第4話 ロマンスの予感、からの人生の終わり、からのはじまり
本屋を出て、近くの居酒屋に向かう間も、私達のロンプリトークは止まらない。
「篠宮君は、ロンプリの何が好きなの」
「そうですね。やはりヴィオランテ姫の気高さ、といいますか、凛々しさが格好良いですよね。その、乙女ゲーの主人公なのに、男前というところが……」
「そうよね! 本当格好良いわ、ヴァイオラ……推せる。最高のヒロイン。ヒロインとヒーローを併せ持つ、まさにヒーローインだわ」
「フィンセント王太子も、また気弱そうで情けない様に見えますけど、芯は強くてしっかり王国のことを考えているのが……」
「良いのよね! 凄く頭良いし。ていうか実際フィン様ぐらいしか賢いキャラいないんじゃない。本当、勿体ないわよね……。篠宮君、ありがとう、フィン様のこと、分かってくれて……」
「あ、いえ……。ど、どういたしまして」
そして、ヴィオランテとフィン様の関係が、このゲームの少し長いプロローグへと繋がっていくのであった。いくのよねー。最高。
――美しい。タイトル回収から何から、素敵すぎるわ。
まさに『ロンリネスプリンセス』(孤独な姫)のタイトルに相応しい。
「だけどプロデューサーの柳田諒氏が最初タイトルを『ドロープリンセス』にしようかと悩んだという話は有名よね」
「へー。ドロープリンセス、だったんですね? …………ああ、なるほど。そういうことか」
ロングプロローグを体験している私と篠宮君はその意味を理解して、うんうんと頷きあった。あ、楽しいかもこの瞬間。
ドローっていうのは、あまり日本人には馴染みがない単語だから柳田諒氏が泣く泣くロンリネスプリンセスにしたというのはかなり有名な逸話である。
「まあ、どうでもいいけど、そうなると私もロンリネスプリンセスになっちゃうんだけど。流石にドローではないけど。おひとりさまって意味だったらね。うーん。別に悩んでもないけど」
「あ、あはは」
あ、これは完全に気を使わせて笑わせてしまっている。いけない。うーん、若い子との会話は難しいわ。私が34で、篠宮君は25、とかだよね。いやいや、犯罪じゃん。完全に。篠宮君が小学1年生の時に私高校1年生だからね。駄目よ。絶対駄目。だけど、それでもロンプリはこうやって私達を繋いでくれるのだから、ロンプリの偉大さが目に染みるぜ。
篠宮君が私に気を使って、また質問をしてくれる。
「千佳先輩って、趣味は何かあるんですか?」
「うーん。剣道、は最近サボりがち、だけど。ご存じの通り、アニメとゲームは好きかな」
「音楽は何か聞かないんですか?」
「もちろん、アニソンが好きよ」
「あ、じゃあ、今度カラオケでもい、行きませんか?」
そう篠宮君に誘われたが、私は直ぐに顔をしかめて首を横にブンブンと振る。
「カラオケ? ああ、ダメダメ。私、歌が苦手で」
力強く拒絶されたと思ったのか、篠宮君が泣きそうな表情になってしまった。それを見て私もなんだか慌てて訂正する。
「あ、違うの。私、歌があんまり上手じゃないって意味で。そういう意味で、苦手なんだ」
「あ、そうなんですか」
「音楽の成績は2だったからね。音楽聞くのも、声優様も好きだけど、自分の声は好きじゃないしさ。だから、カラオケじゃなかったら、全然大丈夫だけど……。カラオケじゃなかったら!! 全然!」
そうして微笑むと、篠宮君は嬉しそうに頷いた。その後、意を決した様に顔を上げる。
「あ、あの。千佳先輩! 僕、その前から千佳先輩に、あ、憧れていて!!!
あれ? あれあれあれあれ…………
これって、なんだか良い雰囲気? かもしれない。恋愛漫画で見たことあるシチュエーションじゃない?
私にも青春が!?
しかも、しかも篠宮君。ロンプリ好きという共通の趣味があって。少し気弱だけど、カワイイ顔してるし。ああ、だけど年齢幾つ離れていたんだっけ? さっきも確認したけど、小学生一年の時に私高校一年じゃない。
これってれっきとした犯罪、よね。
だけど、私って昔から剣道一筋で殆ど恋愛なんかに奥手でやってきたじゃない? 学生が終わっても漫画やゲームに時間もお金も費やしてきたし(それは全く後悔ないんだけど)。だけど今は仕事も頑張っているんだから、そういうロマンスの一つや二つがあったって、悪くないよね? いや、だけど流石にこれだけ後輩っていうのはなーー。はーーー。ひゃーーー。
そんなことを混乱したお花畑な頭の中で考えていると、好事魔多しというものがこのことなのかは、分からないけど。総じてこういう時って、良くないことが起きるものなのかもしれない。私の眼鏡の端に光る物体を捉えた。
あれは……車だ。
とても早いスピードで私達に近づいてくる。どこからどうみても様子がおかしい。道路から私達のいる歩道目掛けて、突っ込んできている。
判断が遅れると完全に間に合わない段階だと咄嗟に察知する。
「篠宮君、あぶない!!」
私は篠宮君を突き飛ばした。あ、駄目だ。このまま私に突撃する。間に合わない、助からない。最後に何を言い残すべきだろうか。ああ、気の利いた言葉が浮かばない。
「感想、聞かせてね」
そう言って、篠宮君の持っているグッズを指さす。彼の瞳が動揺で震える。
「千佳先輩!!!!!!!!!!!!!」
それからの記憶はない。衝撃も走らなかった。何かに祈ったのかも、今となっては覚えていない。
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