第6話 目覚めた先は……ゲームの中?

 確かに篠宮君と一緒に沢山のグッズを持っていた。そして車に轢かれる前、最後に私がそれを指さした。指さした、だけだけど。だから……なの?

 ひょっとしたらあれが原因で、あのグッズを媒体にして、何やら召喚ゲート的なアレが内在して、交わることのないどこかの平行世界との特異点があの瞬間に生まれて、私は「ロンプリ」の世界にやってきた、ということなのだろうか。


 うん、まったく非科学的で証明出来ないけど、でも、でも、実際に私はここにいるわけだから。

「じゃあ、じゃあ、あそこで私が『異世界凌辱おじさん』の単行本やDVDBOXを持っていたら、大変なことになっていたというわけかしら……。篠宮君のお陰で命びろいしたのかもしれないわね。もしその時、私が転生するのは、主人公のおじさんの草彅草衛門? ええ、おじさんの身体で9999本の触手とか耐えられるかしら……」


 『異世界凌辱おじさん』とは、ただただ異世界でおじさんが触手に永遠に凌辱されるだけの作品である。断じておじさんが美少女等を凌辱するようなけしからん作品ではない。

「……まあ、異世界でおじさんが触手に凌辱されるのが、けしかる・・・・作品とも一概には言えないけれど」

「え? お嬢様? 今なんと仰いました? 異世界凌辱おじさん? と仰いました?」

「ああ、いえいえ。なにも仰っていなくて、わよ」


 まあ、なんにしても危なかったわ……。これも篠宮君のお陰だね。

 ただ、とんでもないことが起きている。それは間違いない。


 そう、楽しむべき事態ではないことなのは分かっている。

 現実の私はどうなっているのか、死んでいるのか、昏睡状態なのか。ひょっとしたら昏睡状態の私が見ているただの幸せな夢かもしれない。篠宮君はどうなっているのか、ちゃんと私があげた作品を鑑賞しているのか。原作ゲームは一体誰から攻略するつもりなのか等々、色々と解明されないことが多い事態。

 ワクワクしちゃいけない。

 しちゃいけないってことは大人として分かってはいるんだけど。

 だけど、だけど。正直、オラ、ワクワクすっぞ。


「……セバスチャンヌちゃん」

「……もう、お嬢様、昔からその呼び方はやめて下さいって言っているでしょう」

 ああ、このやり取り、原作通りだわ。セバスチャンヌとは子供の頃から姉妹の様に育ってきたものね。その頃からセバスチャンヌちゃん、と言ってからかっていたんだもの。だけど、このメイドは祖国である帝国の命により敵国に嫁ぐこととなった私、つまりヴィオランテについてきている。

 侯爵令嬢という、家名も捨て、家族も捨て、啖呵を切って辞めている。それは後のエピソードNO538「ヴィオランテ、初めてのシチュー作り」で明かされるんだけど。

 この娘だけは絶対にヴィオランテを裏切らない。時に妹の様に甘え、時に姉の様に叱ってくれ、そしていつもそばにいてくれる、「ロンプリ」内の女性キャラの中でもダントツで人気なポジションである。

 勿論、私も大好き。

 ヴィオランテとしてこれまでの生を生きてきた「私」ともに共通認識である。


「あの、何か私をガン見しながらずっとブツブツ仰ってます? 姫様? 本当に大丈夫ですか?」


 いつの間にか思っていることが声に出てしまっていたらしい。いけないいけない。訝し気な表情のセバスチャンヌに、私は冷静に告げる。

「……ちょっと、長旅で疲れたみたい。悪いけど、一人にしてくれないかしら」

「あら、珍しいことを言うんですね。まあ、私もこの宮廷の召使い共が本当、分かりやすく嫌がらせをしてくるので、もう既に門番2人に執事5人、メイド8人をボコボコにぶちのめしてやりましたよ。うちの姫様をなめるんじゃないですよ!」

 そう一人ごとをプリプリ言い、腕まくりをした後、金ぴかで大きな扉を片手で軽々と開け放つ。あれだけ小柄でも流石帝国で代々英傑を生み、騎士団長を輩出してきた名門、ソシオンヌ侯爵家の血筋である。

「勿論、姫様はこの私が守ります。ですが油断なさらないで下さい。この結婚は我が帝国からしますと政略結婚であり、生贄でありますが、王国からしますとひと時の定かではない平和の約束と引き換えに、爆薬と頭痛の種と面倒ごとを一遍に引き受けたのと同等のイベントですから」

「ああ、そうだったわね。ま、まあ、王国にとっても、私が厄介事以外のなにものでもないのは認めるけど」

 私は原作を思い出しながらその言葉を口にする。その台詞にセバスチャンヌはクスリと笑った。


 そして、最後に私の方を振り返ると、恭しくスカートの端を持ち上げ、こう言ったのだ。



「それでは姫様。どうぞ、ごゆっくり~~~~♪」



 そしてセバスチャンヌは部屋を後にした。




 …………ん? 今、何か最後の台詞に妙な雰囲気があったけど、なんなんだろう。セバスチャンヌって、去り際にあんなおふざけをするようなキャラだっけ? 訛り? 訛りなのかな。うん。分からない。






 …………まあいいや。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る