ってるw」


あいはクスッと笑った。


けいと「だって小さい頃からずっとそばにいるじゃないか」


あい「まぁ、それもそっか!」


けいと「じゃあリビング行こ。お母さんたちが待っているよ」


あいは起きたばかりでまだ部屋に入ってきたけいととしか会っていない。


あい「わかった!着替えてから行くって言っておいて!」


けいと「オッケー」


けいとはあいの部屋を出てリビングへ行って、両親と共にあいを待った。




数分後、あいがリビングへ来た。


あい「おはよー!」


母「あい、お誕生日おめでとう」


父「おめでとう。もう10歳なんだなー。」


あい「なんかお兄ちゃんもそんなこと言ってたよ〜」


あいは笑う。それに釣られてけいとも両親も笑った。


母「あい、これはお父さんとお母さんからのプレゼントよ」


母親はテーブルの下からキレイに包装された箱を取り出し、あいに渡した


あい「えー!ありがとう!なんだろー!開けていい?」


父「いいぞー!」


あい「やったー!」


あいはキラキラした目で包装紙を外していく。そして、白い箱が現れた。


母「その箱の中にあるわよ」


あい「うん!」


あいはパカっと箱の蓋を開けた。そして中を見たあいは目を輝かせた。


あい「可愛い〜!」


あいは箱の中のものを取り出す。箱に入っていたのはパステルカラーの水色やピンク、紫などでマーブル模様になっているテディベアだった。


けいと「へー、可愛いじゃん!良かったな、あい!」


あい「うん!お父さん、お母さん、ありがと!」


あいはそのテディベアをギューっと抱きしめた




13時頃、あいは出かける準備をしていた


母「あい、どこにいくの?」


あい「友達の家!私の誕生日パーティーを開いてくれるんだ!」


母「あらそうなの!良かったわね!」


けいと「そのくま、持っていくの?」


けいとはあいがテディベアを抱きしめていたことに気づき、問いかけた。


あい「うん!この子はもう私の友達だもん!」


あいは大事にテディベアを抱きしめる


けいと「めっちゃ気に入ってるな」


母「お母さん、とても嬉しいわ!」


母親はニコッと嬉しそうな笑みを浮かべる。


あい「じゃあ行ってくるね!」


あいは玄関を飛び出そうとした。


母「ちょっと待って!あなた1人じゃ危ないからお兄ちゃんと行きなさい!」


けいと「えぇ、俺ぇ?!」


けいとはまさか自分とは思ってなかった。


けいと「お母さんじゃないの?」


母「お母さん、夜のパーティーの準備で忙しいの。お父さんも今ケーキ買いに行っちゃってるから。けいと、お願いね!」


けいと「もー、わかったよ…」


けいとは仕方なくあいと一緒に行くことにした。


けいと「5時からパーティーを始めるって言ってたから4時40分頃に迎えに行くよ」


あい「うん!ありがと!お兄ちゃん!」


あいはルンルンと歩く。そんな妹を見てけいとは少し嬉しくなり、つい笑みを浮かべた


けいと「そのくま落とさないようになー」


あい「うん!しっかり抱きしめているから大丈夫だよ!」


あいは胸のところで抱きしめる動作をした


けいと「まぁ、あいなら大丈夫か!」


あいは大切なものは絶対汚したり落としたりしない。けいとは安心したら前を向いた。


少年「あー、このぬいぐるみはこの子の手に当たったんだね」


けいと「え?」


突然、前から歩いてきた中学生くらいの少年が2人の前で立ち止まった。その少年の頭にはツノが2本生えていて、綺麗な赤い瞳の左目には十字架が刻まれている。少年はあいの持っているテディベアを見つめた。


