保安官と農民 その10

「イーハー! いいね〜、宙光。あんたも殺意を込めて相手を屠るようになったじゃねーか。我は同じ吸血鬼として嬉しいぜ。」

 ユウキリスは宙光は褒め称えながら、侍の一人を踏み殺していた。それに対して、宙光は階層にいた最後の3人を殴り飛ばしていた。

「今の私に迷いはないのだ!」

「……いよいよ、皇帝の間だ。」

 二人は再び階段をのぼると、大きな門が立ちはだかった。宙光は状況を分析した。

「門には莫大な魔力が込められている。」

「あんたを信頼しているからはっきり言うぜ。我一人でも、あんた一人でもこの門を壊すどころか、開けるのも無理だ。」

 ユウキリスは手を広げながら、首を振った。だが、宙光に動揺は一切なかった。

「だが二人なら壊せる。だろ?」

 宙光は確認すると二人は同時に門に殺意を向けて、魔力を高め、拳を握った。

「イーハー!」「ふんんん!」

邪波ジャバ〜!」 「隕石メテオ〜!」

滅拳フィストォ‼︎」

 二つの拳が門を破壊した。

「イーハー! こいつは驚いた。今までの階層の部屋の数倍はでかいぜ!」

 部屋の先には金の布で包まれた老人が一人が玉座に座っていた。彼が紛れもなく、この時代の東武国の支配者、東武皇帝である。

「よくぞ来た。」

 老人は二人を歓迎した。ユウキリスはガニ股で接近する。

「おら、おら、おらー! よくぞ来た、じゃねんだよ、爺さんよ。我はユウキリスでこいつは羽山 宙光ってんだ。魔力で我らを門の前に引き寄せたのは紛れもなくあんただろう?」

「いかにも。余の力だ。」

「ケッ! どうせならこの部屋に引き寄せればよかったじゃねーか!」

「お前たちの腕を確かめたかった。だから我が兵と戦わせた。」

「はっきりと申し上げる!」

 宙光は声を荒げた。

「あなたがユウキリスの言う通りにすれば、我々は兵を殺さずに済んだ。」

「余は彼らに余のために戦い散るという名誉ある死を与えたのだ。」

「愚かな王であるあなたのお遊びで死ぬなど、名誉ではなく屈辱だあ!」

 宙光はそう言うと、拳を向けて狙いを定めた。

破滅の矢アストラあああ!」

 赤い光線が東武天皇の方へと解き放たれた。

「デコ、ピン!」

「なっ、はね返し、グアアアア!」

 宙光は皇帝のデコピンによって跳ね返されたビームを直撃してしまった。一方ユウキリスは東武皇帝に急接近した。

「俺のブーツには蛇が宿っているんだ!」

 ユウキリスは靴の裏が敵に見えるように足を構えた。

蛇足だそく怪光かいこう!」

 ユウキリスの靴裏から高密度の光が解き放たれた。

「なにー⁉︎」

 ユウキリスは驚きで叫んでいた。東武天皇は無傷でユウキリスの靴の裏を掴んでいたのだ。

「革でできた履き物か。いずれはこの国にも取り入れるのであろう。」

「はっ、離しやがれ!」

「床に軽く叩き潰そう。大丈夫。床は壊れても余の力で治る。」

「やめろおお!」

 ユウキリスは叫ぶなか、一筋の光が準備されていた。

破滅のアストロ波動破壊光線ブラスター!」

 宙光は破滅の矢アストラよりも強力な破壊光線を繰り出した。

「「うわあああ!」」

 二人の男が悲鳴をあげた。だがおかげで、ユウキリスは距離を置くことができた。

「てめええ! 我ごとやる気だったのか⁉︎」

「生き延びると信じていた。」

「……どうやら相手も生きてるみたいだぜ。」

 煙が おさまると、二人の吸血鬼は玉座から立ち上がる皇帝を目にした。

「かなり効いたな。喜んでよろしい。遊んでやる。」

 東武皇帝はそう言うと、立ち上がり、構えた。異変に気づいたユウキリスは口を開いた。

「気をつけな、宙光。こいつはでき…」

「王の前でよそ見は…」

 皇帝は掌底を放った。

「すかーん!」

「グアアア!」

 ユウキリスはぶっ飛ばされてしまった。

(こっ、この野郎⁉︎ 手から風圧を⁉︎)

「ふん!」

 宙光はユウキリスの背後に着き、受け止めた。

「大丈夫か?」

「礼を言うぜ、宙光。」

「油断するな! ふん!」

 宙光は手刀で飛んできた無数の矢を捌き、弾いた。

「矢では、私も、彼も、殺せぬ、おっと!」

 自身の顔を目掛けて放たれた矢の篦を手で掴んだ。だが、宙光は驚愕してしまった。

(矢先に火薬⁉︎ まずっ…)

ドカーンという爆発音と共に、宙光とついでにユウキリスはぶっ飛んでしまった。

「いでええ! おい、重いぞデカブツ! 我から降りろ!」

 ユウキリスは自身の上にのしかかってしまった宙光に文句を言った。

「……すまない。」

 宙光は謝りながら立ち上がって、構えた。

「距離が遠のいてしまった。二手に離れて、少しずつ接近することを提案する。」

「へいへい。」

「そなたら。」

 皇帝は急に近くに現れた。

「「うわああ!」」

 二人は思わず驚いてしまった。東武皇帝は思わず失笑した。

「ふふ、可愛らしいとこがあるではないか。……余に仕えぬか。ユウキリス、そなたは余の剣に、そして宙光、そなたは余の盾になれるだろう。」

「「断る‼︎」」

 二人は即答した。

「残念である。」

 東武皇帝は残念そうに言うと、手に武器を宿した。

「なんだありゃ?」

 ユウキリスは戸惑っていた。

「変わった剣だ。」

 宙光は不思議そうに見ていた。

「ふふふ。」

 皇帝は笑っていた。

「光栄に思うがよい。あめの羽々はばきりの餌食になるのだから!」

 そう言うと、天羽々斬から二つの光がそれぞれの吸血鬼を襲い、捉え続けた。

「ぎゃあああああ!」

 ユウキリスは叫んだ。

「うぐぐぐぐぐぐ!」

 宙光も直撃して、耐え抜こうとしていた。

 その頃、階層をのぼっていた由紀と宙は異変に気づいていた。

「母上、急ぎましょう。このままでは、兄様とユウキリスが…」

「由紀…」

 宙はいきなり由紀の腕を掴み、走るのをやめた。

「母上?」

「アタシはあんたたちと同じ、子供の頃から貧しかった。でもお父ちゃんと出会えて、幸せだった。お前たちを産んで、幸せだった。お前たちを育てられて、幸せだった。でもお父ちゃんが死んだ時、すごく悲しかった。由紀…お前は人の心を読めるようになったんだね。」

 宙は自分の娘を愛を込めて抱き寄せた。

「遠慮なく覗きな。母の心を。お前なら…わかってくれるね。」

 心を読んだ由紀は涙をポロポロ流していた。

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