第35話 K奈川県J事課の怠慢。障害者の公務災害は認められない。

高坂事務長が提出した公務災害の申請に「公務災害は認められない。」と地方公務員災害補償基金神奈川県支部(以下、「J事課」とする。)から返事が来た。

思ったとおりになった。

障害者は、仕事中に怪我をしても、障害のせいにして、公務災害には認められないのだ。

やり方が汚い。

なぜなら、普通、J事課は事故が起こった場所でその時の状況を再現して、写真を撮り(いわゆる実況見分)、J事課に送るのが決まりなのに、それも事務長に言ってこないまま、J事課は勝手に判断してしまったのだ。

高坂事務長によると、

「書類を提出したのに何も聞いてこなくて、おかしいな。」と思ったとのことだった。

人事課は、「障害がある人だから、それが原因で転んだんだろう。」の判断だったのだろう。

最初からその考え方でやっているから、ぬんの公務災害を認めない。

見て見ぬふり。

結局、最初からぬんの書類をチラ見して、上司に

「どうします?この人、障害者なんですよ。」

が結論だ。


「公務災害は認められない。」と書かれた紙に付随する、百数十枚のなぜそういう結果になったのかという理由を見た。

それには、Kず整形外科のH谷川医師が「前十字靭帯損傷の疑い」と書いたからだとのことだった。「疑い」なので、「前十字靭帯損傷」ではないとのことだった。

H谷川医師は、ぬんには「MRIだけだとわからない。」と言ってみたり、お年寄りがかかる「変形性膝関節症」だと言ってみたりした。

挙句の果て、県庁の公務災害に関わりたくないから、「前十字靭帯損傷」と書かないで、「前十字靭帯損傷の疑い」と書いたのだろう。

整形外科の医師なのに、MRIの画像を見ても判断できず、

「労働災害、受け付けます。」と書いてあってもいざとなると、逃げるなんてひどい医師だ。

医師の風上にも置けない。

でも、H谷川医師は、自分の能力がないために、人事課の杉尾さんに聞かれたとき、「じゃあ、前十字靭帯損傷の疑いにしましょう。」と中途半端な傷病名をつけたのかもしれない。

その後のページには、腫れというところも、ぬんには「腫れてますね。」と言ったくせに、その項目に「腫れはなかった。」と書いている。

どうして、そういう嘘を公然と書くことができるのだろうか。

医師としてのプライドはないのだろうか?

それとも、本当に医師としての技量がないのか?

長いものの杉尾さんが言うがままに書かされたのだろうか?

それでなければ、矛盾が多すぎる。

県庁と聞いておびえたのか、「そちらの思うとおりに書きますよ。」と言ったのかもしれない。

県庁に逆らって、開院したばかりの病院に何か不都合があっては困るかもしれないからだ。

「労働災害、受け付けます。」も労働者の味方ではなく、雇用者に言われて雇用者の味方で書いて、いるのかもしれない


J事課は、「もう少し転んだ時の状況を細かく調べてください。」もなく、「本人からもう少し細かく聞き取ってください。」もなく、H谷川医師が「前十字靭帯損傷の疑い」の「疑い」と書いただけで、認めなかったという。

高坂事務長が言った。

「霧野さん、神奈川県のJ事課なんてこんなもんですよ。職員の怪我のことなんてどうでもいいです。お金を払いたくないから、公務災害とわかっていても、『本人が悪い。』『本人に障害があった。』とか言うのですよ。手術したり、入院したり、長引いてお金がかかりそうな怪我は本人の不注意とか、持病とか、障害がある、とかのせいにするんですよ。」

こんなひどい傷を負わされていても、結局は、県がお金を払いたくないからか。。。

人一人の大けがよりもお金が大事なんだ。

篠崎君の自死の時も、お金を払いたくなさそうだったしなぁ。

人の命も命と思わないのかなぁ、うちの組織は。

ただひたすら情けない。

行政でありながら、ぬんを始め、県民を守れないのか。


高坂事務長からいろいろ人事課の情けない話は聞かされても、退勤中のことであり、勤務先の学校の生徒にされたことだから、どうしても納得がいかなくて、担当のJ事課の杉尾さんに聞いた。

すると、「だって、『前十字靭帯損傷の疑い』の『疑い』はまずいでしょう。霧野さんの整形外科のH谷川先生の回答には、『前十字靭帯損傷の疑い』って書いてあったんですよ。それに、霧野さんのレセプト、見せてもらったら、たくさんレセプトがあって、いろいろな病気で通院していますよね。膝が痛い理由は、学校の帰りに転んだからではないのでしょう。これらの年のせいでしょ。公務災害って言っているけれど、持っている障害のせいもあるのではないですか。障害を公務災害のせいにしてはいけないなあ(笑)。現に、N本大学病院の先生もM浦駅前整骨院のマッサージ師さんも「変形性膝関節症」で薬の処方をしているとレセプトに書いていますよ。」と言った。

(うわーこの人すごい。ハラスメントのオンパレードだ。病気がちな人は、ダメな人。「年のせいって何?」エージハラスメント?障害があると、即、公務災害じゃない?障害者ハラスメント?)

