第28話 S業流通課への異動。守山さんの悪魔への豹変。そして、篠崎さんの自死。

次の4月が来て、やっと異動。

障害があるぬんを三人(関わった人はもっといたが、積極的にぬんにいじめを行った人)と過ごしたK光課から逃れて、すべてが終わった。

ぬんは、顎関節の手術をした後、障害がある身にとなっていたところに、無理に無理を強いられ、そして、顔をヒールで傷つけられた。

そんなことで、直接的な肉体的暴力でとことん障害者になってしまった体と、傷つきされ続けて原型を失った心を持って、隣のS業流通課に異動した。

S業流通課は、少人数で明るい課だったが、そういう恵まれた課に異動したからといって、ぬんの心身は決してすぐには治らなかった。

行くところまで行ってしまったぬんの体は、痛み止めの注射や薬も効かない時期が続いた。


そんな時、グループの雰囲気が変わり、本来、我の強い自分を取り戻したのか、別人のようになった守山さんがスタスタと歩いてきた。

ぬんに向かって、いきなり「霧野さん、うちの課のイラストレーター返してください。」と大声で怒鳴ってきた。

二つあったイラストレーターというソフトの一つがないという話になり、小野さんが「霧野さんがK光課から盗んでS業流通課に持って行ってしまった。」と、守山さんに告げ口したようだった。

確かにぬんが持っていた。なぜなら、高森さんが、自分の机の中に入っていたイラストレーターのCD-ROMが入った入れ物をぬんの左頭に投げつけ、「こんなもん、バカが使うものよ。バカの霧野さんにはちょうどいいわ。バカなあなたしか使えないから、死ぬまでずっと持っていなさい。」と言ったからだ。

ぬんは盗んだわけではなく、頭に投げつけられたのだ。それも「バカな霧野にしか使えない。」とまで言われて。その様子だって、守山さんは全て知っていたくせに。

ぬんの上司ではなくなった守山さんは、豹変した。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。」とか「もともとおかしい頭がさらにおかしくなりました。申し訳ありません。」と精神的に病んだふりしていたくせに。

「霧野さんが、返してくれるまで、私は動きませんよ。」と言った。

守山さんが、あまりにも大声で、ヒステリックに言ったので、S業流通課の人は、何が起こったのか唖然として見ていた。

ぬんは、盗んだわけでなく、投げつけられたCD-ROMを引越の荷物に入れておいただけなのに「盗人」扱い。高森さんからひどい扱いを受けていたぬんに最後まで何もしてくれなかった守山さんがこの態度。

おまけに「盗んだ」言って良い言葉と悪い言葉がある。守山さんを名誉棄損罪として訴えたいくらいだ。

ぬんが机から出すと、守山さんは「ふん。」と言って、ぬんの手からひったくって行った。

ぬんが受けていたパワーハラスメントに何もしてくれなかった、守山さん。

「もともとおかしい頭がさらにおかしくなりました。申し訳ありません。」と精神的に病んだふりして、ぬんの話をまじめに聞かず、うまくかわしていた、守山さん。

おかしくなんてなっていなかったんだ。

ぬんがK浜急行に飛び込むか、どうしようか考えていた間、ぬんからの話をうまくかわすことばかり考えていたんだ。

高森さんは、ダイレクトにものを投げたり、いじわるなことを口に出して怒鳴っていたけれど、守山さんはもっとしたたかだったのかもしれない。

結局、ぬんが主治医からの診断書を出して直接受け取るのは守山さんで、こういうことをしたら病気が悪化するということを知っていたわけだから、守山さんが一番悪い。

同情していたのは「ふり」だけ?


K光課とS業流通課は、書類棚で区切られているだけの隣部屋だったが、そのあと、ぬんは、もうK光課に行きたくなかった、絶対に。

海田さんが言っていた

「霧野さん、今の仕事を覚えている最中で、大変なのです。はっきり言って、もう高森さんから受けた精神的なパワーハラスメントを思い出したくないのです。細川さんも小野さんも嫌なのです。それに、自分たちを守ってくれなかったグループリーダーの守山さんも許せないのです。」

と言った言葉の中の気持ちが痛いほどわかった。


ところで、ぬんがK光課で辛い3年目を送っているころ、前に記載したがC事室の篠崎さんも本口さんのパワーハラスメントによって、とうとう精神が破壊してしまったらしかった。

それでも、ぬんがC事室に行くとまじめに対応してくれたが、その対応の間も、本口さんは、ぬんと篠崎さんとの会話によく水を差してきた。

本口さんはぬんの直属の上司ではなかったので、ぬんは本口さんの話を聞いて、適当に笑っていた。

本口さんは、仕事での話に水を差してくるのではなく、「篠崎!お前、バカなんじゃないの?」などと個人の尊厳を傷つけることを言ってきた。

本口さんは、トップに期待され、担当課長、そして課長、次の年には部長になった人だったので、能力があったのかは不明だが、ふるまいは自信に満ちていた。

本口さんは、ぬんに対しては、高森さんの手前、嫌がらせをすることはなかったが、篠崎さんに対してはひどかった。

ぬんなら本口さんにあんなひどいことを毎日言われたら、K浜急行に飛び込んでしまうよな、でも耐えていてすごい、と思った。

ぬんがやっと下からも上からものパワハラにあっていたK光課をやっと抜け出した時、篠崎さんも、Z政課に異動になっていた。

でも、あんなひどい仕打ちを受けて、異動した先がZ政課???と思った。

仕事も忙しく、パワーハラスメントもひどかったC事室から逃れて、心がぼろぼろなのだから、何も県庁で一番厳しいと言われているZ政課に異動させなくてもいいのに。

J事課って本当にひどい。J事課がひどいと思ったのは、もう数えきれないけれど。

でも、嫌な予感は当たった。

異動したその年、篠崎さんは、自死した、とのことだった。

精神を病んでいると聞いていたが、案の定だった。

ぬんは、篠崎さんと仕事以外での関係があったわけではなかったので、細かい状況はわからない。

でも、あの本口さんの人を馬鹿にしたようなものの言い方、かと思えば、怒鳴り声、ぬんが見たところ、C事室の事務室には、味方は誰もいなかった。

ぬんと同じで、仕事という名目があるから言い返せない。

おかしくならない方が不思議だ。

ぬんと状況は一緒。

本口さん、篠崎さんを自死まで追い込んでしまって、責任を取れるのですか?

はっきり言って、あなたせいで、篠崎さんは自死したんですよ。

能力の無い本口さんが、トップのひいきだけで出世していたことなんて許せない。

今まで通りなんて絶対に許せない。

本口さん、自分の罪を認めて、明るい篠崎さんをどうぞ帰してください。


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