第29話  PケモンGO好きの小港GLは何と県お偉いさんの妻!さて、ぬんはどうなる?

S業流通課に異動して、1年経った。

同期の沼上くんが課長代理で異動してきた。

沼上君がS業流通課に異動するのが決まったとき、沼上君はぬんに「S業流通課の雰囲気はどう?」と聞いてきた。

ぬんは、K光課では、パワハラのため、居心地なんて口にもできなかったので、S業流通課の居心地は、それに比べればすごく良かったので、「うん、まあ快適。」と言った。


ぬんの仕事も商店街振興で、県内の商店街に出掛けては、集客のためのイベントをやったり、商店街でなければならない街の味など食べられたりして、なかなか楽しかったからである。

所属の場所も、同じフロアだったK光課の人員を増やすため、邪魔になったS業流通課をN本大通り7ビルに引っ越しさせた。

しかし、7ビルの5階は見晴らしもよく、大さん橋がきれいに見えた。

この所属に、同期の中でも新規採用時から同じ労働部で仲が良かった沼上君も来たので楽しい話し相手もできた。


でも、問題はいくつかあった。

沼上君と一緒に異動してきた千田課長はパワハラ人間の最低な人だった。

最初は、おとなしかった。良い人だった。

千田課長は、元Z政課だったので、課の全ての人がおそらく厳しい人だと思っていたが、笑いが優しい、角刈りの人だった。


ところが、どういう理由かわからないが、ある日から豹変した。

ぬんは、おそらく、この課は静かな人なので、怒鳴れば自分の思い通りになる、という独裁者の本性を現したのだと思った。

どうして、こうも自分の思い通りにしたい人ばかりいるのだろう。

少し偉くなると、人を傷つけたくなるのだろうか?

毎日、毎日、朝出勤してから所属を出るまで、沼上君とその下の副主幹の満山さんのことを怒鳴り続けていた。

決して、この二人が悪いことをしたとか、鈍かったとか、そういうことは一切ない。

議会のこと、予算のこと、庶務事務のこと、いろいろな面で、一日中怒鳴っていた。

課も一課だけ本庁舎から離れていたため、他の課に聞かれることなく、パワーハラスメントをしやすかったんだと思う。

「バカ野郎、おまえら、俺をなめてんのか!!」とか

「こんなこともわからないようなら、部屋から出て行けよっ。」とか、

机をバンバンたたきながら、とにかく、ひどい言葉の連続だった。

笑うこともなく、次から次へと二人を傷つけるようなことを言った。

千田課長が怒鳴っている間は、狭い空間の中で人みんな口をきけず、ピリピリとした空気の中、ただ無言で机に向かって凝り固まって仕事をしていた。


課内は次第に会話も無くなっていった。誰も笑わなくなった。

電話をしていても、千田課長の怒鳴り声が相手に聞こえるので、「霧野さん、誰か怒鳴っているの?」と度々聞かれた。

でも、課長が怒鳴っているとは言えず、「隣の部屋が民間の貸し部屋で結構賑やかなんだよね。」などと、適当なことを言ってごまかした。

ぬんは、毎日、高森さんに怒鳴られていたKながわNSB課のときを思い出さずにはいられなかった。

ぬんが3年間受け続けたパワーハラスメントは消そうと思っても消えない強烈なトラウマになり、決して簡単に記憶から消えることはなかった。

あんな近くで毎日、怒鳴られている沼上くんや満山さん、精神はおかしくならないのであろうか、少し離れた私の場所ですら耳栓をしたいくらいだった。


それにしても、毎日よく怒鳴ることがある。

普通の話し方で話しても十分わかることなのに、怒鳴りながら話すっていうことは、相手に威圧感を与えたいからだろうか。

トラウマがあるぬんは、千田課長が怒鳴り声をあげている間、腕はぶるぶると震え、心臓の動悸が収まらなかった。


そして、ぬんには、また別の悩みがあった。

ぬんに対する小港グループリーダーのパワーハラスメントである。

ぬんの班は、ぬん以外は中小企業診断士かもしくは市町村から交流で県に来ている人だった。

自分も中小企業診断士の小港さんは、中小企業診断士以外は、能力がないとよく言っていた。

そして、市町村交流の人はお客様だから大切にしないといけないと言う。

ということは、ぬんだけが該当しない人なのだ。

だから、雑用は全てぬんにやるように言ってきた。

例えば、商店街組合の組合長が部屋を訪ねてくる。

すると、小港さんがすぐに「霧野さん、お茶を淹れてくれる?」という。

ぬんは、もう下から3番目に座る身なんですけれど。

やっと、お茶を淹れる地位からあがったのですが。。。

でも、小港さんにとっては、そもそも考え方が違うのだ。

小港さんの考え方だと、

「霧野さんは、優秀な(中小企業)診断士の資格も持っていないし、市町村から来ているお客様でもないのよ。だから、あなたみたいに、何の資格も持っていない能力がない人がお茶を淹れていればいいのよ。」とのことだった。