J事課の杉尾さんから出てくる一つ一つの言葉がぬんにとっては全て、刃物だった。滅多切り、この上ない。

ぬんの心は、ぼろぼろで、人間性のかけらもないK奈川県職員それもJ事課の言葉と思えないような惨めさだった。

でも、ここはしっかり聞こうと思って、よれよれになりながら聞いた。

「『レセプト』って何ですか?」

「あれ、霧野さん、『レセプト』も知らない?はは、じゃあ、教えてあげましょう。レセプトって言うのは、医療機関が患者に施した治療の費用の内訳を書いたものですよ。」

杉野さんはさんざん人をバカにした挙句、上から目線で言った。

(そういえば、S員厚生課の一ノ瀬さんが電話の時、言っていたな。「大体ね、霧野さん、病院にかかりすぎなんですよ。人事課から言われてレセプトのコピー取るのにすごい時間かかりましたよ。病気通いが多い人って嫌ですよね。おまけに今度は、公務災害で「前十字靭帯損傷」ですか。このレセプトの中の持病が原因なのではないんですか?本当に転んでなった傷ですか?」

「え、で、先生たち、そう書いているんですか?」ぬんは、一ノ瀬さんに聞き直した。初耳でびっくりした。

N本大学病院では大きな湿布を処方したこと、M浦駅前整骨院では足のマッサージをしたこと、の保険請求のために、本人が知らないうちに、「変形性膝関節症」にされていたとは。。。

でも、こんなことで、ぬんの持病を人事課とS員厚生課での笑いのネタにされ、ばかにされていたとは。)


「では、H谷川先生に「疑い」を晴らしてもらい、N本大学病院の先生とM浦駅前整骨院の整体師さんに「変形性膝関節症」はないと言ってもらえば、公務災害に認めてくれるのですね。」と

「まあ、そうですね。それぞれの先生がレセプトを直してくれるかですけどね(笑)。」と言った。


この言葉も、最後には嘘で固められた言葉であったことが分かった。

そんな嘘でかためられたことで、高校生に転ばされて痛い思いをして、年休と治療費を払って、持病の障害のことを笑われ、そんなことはされたくない。

人の障害のことをネタに笑う。最低だ。そんなことが許されていいはずはない。

K奈川県が言っている「共に生きる」って偽善なのか?それも人事課が先頭に立ってそんなことをして。

それから、ぬんの必死の調査が始まった。

N本大学病院のS先生もM浦整体医院のマッサージさんも薬の処方、マッサージの治療の際に、「変形性膝関節症」の病名を使って行ったとのことだった。

N本大学病院のS先生は、内部の倫理委員会で問題になったらしく、病院を辞めざるを得なくなった。

M浦整体医院は、保険請求を取り下げたとのことだった。

最後に一番重要なことで、Kず整形外科のH谷川医師が「前十字靭帯損傷」に「疑い」をつけたことだが、これは、直接、H谷川医師に聞きに行った。

H谷川医師は、このように言った。

「1回目は、痛み止めを打ったけど、そのあと数回した注射は、ヒアルロン酸だった。それでも、霧野さんが『痛みが薄らいでいるような気がする。』と言ったので、軽い「変形性膝関節症」だと思った。「前十字靭帯損傷」については、MRIの画像を見たが、自分にはきちんとした判断ができなかった。本当に申し訳なかった。霧野さんの治療は、整形外科医としてはもうこれ以上何もできない。」とのことだった。


つまり、H谷川医師が「疑い」と書いた理由は、ダメな整形外科医(医師としての能力がなかった?)だったから判断ができないからということだったわけだ。

ヒアルロン酸の注射を打っていたのに、患者のぬんには痛み止めを打っていると言っていた。

自信がないH谷川医師は、理学療法士に言って、ぬんに「前十字靭帯損傷」用の金属の骨が入った何万円もかかる装具を作った。

まったく理解できない話である。

こんないい加減な治療をして、人事課に聞かれたら怖くなったのか、「左前十字靭帯損傷」の「疑い」と書いたわけだ。

そのせいで、ぬんが公務中に怪我したのに、公務災害に認められなかった一因、いや、一因どころか、H長谷川先生のせいで、ぬんは公務災害にならなかったのだ。

技量がない医師には、もう絶対かかりたくない。

人事課の杉尾さんが言っていたH谷川先生の「前十字靭帯損傷の疑い」の「疑い」という回答については、状況はわかった。

よし!では、他の優秀な整形外科の先生に診てもらって、「前十字靭帯損傷」と診断して、もらえばいい、N本大学病院の先生もM浦整体医院のマッサージ師さんも「変形性膝関節症」ではないと言っている証拠の紙も書いてくれている。

人事課の杉尾さんとは、H谷川先生に「疑い」を晴らしてもらい、N本大学病院の先生とM浦整体医院のマッサージ師さんに「変形性膝関節症」はないと言ってもらえば、公務災害に認めてくれる約束だ。


でも、J事課の杉尾さんは約束を守らなかった。

公務なのに嘘をついた。

嘘つきだった。

攻めるべきは、J事課の杉尾さんの職務に対する向き合い方である。

自分の都合がいいように、K奈川県を裏切ったのである。

これはK奈川県の職員同士の中での裏切りだから、ゆるゆるとJ事課が揉み消したが、民間会社だったら、J事課の杉尾さんが犯した行為は、自分が勤務する会社で、ろくな調査もせず、H谷川先生のいい加減な「前十字靭帯損傷の(疑い)」という一人の医師のいい加減な判断、ろくに調べもしない仕事のやり方という怠慢な態度で他の職員のぬんを貶めたのだから、会社への裏切りでもある。


そして、そのいい加減な杉尾さんの調査(きちんとしていないが)を信じで一回、J事課長が決裁した「公務災害ではない」は変えようとしなかった。

レセプトが何枚もあるような持病がある、それで月2回通院している、そういう障害がある人の言ったことは信じないのだ。ぬんは、腹が立った。

これは、障害がある人達のためにも頑張らなければならない。

そうしなければ、いつまで経っても障害者差別は組織ぐるみで行われていくんだ。

「ともに生きる」という神奈川県の取り組みは、どうなっているんだ。

結局、対外的なパフォーマンスに過ぎなかったんだな。

本当に自分の組織がそんなことかと思うと、障害者に申し訳が立たなかった。

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