装備スロットが足りないのでオデのちんちんに眼鏡をかけようと思うが、どうか
さめ72
ちんちん
「オデのちんちんに眼鏡をかけよう」
ダンジョンの最奥で、勇者たちは苦渋の決断を迫られていた。
◆
魔王を倒す旅路の途中、勇者たちは伝説の賢人たちの助力を授かるため、その試練を乗り越えんと各地にある祠を巡っていた。
4つある祠の最後に残された――『知恵の祠』。
ダンジョンとなっているその最奥に、かつての賢人は眠っている。
入った者は決して生きては出られぬ、死地への入り口。
比喩ではない。冒険心、好奇心、盗掘目当て――ありとあらゆる者たちがこの祠に足を踏み入れ、その骨肉を奉じた。
だが、4人の男たちは少しも怯まずその身を地獄に潜らせる。
無知ではない、虚栄ではない、蛮勇でもない。
その勇気が故に。
勇者。
魔法使い。
盗賊。
オデ。
知恵と力、そして並び立つ者なき勇気を備えた4人の偉丈夫。
彼らこそまさしく英雄であり、無数の踏破を成し遂げた最強の冒険者でもあった。
『知恵の祠』という名に恥じぬ、様々な趣向が凝らされた罠が口を開けて獲物を待ち構えていた。
『知恵の祠』という名に似合わぬ、並外れた膂力と凶暴性を持つ怪物たちが口を開けて獲物に襲いかかってきた。
悪意と死に満ちた人外魔境。
なるほど、生き残れる者はおるまい。
いるとしたのならば、それは勇者と呼ばれる存在にほかならぬだろう。
そして、彼らは真に勇者であった。
奥に行くほど減っていく先駆者達の躯を踏み越えながら――やがてその残滓は、遂に途絶える。
祠の最奥――賢人が待つその扉に、勇者たちは遂に辿り着いたのだ。
思わず鬨の声を上げる男たち。
帰りの事など忘れて、今はただこの偉業を為した己を、仲間を讃えたかった。
「……おや?」
だが、魔法使いの一人が目敏く気付く。
扉に古き言葉で掘られた一文。
「……『扉は知恵ある者のみ通す』……?」
――試練はまだ終わっていない。
「……どういう事だろう?」
勇者は首をひねる。
知恵ある者のみ通す、などと言われても扉を開けてしまえば――
そう思い、扉に手を掛けるが……ビクともしない。
まるで一枚の岩のように、その扉は頑として口を開かなかった。
今度は盗賊がコツコツとその扉を手慣れた様子で叩く
「おいおい……ここまで来たってェのになんでェこりゃあ」
鍵開け出来そうな錠前もその気配もない。
やはり、なんらかの仕掛けがあると考えるのが妥当だろう。
「ふーむ……」
2人に続いて、魔法使いがその扉に触れると――
閉じた扉が魔法使いを飲み込んだ。
「ウワーッ!?」
驚いて悲鳴を上げる魔法使い。
男たちはその安否を確かめるより先に扉に向かって武器を叩きつける。
勇者が剣で斬りつけ、盗賊が小型の爆弾を発破し、オデが拳で殴りつける。
それでも――びくともしない。
勇者が最後の手段と魔力を込め――
「ま、待ってください! 私は無事です、通り抜けただけですよ! 奥に階段があります!」
扉の奥から聞こえる魔法使いの声に、ふうっと場の空気が緩む。
今から出るので攻撃しないでくださいねと念を押され、3人が見守る中で魔法使いが恐る恐るとその扉から顔を出した。
「――『扉は知恵ある者のみ通す』。そのままの意味か」
「ええ。直感ですが、どうやらステータスで言うところの『知力』を参照にしているのではと」
なんだいそりゃあ――盗賊が扉を蹴り飛ばして悪態をつく。
無理からぬことである。
最後の最後にこんな仕掛けを施すのなら――入り口の時点で弾けば良いのだ。
性格が悪すぎる。
「知恵が足りてねェのはコイツなんじゃねえのか!?」
まぁまぁと宥めながらも、パーティの気持ちは一つだ。
こんな足切りをされたのでは、試練も何もあったものではない。
手詰まりになった一行、それでも脳は汗をかき続けている。
こういった時こそ、仲間たちで話し合って、知恵を出し合うのだ。
知力はなくとも知恵はある、それが勇者というものである。
「あっ」
勇者に電流が走る。
ピンと閃く考えがあった。
「もしかしたら――装備で誤魔化せるんじゃないか」
あっ――今度は仲間たちが声を揃えた。
試練というのだからすっかり自前の素養の事だとばかり思っていたが、確かに装備による補正で扉の基準値を上回った場合は検証していない。
早速と言わんばかりに勇者は、魔法使いが纏っていた『知力』を底上げする
そして、恐る恐る扉に手をかざすと――
