第7話 アラサーOL、歓喜に震え、舞う
セバスチャンヌが去り、独りになった私は、とおと、ふわんふわんのベッドにダイブする。
「うおおおおおおおおおおお!!! 凄い、凄いわ!!!! 私、ロンプリに! ロンプリの世界に転生したみたい!!!!!!!! きゃああああああああああああああ! 私がヴァイオラ!!! ヴィオランテなんて。第三皇女ヴィオランテ・マーガレット・グランセイバーよおおおおおおおおおおっほほいいいいいいいいいいほほほいほほほいほほほいほい!!!!!!!!」
私の大絶叫を聞いたセバスチャンヌが血相を変えてすぐさま戻ってきて再び扉を開け放つ。
「姫様!? どうされました!?」
「ちょっとベッドに飛び込んで跳ねまわりながら大騒ぎしていただけよ。わざわざそれぐらいで戻ってこないでちょうだいな」
「だから戻ってきたんですよ。今日着いたばかりの、敵国の王太子妃宮のベッドに飛び込んで大騒ぎしないで下さい」
「来た早々相手国の門番の無礼な視線に脛を蹴り上げた無頼メイドに言われたくないわね」
「姫様だって国境で出迎えにきた王国の護衛騎士達をぶっちぎって彼らのプライドをズタズタにして、単身来たんですから、第一印象の話はされたくありませんね」
「ああ、そうだったそうだった。ヴィオランテって本当、最初からじゃじゃ馬なのよね!」
「ヴィオランテは貴方様ですよ。姫様。もう、本当におかしくなられたのかしら。じゃあ、本当に出ていきますよ」
「分かったわよ。あ、いいこと? 貴方が出ていったらまたすぐに私は大騒ぎするけど、今度は戻って来なくていいから。ノックしても無視するからね」
「……大騒ぎはするんですね。はいはい」
なんだかんだでヴァイオラは規格外。じゃじゃ馬だからね。そんな奇行にもなんとなく慣れているセバスチャンヌの感じも、とても良い。
「それでは姫様、おくつろぎください~~~♪」
…………まただ。また、変な感じで出て行ったな。
モヤッとさせやがる。なんなんだろう。あの最後を「~~~~」って伸ばす感じな、台詞回し? 台詞回しなの?
原作ゲームでもアニメでもセバスチャンヌにはあんな癖はなかったけど。ここが一体何の世界かに関係しているのかしら。うむ。ゲームとアニメが混ざった世界? ということなのかもしれない。その辺りのコンテンツ力が複雑に重なりあっているに、違いないわ。うん。
まあいいわ。さあ、邪魔者もいなくなった所で、心置きなく、思い切りはしゃがせていただきますわよ。
「ヴィオランテ!!! 私はヴィオランテ!!!! ヴィオランテ・マーガレット・グランセイバー!! 綺麗!! 可愛い!! 凛々しい!! 瑞々しい!!! ええ! 何この顔、小さい!!! モデルみたい!? 何頭身あるの!? 肌も髪もツヤッツヤ!!! 銀髪って、シルバーブロンドなんて、現実で一度もみたことないわよ!!! はああああ! 拝みたいですぞ! 自分で自分を拝みたいですぞおおおおお!!!! いや、もう拝もう!!! 拝みますから!! ははああああああああああああああ~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」
私は大きな、凄く大きな鏡の前に移動して、何度も、何度も、何度も、自分の姿を見て両手を上げては下げてと、拝み散らした。勿論、鏡には涙をボロボロ流しながら自分を拝んでいるヴィオランテ姫の姿が映っているのだが。
尊み対象の顔を持ち、それを拝む。これぞセルフ拝みの極みだわ。ああ、満たされる。私はこの為に生きてきて、死んだに違いないわ。
大好きなゲームの中に入る。しかも推しのヒロインなんて、最高じゃありませんか。
大体最近の主流だとこれが処刑確定の悪役令嬢だったり、主人公じゃないライバルキャラだったりすることが多いのだけど。
実は「ロンプリ」には明確なライバルキャラが存在しないのだ。勿論、邪魔をしてきたり嫌味を言ってきたりするキャラや、殺そうとする勢力なんかは沢山いる。でもそれって要は「物理的な命の危機」ってだけで、ヴィオランテと恋仲になる攻略対象をどうにかしよう、なんていう恋のライバルキャラは登場しないのだ。
それも私が「ロンプリ」が好きな理由だ。
少女漫画でもよく出てくるライバルキャラ。男キャラと妙に馴れ馴れしく近づいてきて、勿論当て馬的扱いだったらそれでいいんだけど、いいんだけどね、最後はスカッとするし。だけど、自分が好きな人を奪おうとするライバルがいるなんて、それってただの現実じゃん。競争じゃん。ゲームの中でまでそんな現実の辛さを味わいたくない。
乙女ゲームをプレイする女性は、ただただ何の障害も妨害もなくモテる主人公に自身を投影させて楽しむものなのだから!!
いや、ライバルをこてんぱんにするのもいいけど!
そういうのが好きな人もいるけど!!!
まあ否定しないけどねその快感も!!!
「それもこのご尊顔様を見て意味が分かったわ。だって、誰も敵わないもの! 並大抵の女性キャラじゃ、このご尊顔様の横に並びたいなんて思うわけないじゃん。比べられる前に戦意喪失だわ。ひゃっひゃっひゃっひゃ!! ひゅーひゅー!!! ひゅーひゅーだよ!!!」
ベッドの上に登って異世界転生を謳歌する私。というか、さっきから身体が軽い。そうか、ヴィオランテは身体能力も高いキャラだから。
試しにひょっと宙返りをしてみた。出来る。凄い、ワイヤーアクションみたい。
「ひゃっほう!!! フィジカルも最高! 身体に羽が生えたみたいだぜ!! 生きてるって感じ!!!」
その間、コンコンコン、という扉をノックする音がしているのだが、私はびゅんびゅんとベッドの上を飛び跳ねるのに夢中で気がつく筈もない。
それにセバスチャンヌにも言っていた筈だ。もうノックをしても無視をすると。
「あっひゃああああああああああああああああああああ!!!! 最高ですううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!」
「……ええと、ヴィオランテ皇女、殿下?」
何度ノックしても返事をしない私を訝しんで扉を開けたのだろう。後ろから私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ああセバスチャンヌ!! だからもう戻ってこなくていいって言ったでしょう!? そういう所よ。そういう所が一部のファンから『男キャラと良い感じの所に大体お約束のように割り込んで入ってくる、彼氏と自宅デートで良い雰囲気の時に、最悪のタイミングでお茶菓子持って乱入してくるオカン』的な所で、あだ名が『セバスオカンヌ』って呼ばれるようになるんだから。私も呼んじゃうわよ。セバスオカンヌって。きゃははははははははははは!!!!!」
部屋に入ってきたのがセバスチャンヌだと思い、私は彼女を大いに嘲り笑う、のだが。
「…………ええと、すいません。お取込み中だったようですね。また、落ち着いてから出直し、ましょうか?」
そこには、赤髪の三つ編みメイドではなく、金髪の美青年が立っていた。
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