けいと「お、俺の妹に何の用なんだ?」


けいとは少年が怪しく感じて、あいを庇うように前に出る


少年「いや、このぬいぐるみが気になっただけだよ」


あい「このぬいぐるみが?可愛いから?」


少年「違うよ。確かに可愛いけどね。」


あい「違うの?なんか他にある?」


けいと「ちょっと、あいは黙ってろ」


けいとは、あいが少年と普通に会話していることにゾッとして、あいを慌てて制する。そして少年を睨んだ。


けいと「あの、あなたは誰なんですか?」


少年「僕?僕は、怪夢 ワザワイ(かいむ ワザワイ)。」


すると、ワザワイはうっすらと笑みを浮かべてけいととあいを見た


ワザワイ「このままじゃ君の妹は危ないよ?もちろん君もね。」


けいと「ど、どういうことだよ!」


ワザワイ「それはこれから分かると思うよ」


ワザワイは「ふふっ」と笑った


あい「お兄ちゃん…怖いよ…」


あいを見ると、あいは怯えていてテディベアを強く抱きしめていた。けいとはそんな妹を安心させるため、優しい表情を見せる。


けいと「大丈夫だよ。ワザワイってやつはたぶんいたずらっ子なんだよ。多分俺らを怖がらせて楽しんでるんだ。」


あい「本当に…?」


けいと「あぁ。もし危ないことがあってもお兄ちゃんが助けるからさ。」


あい「…うん!」


あいは怯えた顔から笑みへと変わった。それをみてけいとは安心すると、ワザワイの方は顔を向けた


けいと「俺らを怖がらせて楽しいかよ?」


しかし、そこには誰もいない。


けいと「くそ!どこ行ったんだよ!」


けいとは周りを探すが、ワザワイはもうどこにもいなかった。


あい「お兄ちゃん、もういいよ!誕生日パーティー遅れちゃうから早く行こう!」


けいと「あ、そうだね、ごめん」


けいとはすっかりあいを送っていたことを忘れていた。慌ててあいと手を繋ぐと急いで友達の家へ行った







夜、あいは友達の家から帰ってきて、今は家族で豪華な食事を囲んでいた


けいと「わぁ!唐揚げがいっぱいだ!」


あい「すごいね!」


母「ふふっ!お母さん、今日は張り切っちゃった!」


父「それじゃ、乾杯するか!あい、誕生日おめでとう!」


父親の合図で家族みんなで乾杯をした。







けいと「あー!楽しかった!」


パーティーを終え、お風呂も入り終えたけいとはベッドに寝転がった。

パーティーはとても賑やかで誕生日じゃない自分もとても楽しめた。しかし、とあることが頭から離れず、モヤモヤしていた


けいと「…あのワザワイってやつは何で俺らに話しかけて来たんだよ…」


そう、ずっとワザワイのことが頭から離れなかった。ワザワイはこのままでは危ないと言っていた。それがどういう意味かはこれから分かると言っていたが、まだ分からないのだ。


けいと「あー、あいつのせいでー!」


けいとはワザワイに苛立ちを感じた。ワザワイのせいで今けいとはモヤモヤしているのだ。


けいと「はぁ…もう寝よ…こんなこと忘れてやる…」


こんなことしていてもどうにもならない。けいとは目を瞑り、眠りについた。







あい「ない!!どこ行っちゃったの?!」


深夜、けいとは隣のあいの部屋から突然大きな声が聞こえて目を覚ました。


けいと「…あい?どうしたの…?」


けいとは眠い目を擦りながらあいの部屋へ行く。すると、あいはけいとに駆け寄り体を揺さぶった


あい「お兄ちゃん!テディベアがない!!」


けいと「ええ?どっかに置いたんじゃないの?」


あい「私テディベアを抱いて寝たもん!しかも壁側にテディベアを置いたのにないの!」


けいと「はぁ…?」


けいとは意味がわからず、首を傾げた


けいと「とりあえず探そう」


あい「うん…!」


けいととあいは部屋の隅々まで探した。しかし、テディベアはどこにもない。


けいと「本当に抱いたのか?」


あい「うん!だって私、今日はテディベアをほとんど手放さなかったもん!」


けいと「んー…」


確かに1日中あいはテディベアを抱いていた。それがすぐ無くなるなんておかしい。落ちたのかと思いベッドの下を見たがテディベアは落ちていなかった。


けいと「…とりあえずリビングとかダイニングとか行ってみよう。もしかしたらそこにあるかも。」


あい「…うん」


あいは元気を無くしていた。けいとはあいが可哀想だと思った。誰だって大切なものがなくなったら悲しいはず。けいとはあいのためになんとかして見つけ出そうと思った。




けいととあいは階段を下りてリビングへ来る。


けいと「ありそうかな?」


けいとは辺りを見回すが、テディベアは無さそうだ。


あい「なんでないんだろう…」


けいと「…わかんない。お兄ちゃん、喉乾いたから水飲むね」


けいとはキッチンへ行った。すると、ボウルや包丁などが入った引き出しが開いていることに気づいた


けいと「なんで開いてるんだろ、お母さん閉め忘れたのかな?」


けいとは引き出しを閉めようとすると、ダイニングに何かが横切った影が見えた


けいと「えっ…!?」


あい「お兄ちゃん、どうしたの…?」


けいと「今、あそこに誰かいた気がするんだ。」


けいとは恐る恐るダイニングへ行く。そして明かりをつけた。しかし誰もいない


あい「気のせいだったんじゃないの?」


けいと「でも、ここを横切ったんだよ…」


すると、けいととあいはとあるものを見て目を見開いた。カーテンが一直線にパスッと切れていたのだ。


あい「これ、元々あったっけ…?」


けいと「いや、カーテン新しくしたばっかりだよ…」


すると、突然テレビが付き、砂嵐の音が響いた


あい「なんで?!」


けいと「あい、リモコン触ってないよな?」


あい「私触ってないよ!」


あいは恐怖でけいとにしがみつく。

けいとはそんなあいを抱きしめ、恐怖を感じながらも辺りを見回す。すると、ソファーの上に誰かが立っているような影が見えた


けいと「…くま…?」


ソファーに立っている影は熊の形だ。その影はけいとたちに近づいてくる。するとテレビの明かりに照らされ、姿が見えた。その姿を見てけいととあいはその場で固まった。影の正体は___あいのテディベアだったのだ。


あい「うそ…でしょ…」


けいと「そんなこと…あるわけ…」


すると、テディベアの手元が一瞬キラッと光った。よく見ると、その手には包丁が握られていた。


けいと「あぁ…あい…!」


あい「お兄ちゃん…!怖いよ…!」


けいとは震える手であいを抱きしめた。そのときテディベアは包丁を持った手を振り上げ、思いっきりけいととあいに向かって振り下ろした。


けいと&あい「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


2人の悲鳴が家中に響いたがそれは一瞬で静まった






数時間後、とある家の前にはたくさんのパトカーが止まっていた。玄関では泣きながら警察と話している女性がいる。


その家の向かい側にある家の屋根には少年が座っている。ワザワイだ。ワザワイはその家の様子を見て笑みを浮かべた


ワザワイ「あの兄妹は助からなかったんだなぁ〜」


ワザワイは立ち上がり、泣いている母親らしき女性を見た。


ワザワイ「…できれば全員犠牲になればよかったんだけど…まぁいっか!」


ワザワイは満足げな表情になる。

すると強い風が突然吹いた。そしてその風が止んだときにはもう屋根の上からワザワイの姿が消えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る