するり
――通り抜けた。
2度目の歓声が上がる。
希望が見えてきた。
装備を外した状態でも通り抜けられる事が判明した魔法使いはそのままに、勇者の権能の一つである
「この感じだと薬品での
「おい勇者、そんなら
「ありましたねえ~! 勿体なくて使わず取っておいたら、今更使ってもしょうがない感じでなんか残っちゃってるヤツですよね」
奇しくも旅の思い出とその武勇伝を語らう機会を得た4人の男たち。
ダンジョンの奥底とは思えぬ和やかな空気で検証は続いていく――
◆
それから暫くの刻が経つ。
4人の男たちはすっかり頭を抱えていた。
「だ、ダメだ……」
「どうしてもオデが抜けられない……!!」
そう、オデがどうしても抜けられない。
基準となる知力の大凡の基準は分かった、アイテムも揃っている、その上で――
計算上、どうやってもオデが通り抜けられる組み合わせが見つからない。
両手の全ての指に知力補正効果のある指輪をつけ、同じ効果のネックレス、外套、杖、果てには兜の上に帽子を被せ、その他諸々を合わせても――足りない。
あるいは腕が4本あればもっと指輪を装備できたのだが。
アイテム自体はあるのに、単純に装備する箇所が完全に足りていない。
「ご、ごめんだど……オデのせいで……」
久々にオデが口を開く。
元々無口な性質ではあったが、扉の文字の時点で嫌な予感はしていたのだろう。
「それを言うなら、私にもっと筋肉があればって話になっちゃうじゃないですか。言いっこなしですよ」
魔法使いが窘めるように慰め、他の二人もうんうんと頷いて同意する。
実際の所、オデの力はここに到着するまで大いに頼りになった。
幾度も無双の百人力に救われた彼らの中に、この程度の事態でオデを糾弾しようなどという者は誰一人いない。
「お前を置いていくって選択肢が無いのは、そもそもお前が強いからだからな」
「賢人ってなんで『ケヒャアーーーーッッッ!! その力……確かめさせてもらいますよォーーーッッ!!』とか言って襲いかかってくるんでしょうね」
そう、賢人は大体なぜか襲いかかってくる。
今まではなんとかそれを調伏せしめて助力を取り付けたが、もしオデ無しだったら――そう思うとゾッとしない場面は多い。
だからこそ、なんとかオデを連れて行こうとしている側面は大きい。
確かにそれもある、あるが――
だが、それ以上に。
「それに、ここまで来て最後は仲間ハズレなんて無しだろ? 僕たちは無敵の勇者4人組なんだから」
勇者が笑い、魔法使いが微笑みで同意し、盗賊が照れ臭そうに鼻を掻く。
オデもまた少し涙ぐみながら頷いた。
手はないではない。
飽くまで最終手段にしておきたかったが――
「この眼鏡――しかないよな……」
「……ですよねえ」
――『
とある邪神を崇拝していた教団の隠し部屋で見つけた、片眼鏡でありながら二組ある謎の装備品である。
鑑定結果によると、絶大な知力補正を得られることが分かっているのだが――
「絶対ェ~~~呪われてる~~~~」
「だよなぁ……」
如何にも怪しい。
保管されていた場所もそうだが、高すぎる知力補正が胡散臭すぎる。
もう見るからに呪われていたので、あえてわざわざ金を払ってまで鑑定する事も無く仕舞い込んでいた。
尻込みしていたのは、オデよりもむしろ他の3人である。
これしか手はないと分かっていても、やはりこんな得体の知れない品を仲間に装備させるのは躊躇われた。
「オ、オデは大丈夫だど……! その眼鏡……貸してくれ……!」
オデが意を決したように手を差し出す。
そう言われてはもはや何も返せない、男の覚悟に口を挟むのも野暮だ。
不承不承ながら、勇者はその『
「じゃあ……行くど!!」
「はい! いざという時はすぐ
不測の事態に備えて、魔法使いが杖を構える。
呪いの根幹を断つ事は出来ないが、
もちろん、オデの傍には勇者と盗賊がすぐさま動けるように
オデが頷き、ゆっくりと両目に片眼鏡を嵌める――
その瞬間、片眼鏡が強烈な光を放つ。
眩むような閃光の中、オデの口がゆっくりと開いた。
「人間……愚カ!! オデ……人間、滅ボス!! ウオオオオオオオオオオオオ」
「マズいッ!! 眼鏡によって知力が上がりすぎている!!」
「知力とかいう問題かなあ!?」
「はい
◆
ハアハアと息を切らす4人。
なんとか眼鏡を引き剥がすことには成功したが、満身創痍である。
「まさかこういう感じで知力が上がるとは……」