ぬんは、中堅どころだったが、小港さん曰く、「知識も何も持っていないから、新人と同じ。それも女なんだから、お茶でも淹れれば。」というわけだったのである。

小港さんも女性なのに、よくそういう考え方ができる。

女性同士、同性によるセクシャルハラスメントをしているのだ。

それを公明正大にやっている。

中小企業診断士という知識が優秀な人であるはずなのに、そういうことをやってはいけない知識はないのだろうか。

腹が立つより、平然とそういうことを言ってくることに唖然とした。


他にも、小港さんにはその所業にびっくりさせられた。

何と仕事中に「pケモン・ゴー」というゲームをスマホでしているのだ。

それは、仕事の相談に小港さんの机のそばに行った時だった。

「よし、ゲット!」とスマホを見ながら言ったので、何をしているのかと見ると、「pケモン・ゴー」をやっていた。

もちろん、昼休みもブランドの大きなカバンを肩にかけて、「pケモン・ゴー」にやりに出かけていく。

まあ、昼休みは何をしようと自由だが、仕事中は、まずいだろう。

ぬんに、パワーハラスメント、セクシャルハラスメントをしている割には自分には超甘いのだ。

やはりご主人が偉い人だと、何をやっても許されるんだなと思った。


千田課長の言動があまりにひどかったからか、J事課が動いたのか、誰かが訴えたのか知らないが、千田課長は1年で異動となった。

はっきり言ってみんなほっとした。

千田課長に激しい怒鳴り声は、沼上さんや満山さんに対して目に余るものがあったし、同じ室内にいるうちの課にいる課員全員の心が深く傷ついていた。

自分が上の立場だろうと、下の人だって心がある。

決して人を傷つけてはいけない。

自分と考えが違うと言っても、一生懸命やっているのだから、一切、人の話を聞かず、理由もなしにただただ怒鳴っているだけでは、単にただのパワーハラスメントになってしまうのだ。


次に来た多田功次課長は、ぬんより年下のどこか頼りないおとなしい課長だった。

(ぬんより年下で、課長ってことは優秀なんだな。全くの偉くなる人コース!)

前の所属は、動物愛護センターの設立の仕事をやっていたとのことで、優しい感じだった。

7ビルの執務室の隣は県庁の会議室だった。

昼休みは利用者もいなかったことから、その部屋で囲碁などをして、のんびりとした楽しい課だった。

仕事は商店街振興だったが、ぬんは、S業流通課という名で仕事をしているので、商店街振興だけでなく、個店振興もしたいと考えていた。

しかし、S業流通課は商店街振興を主たる仕事としてやる課であると、中小企業診断士でグループリーダーの小港さんに言われた。

商店街に入っていなくても、役所の手助けが必要な個店はたくさんある。

でも、そういうお店は助けられないんだ。難しいな。

ぬんは、ちょっと考えてしまった。

でも、商店街振興、今の神奈川県では必要なことなんだ、きっと。


そして、3年目。

異動を決める時期が来た。

ぬんは、いろいろある課だけど、商店街の方々との関係も築かれつつあり、あと1年、あと1年はやりたいなと思った。

今、K奈川県庁は新規採用など若い方でなければ、通常4年で異動だし、異動の意向申告書にも「続けたい」って書いた。

ぬんの心は、やる気でいっぱいだった。

私をS業流通課に呼んでくれた鐘木さんの期待もあった。

鐘木さんに

「『万が一、異動してほしい』って言われたどうしましょう?」というと、「『絶対、異動したくない」っていうんだよ。まだあと1年間は異動しなくてもいいはずだから。』と言われた。

1月ぐらいになって、多田課長に呼ばれた。

「霧野さん、異動を望んでいる?」

「いいえ、S業流通課にいるつもりです。絶対に異動したくありません。まだ、3年目ですから。今の異動の周期は4年ってJ事課も通知を出していますし。あともう1年はいてもいいと思います。」

「でもね、霧野さんだけなんですよ。異動対象にできるの。あとみんな2年目だし、あと、2人は市町村の交流派遣だから年限決まっていますしね。」

「でも、何もうちの班で異動対象を絶対に作らなければならないのですか?全員が異動しなくたっていいわけですよね。現に、今までいた所属で一人も動かなかったという所属もありましたよ。それでいいのではないのではないですか?」

「でも、S業労働総務室の人事担当から「できれば異動できる人を一人作ってほしい。」って言われたんですよ。」

「私は残りたいです。まだやり残したこともあるし、やっと商店街の方々と信頼関係も結ばれてきたし。なぜ私が動かなければならないのですか?」

「・・・。」S務室の人事に何かある!!

ぬんは悟った。

人事から見ると、障害者で療養休暇も取っているし、簡単に「動かすのは霧野だな。」と思っていたのだろう。

人事でも、はっきりと言っては、問題になるので言わないが、ぬんが障害者だから、手っ取り早く動かしやすかった、それだけだ。

要は、S業労働S務室は障害者を一段も二段も下に見ていたんだ。

他の人は、中小企業診断士だし。

そして、多田課長は言った。

「じゃあ、こうしましょう。霧野さん。異動先はS業労働局本課希望。それに、副主幹への昇格も約束します。人事に約束させます。それなら、S業流通課から異動になってもいいですか?」

「多田課長、でも、私は、決して、異動したいとか、異動してもしなくてもどちらでもいい、とは言いませんよ。」

多田課長は、ニコッと笑っていった。「わかりました。」

鐘木さんは「どうだった?」と聞いてきた。

「動きたくないとはっきり言ってきました。」

鐘木さんは、「それでいいよ。まだ3年目なんだし。なんで、霧野さんをそんなに出したいんだ。

S業労働総務室の人事は何を考えているんだ。

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