第41話 全・地・解・析 1



※このお話は絶対にフィクションです


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 この惑星にて生まれた私と、私によって生み出されたディンは、少なからず『地球』および『ヒト種』に関する順応性を持ち合わせていても可怪しくは無いのだが。


 一方こちらの……管制思考スー・デスタ10294に関しては、生まれも育ちも異星文明、純度百%の工業製品である。

 あくまでも道具として、前管理者たる異星人にとって都合の良い動作を求められてきたスーにとっては……ヒト種どころか生命体に寄り添った思考そのものが、これまでは不要と断ぜられたものであったのだろう。



 ……まぁ、だからどうしたという話だ。

 これまでがどうであれ、前任者からの扱いがどうであれ、この私の支配下に組み込まれたからには『前例』など考慮しない。


 今はこの私がスーの『上位支配者』であり、いわば生殺与奪の一切を握っている立場なのだ。

 私と、そして私同様に『支配者権限』所持者であるディンと二人がかりの連名ともなれば……まぁ可哀想かもしれなくも無いが、もはやに拒否権など無い。





「きゃ〜〜〜かわいい〜〜〜〜!!」


「くくくっ。…………どうだ? 華奢で小柄で儚げな体躯、お前さんの言うところの『不特定多数に好感を抱かれる造形』だぞ?」


「……………………uu……」




 原型機である私達と同様、微細な金属線で再現されたさらさらの綺麗な髪を、こちらは肩口のあたりできちっと揃え。

 状況俯瞰および情報収集能力に重きを置いた特殊仕様の、私達よりも高性能で透き通った、くりっと大きな瞳をもち。


 しかし私達とは異なり、感情を表すことは苦手であろう……表情筋を何割か削減オミットした愛らしい相貌を、今は確かな『羞恥』の色に染め。




『…………理解、致し……ワタシは、納得、致しました。……その、他個体の注視が遠隔端末ではなく……こうして『ワタシ自身』に、指向される、と、なりますと……これは……』


「どうだ、落ち着かんだろう? 私ら二人だけでそのザマじゃないか。もっと多くの人目に晒されたら……どうなっちゃうんだか」


『か、艦長ニグ…………』


「んへへぇ〜〜! スー、ちっちゃいスー! かわいいね! ワタシ、よしよしします!」


「ua…………!? …………uuu……」




 試作機プロトタイプであり汎用型である私の身体とも、派生機である観測特化【D型】であるディンの身体とも異なるその姿は……情報処理および広域通信網の構築を主眼とした、非戦闘型のスキャナータイプ【S型】の身体。


 型式番号【MODEL-Οδ-10294ARS-S】……少女然とした私達よりも更に小柄で、曰く『庇護欲を掻き立てる』造形の新型である。




「直接戦闘能力と機体剛性を幾らか削って、その分を母艦本体や私達との通信強度確保に宛てている。カタログスペックではラグもほぼ……というか、もはや『ゼロ』に落とし込めた。不自由はしないと思うんだが、どうだ? 通信強度に問題は無いか?」


『…………はい。肯定致します。通信レスポンス、非常に快適です。母艦演算主機と思考同調を構築、ステータスは良好に推移しております』


「はい! ワタシ、設計をがんばりました! スーの身体、母艦との連携、大切で重要です。通信関連素子および外部フィールド出力パネル、ハイパフォーマンスなものへ転換。……しかしその結果、頭部ブロック構成領域を圧迫……配置設計の見直しを必要、外観情報ヒト型を逸脱するのはダメ。……よって、苦渋の選択……代替表情筋および口腔機能を、一部削減。……ごめんね、スー」


『問題ございません。ディンの判断により、ワタシは強固な通信帯域の確保に成功しております。ワタシにとって『発声』機能の削減は、問題とはなり得ません。極めて効率的な選択であったと評価致します』


「…………まぁ私達であれば、こうして問題無く『声』が聞こえるし……仮に発声が堪能だったとして、今のスーが進んで他人とお喋りするとは思えんが」


「んゥー……お喋りしたい、なったら……ちゃんと新しい身体、用意します、ね?」


「そうだな。いざとなったらそういう手段もある。……この仕様で認可したのは私だ、ディン。あまり気負いするな」


「…………んゥ。……スー、だっこするね」


『ありがとうございます。ディン』



 とりあえず私達の服を着せられ、しかし随所にはサイズ的な余りが見られるその姿。

 内面たる管制思考の無感情を反映するかのように、限りなく無表情に近しい顔ではあるが……ディンに『だっこ』され身を委ねるその姿は、表情かおに出さずとも愛らしい。


 その身体機体を、能力数値的な部分から見てみると……まず何よりも特徴と言えるのが、強固な通信ラインの形成を最優先とし、『通信特化』ともいえる性能を秘めている点だろうか。

 私達は勿論、母艦や揚星艇キャンプ輸送艇ポーターとの連携も、これまで以上にスムーズに行えることだろう。

 またこの仕様によって、ススちゃんやテテちゃん達『どうぶつ班』の性能を、より効率的に扱うことができるようになった。


 ただしその反面……直接的な戦闘能力は、かなり低下しているという。

 各種高性能機器の搭載スペースを確保するため、骨格フレーム形状の見直しを図ったらしく……機体剛性は私達の78%、トルクは56%、素体運動性能に至っては34%にまで落ち込んでいるのだとか。


 ……まぁとはいえ、そもそも私達の出力がアレ過ぎるというのも無くはないのだが。

 直接戦闘に向いていない、とは言うが……それでも深度Ⅲ相当の魔物マモノ『通常種』の大半であれば殴り倒せるし、都心ビル街の屋上でパルクールを披露できる程度の出力は確保しているのだ。

 それに加え、上位機器の搭載によって高出力化された重力干渉機能が併されば……およそ不便することなど、まず無いだろう。



 しかしながら実際、スー単独で戦闘行為に臨むことはほぼ無いだろう。実働要員は私とディンが居れば事足りる。

 この身体はあくまでも非戦闘用、高度な演算処理と円滑な通信ラインの形成と……この情緒に欠ける管制思考に、有機生命体『ヒト種』としての情緒を育ませるためのもの。


 敢えて意地の悪い言い方をするならば……スーに『恥ずかしい思い』をさせるため、私達が企てた極秘プロジェクトなのだ。




「……というわけで、だ。統括管制機能は【S型】機体のほうが勝るわけだし、今後は制御中枢を極力【S型】に置くように」


『了解致しました』


「私達の意図してることは理解したと思うし……その機体に不足部分があれば、スーの思うように補って構わない。判断は任せる」


『…………はい。了解致しました』


「それじゃ早速、着衣の調達…………に、行きたいのもあるが……それよりも」


「んゥー…………フィールドワーク、調査結果の共有。ワタシたちの懸念する事象の精査を提案します」


「そうだな。……頼めるか? スー」


『はいっ。お任せ下さい』




 そうとも。スーに新たな身体を持たせたことなど、ただの私達の思いつき……いわば『お遊び』に過ぎない。

 先日の作戦行動の目的……わざわざ『ルルちゃん』を伴い、多くの人々の視線に晒されながら収集したデータは、スーの身体のためでは無い。




『…………推定。惑星地球原生知的生命体『ヒト種』が未だ遭遇していない、未知の生命体による代謝活動である……と、結論付けます』


未確認生命体UMAときたか。……まさかとは思うが、地底人……とか?」


『否定致します。類似データをライブラリより引用……生命体規模、思考智力強度、生命格カテゴリを第Ⅱ種相当と推定。……地球上の言語概念に変換……表現を行います』



 この惑星に生じている異変、魔物マモノを生み出す『ΛD-ARKエネルギー』の出処に関する調査結果。

 日本を含め、世界中の人々の生活を脅かす未知の存在……その正体とは。




『…………推定。惑星地球深層、マントル層にコロニーを形成する『先住知的生命体』である……と、ワタシは結論付けます』


「…………どんな奴らだ」


『…………別星体における類似ケース生命体の引用となりますが……地球表現に換算し、成体の体長は約百二十メートル前後、個体平均寿命は約千年』


「……………………それは、それは」


『……また、先刻の観測結果より推測。現在のようなコロニーの形成より……地球表現にて、少なくともは経過しているもの……と、判断致します』


「…………………………」





 この惑星『地球』が生まれてから今日までの、途方も無い長い期間を考えれば……人類が繁栄を謳歌する時代など、ほんの一瞬に過ぎないとはよく聞くが。


 それどころか……この惑星においては人類など、どうやらまだまだ新参者であったらしい。





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