「知力っていうか……思想っていうか……」
「この案はダメですね……」
「で、でも……知力が上がってる感じはしたど……!」
それは確かにそうなのだろう、呪いの効果は予想外のものだったが、鑑定結果が嘘を付く事は早々ない。
どうにかして装備できれば――
「そうは言ってもなあ……」
あの呪いをどうにかする手段もないのでは、別の策を考えた方がよっぽど有意義だ。
人類滅ぼそうとしている一人称オデの奴と並んで賢人と戦うのは怖すぎる。
とはいえ、他に案がないからこそこんな博打に挑んだのだという前提は、4人に重く伸し掛かった
「……一つだけ、手があるど」
3人が弾かれたようにオデに振り返る。
驚いた、こういった時オデが作戦を提案するという事は今までに無かった。
寡黙であり、知力こそ低いが、決して愚かではないオデによる腹案である。
ごくり、と固い唾を呑む音が、沈黙に3つ響く。
その一言一句を聞き逃すまいとする3人に、オデが提案する作戦とは――
「オデのちんちんに眼鏡をかけよう」
「ちんちんに!?」
「ちんちんに!?」
「ちんちんに!?」
その時、歴史が動いた。
◆
装備するという概念は、簡単なようでいて難しい。
例えば剣ならば手に持てば良いだろう、帽子ならば被れば良い。
だが――指輪を足の指に着けて発動するだろうか、腕輪を足に着けて発動するだろうか、篭手を左右逆に着けても発動するだろうか。
答えは一つだ。
わからない。
特に一般に流通されていないような特殊な
では。
――ちんちんに眼鏡をかけたところで、果たして成立するのだろうか?
答えは一つだ。
わからない。
それは、冒険者たちの方言で「試す価値あり」という意味である。
「ねえよ」
盗賊の声が響く。
だが、オデの強い意志を孕んだ瞳は少しも揺らぐ事はない。
確かに――と、魔法使いは口を開く。
「もしこの『
「ねえよ」
「しかし、呪いが消える訳じゃないだろう? 結局ちんちんから眼鏡を外すだけになるんじゃないのか?」
「そ、その可能性はあるど……だ、だけど、オデはあの光で意識を奪われた感じがしたど……ちんちんなら、或いは……!!」
「ねえよ」
「……しかし、それでは……!!」
「ああ――オデは、この祠を巡る旅の最後を――フルチンで締めくくる事になる」
「……ッ!」
思わず勇者は息を呑む。
この祠を巡る度は、魔王を倒す旅路のほんの道程にすぎない。
だが、それでも数年はかけた旅だ。
その思い出を――フルチンで締めくくる。
なんたる悲劇だろうか。
その青春において、ちんちんはきっと大きく居座り続けるだろう。
「――
魔法使いの残酷な問いに、オデはゆっくりと目を閉じて――
頷いた。
「ああ――オデは、フルチンで戦う」
「俺達はフルチンと一緒に戦うことになるんですけど」
決意に満ちた瞳を止められる者は、誰もいなかった。
◆
「じゃあ……行くど!!」
ズボンを脱ぎ捨てフルチンとなったオデが、3人が固唾を呑んで見守る中ゆっくりとちんちんに『
『
これで概念上は『嵌める』だけではなく『かける』という行為に該当できるはずだ。
そしてオデが、ちんちんに眼鏡を――『かけた』。
またしても眩く輝く
『
その
「成功か!?」
「まだです!! 意識が残っていなければ――!!」
「失敗しててくれ」
祈りを込めてオデのちんちんから、その顔に視線を上げる。
オデの口が紡いだ言葉は――
「さあ、行くど! みんな!」
自信と誇りに満ち溢れたその英雄の笑顔に、疑う余地は無かった。
彼は邪神の呪いに打ち勝ったのだ。
虚しくその光を輝かせる
『
後はこの意地の悪い罠を仕組んだ賢人を打ち倒すのみ。
「行くぞ!!」
勇者の号令と共に、4人は先の見えない階段を駆け上がる。
暗闇の中で、知恵と勇気で道を切り開く者。
故に、彼らは――無敵の勇者4人組なのだ。
「ケヒャアーーーーッッッ!! その力……確かめさせてもらッ
ちんちんが光ってる!!!!!!!!!!!!!!
グオオオオオオオオオ馬鹿なこの知恵の賢人がグオオオオオオオオオ」
きっとこの思い出も、いつか笑い話になる。
彼らが離れることはないのだから。
彼らは決して――
終わり
装備スロットが足りないのでオデのちんちんに眼鏡をかけようと思うが、どうか さめ72 @SAMEX_1u2y
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます