第10話 状・況・俯・瞰 2
私が先のように、魔法少女達の上方庇護者
魔法少女や対災隊員の殉職はもちろんゼロ。また負傷や周辺への被害に関しても、昨年同月比でそれぞれ二割を切っているという……まぁ、驚異的な成果なのだとか。
これまでにもメッセージアプリケーション越しに、
そのことを改まって、面と向かって熱弁を振るわれると……なんというか、少々以上に
「だからねぇー、私たちのケガが減ったのも周囲への被害が減ったのも自己研鑽や訓練に集中できるようになったのも効率的に魔法少女を回せるようになったのもプライベートを充実させられるようになったのも若手に実戦経験させてあげやすくなったのも……もーぜんぶぜんぶぜぇーんぶ、アルファちゃんたちのおかげなんだよ。覚えといてね【
「はいっ!!」
「だからこうして、運よく『
「はいっ!!」
「待て待て待て待て待て待て待て」
なんなのだ、その……その『美味いものに目がない奴』とでもいうような扱いは。
距離感が縮まったのは喜ばしいことだと思っていたのだが……彼女ら魔法少女たちの中で、私は一体どんなやつだと思われているというのだ。
「えっとぉ……おいしいごはんに目がない可愛い子?」
「なん、っ」
「いやぁー、だって…………幸せそうに食べるからさぁ」
「………………そん、な……ことは」
無い…………とも、言い切れない。
そもそも我々の本拠点は地球外、成層圏のさらに外側の宇宙空間にて停泊中であるからして、当然『食』の類は乏しいなんてものじゃない。
異星文明は自炊の文化も極めて稚拙であったようで、艦内には炊事設備に類するものは見つからなかった。
今は亡き異星人どもの生態にさしたる興味は無いが……どうやら奴らは電気を主軸に、軟体金属や無機物類を時折摂取して身体を維持していたようだ。
以前一度齧ってみた感想としては、そのものずばり『木綿豆腐のような食感の鉄』である。クソマズもクソマズ、とても食えたものじゃない。
……まあ、そんなわけで。
地球文明の『食』というものは、私(と私に影響されたディン)にとって、極めて魅力的なものであることは確かなのだ。
確かに、たしかに、
そのときに顔か態度か、何かしらの形で『歓喜』の相が出ていたことは、ありえないとも言い切れない。
だって、しょうがないじゃないか。惑星地球の、日本の食事は魅力的なのだから。
ついつい顔に出てしまっても……それはそれで、仕方のないことであろう。美味いんだから、嬉しいのだから仕方無い。
「いーい、【
「はいっ!」「なんて?」
「【アルファ】ちゃんと【ディスカバリー】ちゃんとで対応やや変わるけど、基本的に二人ともおいしいものに目がないから」
「はいっ!」「………………」
「やーやーやー……うん、そのジト目最ッ高」
…………
いや……距離を置かれるよりは、ずっと良いのだろうが。
協働関係にある彼女達に親しみを持ってもらえているのは、それはそれで喜ばしいことなのだろうが。
「……そんでね、アルファちゃん。せっかくの機会だし、一度訊いとこうと思ったんだけど……良い?」
「内容によるな。私やディンの個人情報やらは一切吐く気無いが」
「いやいやいや、そんなデリカシー無いこと訊かないって。答えたくなかったらべつに、無理に答えなくてもいいからさぁー」
「…………メシの礼だ。言うだけ言ってみろ」
「ありがとぉー。……あのね? アルファちゃんは――」
ここ最近、魔法少女達による洗礼を受け続けてきた身としては……今回もその類だろうと、勝手に決めつけていた。
……つまるところ【
「アルファちゃんって…………もしかしなくても、大人の人……嫌い?」
「………………な、っ……!?」
「私らとは、こうしてお喋りとか……色々と気にしてくれてるじゃない? だけども……私らの司令室の面々とか、そういう大人の人たちからは、距離を取りたがってるように見えたから」
「…………だとしたら、何だ?」
……ああ、そうとも。肯定しよう、彼女の所感に間違いは無い。
私はあからさまに、この国の『大人』連中を毛嫌いしている。その自覚はある。
しかし……その半分以上がただの『八つ当たり』に過ぎないということも、同様にその自覚があるのだが。
自覚しておいて尚、態度がなかなか改まらないのだから……我が身ながら難儀なことだ。
私が目覚めて、母艦を制圧して、惑星地球の観察を始めて……現代の情勢を知ったと同時に、最初に抱いてしまった強い感情。
幼い少女達を戦わせ、日常を奪っておいて、自分達は平穏な後方で日常を享受している人々への……失望と、嫌悪感。
無論、全員が全員とは思わない。
思わないが……事実として危険な目に遭っているのは魔法少女達であり。
自ら体を張っている大人連中などというのは、対災隊や自衛隊のごく一部でしかなく。
それどころか……他の大多数は、そんな彼女らの献身を『娯楽』の一つとして消費している節さえ窺える。
何よりも始末に負えないのが……そんな『魔法少女達の献身を娯楽として消費する』仕組みを打ち立て、旗を振り催行している張本人が、この国の行政機関であるということだ。
「……あぁ、認めよう。私は大人を……いや、違うか。一部の例外を除いた、ほぼ全ての人々のことを……少なからず嫌っているんだろうな」
「どうして、とか……聞かないほうが良いよね」
「あぁ、そうしてくれ。……すまない、ちょっと…………冷静に話せる自信が無い」
「いやいやいや……こっちこそデリカシー無かったわ。…………ごめんね、嫌なこと思い出させちゃって」
「…………いや、別に………………うん?」
「でも、これだけは言っておくね。…………嫌いなのに……嫌いな人たちなのに、守ってくれて……ありがとう」
「……別に、心から嫌ってるわけじゃない。ただ私が、それこそ子供の
「…………ありがとうね、アルファちゃん」
「別に………………世話になってるからな、あなた達『魔法少女』には」
恐らくは……彼女たちの上役と私とを、どうにかして引き合わせようと考えての問い掛けだったのだろう。
私が例の『司令室』とやらの接触を頑なに避けているのは、さすがに現場の魔法少女達は知る処であろう。打開のための協力を求められていたとしても、おかしくない。
貸与された
何かに付けて私達を誘い出そうとしている文面が幾度か届いたが、何の
そんな状況が続いていたこともあり……恐らくは魔法少女達の手を借りて、どうにか渡りを付けようとしていたのだろう。
まぁ今回のところは、私の癇癪の規模を知ってか取り敢えずは引き下がってくれたようだが……今後も同様のアプローチが無いとも限らない。
いや、こうして接触を図られた以上……またいずれ『来る』だろうことは明らかと言えよう。
…………そう長々と、いつまでも逃げ回ってばかりは居られないか。
私が嫌悪を抱いた人々、魔法少女達の元締。
……私もいい加減、覚悟を決めるべきなのかもしれない。
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