第23話 悪事が多すぎて。高森担当課長、辞めてください。。

香港でもひと騒動あったことを聞いた。

それは、Cケ崎で畜産を頑張っている須藤牧場さんが、今回の香港に出展していた。

須藤さんは、特別なルートで精肉して、Cケ崎牛として個人でブランド化して海外へ販売を試みようとしていた。

須藤さんは、以前からぬんの知り合いで、ぬんがお誘いしたこともあり、今回のフード・エキスポに出展してくれていた。

(生産者の知り合いが少ない高森さんが、ぬんの知り合いにフード・エキスポに出るように言ってほしいとのことで、出展してくれた人である。)


フード・エキスポの会場でも、まじめな須藤さんは一生懸命、自分の持ってきた牛肉のPRをしていた。

一緒に行った知り合いの商業者さんからの話だと、須藤さんは、最終日の終了時間ギリギリまで、自分の牧場の牛の肉を焼肉にして試食をふるまっていたとのことだった。

しかし、最終日だから、さっさと終わってビールを飲みたい高森さんは、打ち上げの飲み会を急いでいた。

いつものごとくヒールでドスドスとガニマタで歩き、須藤さんのブースと思ったら、いきなり残っていた大きな牛肉の塊を両素手でつかみ、ゴミ箱にドンと捨ててしまったそうである。

須藤さんは、大切に育ててきた牛の肉を最後の最後まで、香港のお客さんに味わってもらおうとしていたのに。

神奈川県のブースの他の商業者さんたちはそれを見て、驚くと同時に、須藤さんに同情し、猛烈な勢いで、高森さんに文句を言ったとのことだった。

そして、商業者さんたちがこんなひどい人に、自分の大切な商品の海外輸出を頼むなんて、到底任せられないと認識したときだったとのことである。

須藤さんは、ゴミ箱から肉の塊を拾いあげ、流しできれいに洗って、ラップにくるんで、しばらく眺めた後、きれいにビニール袋に入れて悔しそうにゴミ箱に入れたとのことだった。

その日の打ち上げ会は全く盛り上がらなかったが、はしゃいで楽しそうにしていたのは、高森さんだけだったという。

一緒に出展していた造り酒屋の残った大吟醸をがぶ飲みして大声で騒いでいたとのことだった。

もちろん須藤牧場の須藤さんは欠席だったという。


香港のフード・エクスポが終わり、高森さんと小野さんが帰ってきた。

私が苦労して、作り上げた仕事が一つ終わった。

高森さんは、「参加したみなさん、大喜びで、K奈川県の輸出にすごく貢献、できたわ。」と超ご機嫌だった。

「C事室に報告に行ってくる。」と言って、三階に上がっていった。

ぬんは、高森さんの喜び方があまりにも強烈だったので、何か起きなければいいが、と思っていた。


2,3日経って、高森さんのところに、畜産振興担当課長の髙木さんと須藤牧場の須藤さんがやってきた。

早くビールを飲みたいという自分の欲求だけの高森さんに、大切に育てた牛肉を捨てられたことに納得できず、神奈川県の畜産業の担当をしている畜産課長に訴えにきたらしい。

ぬんは、香港のその時の状況を畜産課にいる友人の森田さんに聞いていた。

「こんなことなら、私の大切な知り合いの須藤さんをフード・エクスポに誘わなければ良かった。ひどいことをしてしまった。」

ぬんは、ひどく後ろめたい気持ちでいっぱいだった。

畜産振興担当課長の髙木さんと須藤牧場の須藤さんがこのことを畜産課長に言いに来なければ、高森さんはこのひどい悪行を香港に行った人だけの中で揉み消していただろう。

飲み会という自分のわがままのために、善良な県民に迷惑をかけて許されるはずはない。

一緒に香港に行った小野さんが細川さんに

「やっぱりきたよぉ。でも、牛肉捨てられてもしょうがないんだよね。終了時間になっているのに、まだお客さんいるからって、高森さんの言うこと聞かなかったんだから。」

(そうではないでしょ。それでは済まないでしょう。小野さんは、本当にわかっていない。県職員がそういう風に県民を困らせるようなことはしてはいけない。小野さんは、その場にいたのに、何をしていたの?いつものように、高森さんに媚びへつらうことだけしていたの?)

大川部長も村田課長も交えて別部屋で一時間程度ぐらい話していただろうか、二人を送るときには、三人は深々頭を下げていた。

相当、きつく言われたのだろう。部長と課長が席に戻った後、高森さんも席に戻ってきた。

しかし、高森さんは反省の色もなく、

「あれだから素人はいやよ。こっちは須藤牧場さんのことだけ面倒を見ているわけではないのだから、やめてほしいわ。ほんと、迷惑。」と強気で言っていた。

香港事件はここでいったん終息したが、まだ、例の台湾での「S湘きんじろう」の事件はまだまだ終息を迎えていなかった。


何度もJA-Kながわ西湘の鈴野さんから電話がかかってきたが、最終的に高森さんはとうとうは居留守作戦になった。

「もう、気が利かない人たちなのよ。そのぐらいの運送代ぐらいJA-Kながわ西湘にもあるでしょうって言っているのに、『ありません。』って言うのよ。」

と自己正当化し、高森さんに絶対服従の小野さんに言っていた。

案の定、小野さんも

「最初、払うって言っていたのに、今になって払わないって、ひどいですよね。」と高森さんの気にいる答えを言っていた。

でも、「S湘きんじろう」を借りる際、「Kながわキンタロウ」を借りられなくて焦った高森さんが、

「運送代くらい県で持つから、貸してよ。」っていたのだろう。

でも、高森さんの考えだと台湾では段ボールに入ったままで出番のなかった「西湘きんじろう」の運送代を払う気になれなくなったのだろう。

結局、最終には、JA-Kながわ西湘の言っていることの方が正しいという大川部長と村田部長の判断で、運送代という公費をプライベートな個人の私費で補填した。

9万円を部長と課長と高森さんが3万円ずつ出し合って振り込んだとのことだった。

公費を私費で支払い、入金することは、県の財務規則では許されないことだ。

振り込み元は、「K奈川県S業労働局K光課」としたとのことである。

そんなことで偉くなるために失敗したくない大川部長と村田課長、自分のお小遣いで3万円払いたくない高森さんの心の中には様々な思惑があっただろうが、JA-Kながわ西湘には、「あくまでも公金で支払っています。」と言っただけで、数か月も伸ばしに伸ばし、鈴野部長から5、6回電話を受け、JA-Kながわ西湘の中でも大騒ぎになったことは、これで幕を閉じた。


ぬんは、まじめに生きてきた県職員生活で、いろいろな悪事の片棒を担がされているような気がして、気分が悪かった。

そのあとも、JA-Kながわ西湘は、「S湘きんじろう」が台湾で活躍している写真を、JAの新聞に掲載したいなどと言ってきたが、狭い段ボールに入って台湾往復しただけのかわいそうな「S湘きんじろう」の写真があるはずもなかった。

最初のうちは、「カメラが壊れたから、『S湘きんじろう』の写真はないです。」などとごまかしていたが、JA-Kながわ西湘も「S湘きんじろう」は日の目を見ず終わったのではないかと暗に気づいたらしく、洗濯代は請求してきたらしいが、写真を載せる話はいつの間にか何も言わなくなっていった。


次の年もまだ変わることなく、高森さんはいた。

相変わらず、虎の威をかった細川さんと小野さんという格下からのぬんへのいじめもひどくなり、二人に何か言えば、細川さんは、ぬんの言うことを無視し、小野さんは、「霧野さんがそういうバカなことを言うのですよ。」と高森さんにいちいち言いつけていた。


ぬんと同じようにパワハラに合い、「電車に飛び込もうか。」と言っていた海田さんは、運がいいことに、S業人材課に異動になった。

結局、ぬんは一人取り残されてしまった。

辛いことを話すことができない状況に置かれたとき、パワハラで自死した山上さんのことが頭を駆け巡った。

その山上さんのことをさんざん、「死ぬくらいなら、仕事を辞めた方がいいよ。命あっての人生だよ。」と言い続けてきたので、自分は死ねなかったが、G明寺の駅には何だか引き寄せられ、足が向いてしまった。

「山上君、ぬんは最近、あなたの気持ちがよくわかるようになってきた。」

と、つぶやきながら、ピカッと電気をつける先頭車両を見ていた。


ぬんは、時々、S業人材課に異動した海田さんのところに行った。

唯一、ぬんの現状を理解してくれる人だったからだ。

海田さんは、ぬんの話を黙って聞いていた。

心なしか、暗さを感じた。

「霧野さん、今の仕事を覚えている最中で、大変なのです。はっきり言って、もう高森さんから受けた精神的なパワーハラスメントを思い出したくないのです。細川さんも小野さんのことも思い出したくないんです。ただただ嫌なんです、もう。それに、自分たちを守ってくれなかったグループリーダーの守山さんも許せないのです。」と言った。

ぬんも毎日受ける高森さんからの精神的・肉体的のパワーハラスメント、そして、仕事にかこつけた、こなしきれない仕事量に人間として心を失いかけていたが、海田さんももうボロボロだったんだと思った。

ぬんは、海田さんがぬんを見ると県産品ブランドグループの嫌なことを思い出してしまうんだと気づいた。

そして、海田さんにパワーハラスメントの嫌な思いをもう思い出させたくないと思い、海田さんに会いに来るのはやめようと思った。

同じ思いを持っているたった一人の同志だと思っていたのに。


新しく異動してきた多田夕子K光課長も、二人の民間採用の担当課長に振り回されていた。

一人はもちろん高森さん。

もう一人は旅行会社から民間から採用された富山さんだった。

多田さんは、ぬんと同い年だったが女性を管理職にという県の方針で無理に格上げされた課長だった。

その多田さんが、民間企業で、かつ、外国の企業の中で、ひたすら自分の存在をアピールしてきた高森さんや富山さんに勝てるはずがない。いつも二人に振り回されていた。

おまけに、副課長も中田さんという、何だかうまく今の立場を得てしまったという人で、全く自分のはっきりとした考えを持たない人だったので、格は上だったが、実際は二人の民間採用の担当課長たちだが実際は、使われているようだった。

ぬんは何度も中田副課長に、高森担当課長のさんのパワーハラスメントを相談に行った。

中田副課長は、ぬんが高森担当課長ひどいパワーハラスメントを受けていることを知っているとはっきり言った。

ぬんが障害者であること知っていた。。

二つとも前任の副課長から引継ぎを受けていると言っていた。

しかし、だからと言って、高森さんが大声でぬんをののしっていても、

「高森さん、パワーハラスメントはやめようよ。」とはっきり言ってくれるわけでもなく、そして、おまけにそういうことへの問題意識が全くなかった。

そして、「霧野さん、パワハラなんかどこにもあるよ。適当に、適当にね。」とばかり言い続けた。

ぬんは、孤独だった。話を聞いてくれる上司は誰もいなかった。

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