第42話 全・地・解・析 2
このお話は絶対にフィクションです。
科学的な考察に基づいたものではありません。
――――――――――――――――――――
惑星地球が存在する宇宙空間には、地球とは全く環境の異なる星々が数え切れぬほど……そのままの意味で『星の数ほど』存在している。
例えば……この地球から最も近い天体であるところの、惑星地球の衛星『月』。
白く静謐な表面には、大気成分がほとんど存在せず、当然酸素も二酸化炭素も存在しない。
そのため熱を溜め込むことが出来ず、昼夜の気温差が極めて大きい。昼は100℃を上回り、夜は氷点下170℃にも達するという。
私達のような『地球に住まう者』にとっては、常識外も甚だしい過酷な環境。
専用の防護服や装備無くして、ヒトが無防備なまま生存できる可能性など……よくよく考えるまでもなく、絶無であろう。
しかしそんな環境とは、あくまでも『地球と比較して』常識外という
大気をほぼ持たず、昼夜の温度差が200度を超え、重力は地球の2割弱。それが『月』での常識であり、あの荒涼とした風景こそが、あの星における日常の景色なのだ。
もし仮に、月に生命体が棲息していたとしたら……きっと彼らは地球の環境そのものを『常識外である』と認識することだろう。
つまるところ、どれ程『非常識』な存在であろうと。
我々の理解の及ばぬ彼方、未だ見ぬ『未知』へと目を向けてみれば……たとえ何が待ち受けて居ようとも、こうして有り得てしまうわけなのだ。
『…………推測。体内温度およそ3千℃、惑星地球地殻内深層部を回遊する『超好熱性生命体』による代謝である……と、結論付けます』
「その『超好熱性生命体』とやらが……例の『ΛD-ARKエネルギー』とやらを生成する生命体、ってことか?」
『肯定します。当艦ライブラリにも、類似する知的生命体の存在は登録されております。そちらは思考処理能力指数から二級智類に分類され、局地適応進化を果たした種が本ケースにおける『超好熱性生命体』の正体であり、当該種も同等程度の思考処理能力を備えるものと推測致します』
「適応進化を遂げた、ってことは……もはや有機生物には有り得ないな。いわばマントルの海を泳ぐ魚、か。……一体いつから……いや、そもそもどうやって入り込んだんだ」
地殻の内側、ドロドロに溶解した
温度差の規模こそ違えど、原生ヒト種が生身で極地に挑むようなものだ。体温の維持すら儘ならず凍死するだろうことは、想像に難くない。
当然、地上に棲まう生物とは根本的に異なる性質を持つものなのだろう。
高温で変質してしまう
その身体を維持するために、溶岩質の血液を巡らせているような……それこそ『常識では考えられない』生命体。
地球誕生以降、海から生じた生命の進化の歴史は、数多の学者達によって解き明かされてきたが……それはあくまでも地球の表層、ほんの一部を見てきたに過ぎない。
表層の地殻すら穿けぬ原生ヒト種には、到底観測不可能な地底領域での『常識』など、それはこうして『非常識なもの』と映ることだろう。
「かあさま、かあさま。当該超好熱性生命体の出自に関して、ワタシは情報開示とともに推測の提示を行うことが可能です」
「助かる。今は何でもいいから、とにかく判断材料が欲しい」
「んゥ、了解です。ワタシより、データ共有の同意を要求します」
「……これか。同意、っと………………なるほど、確かにコレは……スー」
『肯定します。極めて強い環境適応能力を備えた嫌水性珪素生命体の一種……ライブラリに該当データを確認致しました。大規模な隕石衝突事象によって地殻深部へと埋没、そのまま海水を避けるようにマントル部へと逃れ、長い時を経て適応進化を遂げたものと推測されます』
「原因として最も有り得る衝突事象、ってのは…………コレか? 今から20億と2300万年前……想像もつかないな」
「…………んゥ、諸元解説。……識別呼称【フレデフォート・インパクター】、推定直径20km、推定落着速度は秒速20km。落着のエネルギーによって惑星『チキュウ』地殻を表層よりおよそ25km付近まで破壊、高圧化した深部マントル層は活性化し対流が加速した……と、書いてました」
「博識だなぁ、偉いぞ。……まぁとにかく、そのときに生き残った超好熱性の珪素生命体が、地上に溢れる水分から逃げようと地下へ地下へと潜っていき……ついには地殻を貫いて辿り着いたマントルで悠々と暮らし始めた、と」
『肯定します。実物を視認した訳では無いため、当該生命体のディテールは不明。……ですが、惑星地球深層の環境特性から推測するに、紡錘形態を取る水棲生物型に近しいディテールであると結論付けます』
「マントルだもんなぁ……海水ほどサラサラじゃないだろうし、抵抗もスゴそうだ。……いやまぁ、姿形は別にどうでもいいんだけど……」
何にせよ、途方もない……全くもって想像の遥か上を行く話だ。
大まかな流れとしては、先日宇宙へと見送った【シーリン・ハイヴ】と同様……しかしその規模が圧倒的に巨大であり、かつ付着していた生命体の性質が大きく異なっていたということだろう。
超巨大な隕石によって運ばれ、まだ恐竜どころか脊椎動物など影も形も存在しなかった頃の地球へと落着し、そのまま地中深くまで叩き込まれた超好熱性生命体。
彼らは地殻の上に溢れる水気を嫌い、膨大な高熱を秘めるマントル層へと順応することを選び……あとは我々有機生命体同様、何億年もの年月を経て進化していったのだろう。
地上において
『ルルちゃん』が検知した気体サンプルには、例の『極めて強い環境適応能力を備えた嫌水性珪素生命体』の存在を示す特徴が表れているのだという。
我々有機生命体が代謝によって『二酸化炭素』を生じさせるようなものなのだろう。
少なくとも彼ら自身にとっては、我々にわざわざ危害を加えようと思っての所作では無いはずだ。
そもそもの話……仮にスーの観測と、ディンの知識による推測が正しかったとするならば。
我々と、そして何よりヒト種のほうが、この惑星では新参者である可能性が高まってしまっているのだから。
――――――――――――――――――――
※参考になるかはわかりませんが
某宇宙世紀の某アイランド型スペースコロニーは
直径6.5km✕全長40km程度と言われています。
人類が自らの行いに恐怖した事件のときのアレですね……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます