第22話 K奈川県のパワハラ高森担当課長!何とかして。
ぬんの血まみれ事件の他にも、高森さんは次々、事件を起こした。
香港で、8月にある「フード・エキスポ」という展示会がある。
高森さんは、
「霧野さんは神奈川県内の地産地消に力を入れたいとのことだから、香港は関係ないわね。」
と言いながらも、着実に仕事をこなすぬんのところに、「フード・エキスポ」出展の書類を作成するように言ってきた。
「生産者や商業者とも霧野さんの方が仲いいから。」
という理由で、出店者との調整も全部振ってきた。
ぬんは、県内の地産地消の事務分担の他に、香港の展示会のことで毎晩夜中まで仕事をしていた。
おまけに、内密にC査課の本口さんから高森さんへと言ってくる企画書づくりがあった。
ぬんが、高森さんから難しい本口さんからの企画書をの作成を命じられて、悩んでいると、優しい海田さんは本来ぬんがやるべき県内の地産地消の仕事を一緒にやってくれた。
本庁舎二階の夜中の暗闇の中、二人の上だけ、薄暗い蛍光灯をつけて、黙りこくって仕事をした。
次の日にできていなければ、また高森さんから電話の受話器や分厚いY隣堂の文具カタログなどが飛んでくる。
その肉体的・精神的ハラスメントの辛さに涙が出た。
腕や足などは、青あざだらけだった。
「霧野さん、できましたか?」海田さんが声をかけてくれた。
「うーん、まだちょっと。」
「腹減ったから、Y野家でも行きませんか?」
「うん、そうだね。」
夜遅くのY野家には、仲間と思われる人が、点々と座り、会話もなくむしゃむしゃ食べていた。
「つゆだくで。」
夕食として惰性で食べるだけなので、流し込めるようつゆだくにする。
吉野家の人には申し訳ないけど、甘辛いつゆが美味しく、お肉の味を見るほど余裕がない。
ストレスなのか、疲れすぎか、フッと味を感じなくなる。
そこで、自分の味覚を試すかごとく、紅しょうがをこんもり山積みに載せる。
海田さんが
「うまかったですね。」
「そうだね。」
おなか一杯になると、一時(いっとき)、テンションが上がる。
職場の自席に戻り、ちょっとだけ海田さんとくだらないふざけた話をして、また、向かい合って仕事を始める。
「終電の時間だから帰ろうか。」
「もう少しで、けりが付くのですけどね。」
「でも、今、帰らないと徹夜になるけど。」
「うーん、そうですね。また、明日の朝のあの怒鳴り声に耐えられるよう、体を休めますか。霧野さんも、また、青あざができるかもしれませんしね。」
「やだー。もう、嫌だー。結構、痛いんだよ。ビクッとすると、心臓にも来るしね。」
「いつまで、担当課長のわがままに付き合うんだか。」
「そうよね。いじめの終わりが見えないって辛いよね。それに、細川と小野のあの態度。虎の威を借る狐たちかな。」
「あの人たちは、所詮、かわいそうな人たちですよ。能力がないから、怒鳴る虎に依存する。でもあーいう人に限って、偉くなる。J事課の目は節穴ですかね。それとも、J事課の人にコネがあるのか。バカは自分がおりこうさんに見えるためにバカを呼ぶのではないでしょうかね。」
「そして、私のように障害者は昇格させない。障害者差別。J 事課って、怖いね。一方で障害者差別してはいけないって言いながら、一番先頭だって障害者差別をしているんだから。誰のせいで、障害者にさせられたんだか、よくわかってないんじゃないの。」
「本当に、霧野さん、見ていて気の毒でしかないですよ。担当課長のヒールで顔に跡が残るような怪我させられておいて、J事課なんてなーんにも考えてくれないでしょ。管理職も見て見ぬふりだし。これが神奈川県庁の実態ですよ。だから、霧野さんのお友達?山上さんのように自死する人が出るんですよ。」
ぬんは、山上君のことを思い出して目がウルウルした。
(「山上くん、ぬんはそれプラス、肉体的暴力を受けているんだよ。上司やJ 事課も何もしてくれないし、どうしよう?このまま耐えるしかないのかな。」)
「本当に終電、やばくなってきました。霧野さん、帰りましょう。」
朝は、高森さんの怒号から始まる。
次の日、朝7時30分に行って、K産品ブランドグループのみんなの机を拭く。
出勤してきた小野さんが「霧野さん、ごくろうさまぁ。」とバカにした笑いを浮かべた。
高森さんが「おはよう!」と木のドアをバタンと勢いよく入ってきて、
「霧野さん、どう?県産品販売イベントの企画書できている?それから香港はどこまで進んでいるの?」
(ああ、始まった。)
「一つずつ説明します。」
「あーっ、うん。早くね。私、海外のことで忙しいのよ。」
県産品のイベントについては、高森さんの興味がないところなので、
「ちょっとぉ、もう少しましな企画、無いの。」と言いつつ、
「お願いだから、私に恥かかせないでよ。」と言った。
香港の話になると、ぬんの知り合いの生産者さんや商業者さんの連絡先を無理やり、聞き出し、ぬんには連絡させず、高森さんがさもさも昔からの知り合いかのように親しげに
「あ、高森です。県のブランド戦略課の課長だった、思い出してくれましたぁ?」
相手が「あー。」といっているのか、
「そうそう、私が行ったとき、一緒に牛に餌をやらせてもらいましたよねー。」
とわざとらしいお友達感を出しながら、香港のフード・エキスポ出展へ誘っていた。
(うわー、絶対、嘘、嘘だよ。)
高森担当課長の嘘がすっごく嫌になる。
相手が、「行く気がない。」とか「お金に余裕がない。」とか言って断られると、
「霧野さんから、誘ってみてくれない。霧野さんなら『うん』って言ってくれるかもしれない。」と珍しく甘ったれた声で言った。
高森さんに、誰に電話したいのか聞いて、電話をする。
相手に、最近の商売の状況を聞いたりしていると、左隣から、
「それで、行くのっ、行かないのっ。聞くのは、それだけでいいから。」
それじゃ、引き受けようと思っても、あの怒号では、みんな「あ、やめます。」と切ってしまう。
すると、「霧野さん、あなた、仕事やる気があるの?あなたのせいで、断られちゃったじゃないの。どう責任取るの?」
(もう、これ以上、精神的いじめはやめてほしい。まじめに思った。)
「全くもう、本当に霧野さんは使えない。だめな人よ。役立たずなんだから!」
書類の束を持って、バタバタとまたどこへともなくいなくなった。
今日は、C査課の本口さんと何があったのか知らなかったが、帰ってきた後は、大荒れに荒れていた。
何かがあったのだろう。
(何かが飛んできませんように、怪我しませんように、祈るだけだった。)
そこへ「S湘きんじろう」の輸送費返還問題の電話が、JA-KながわS湘の鈴野さんからかかかってきた。
「予算がないから、払えないんです。だっていいでしょう。『S湘きんじろう』のPRしてきてあげたんだから、KながわS湘が払っても。では、よろしくお願いいたしますっ。」
また、投げた受話器がきちんと収まらず、またこちらに飛んできた。
ゴン!そして、ぬんの左頭に当たった。
(左頭は、これ以上やめてくださいって言ってますよね。担当課長の暴力のこと、管理職の方々、誰かまじめに何とかしてください。)
今回は、流血しなかったので、森口さんも見て見ぬふりだった。
いつものごとく、18時30分ごろ。
「何か、目新しい企画書、作っておいてね。本口さんが『いいですね。』というようなもの。明日まででいいわ。明日の朝まででいいから。」
まただ、「明日でいいわ」は、今日中に仕上げなければだめなんだ。
そして、また、海田さんと二人の夜がやってくる。
毎日いや、一分一分、肉体的・精神的な暴力を振るわれ、誰の味方もなく、上司も見て見ぬふり。
あてにならないことは知っていたが、誰か助けてくれる人がいるのではないかと、最後の希望をかけて、J事課がやっている「公正・透明」に相談してみる。
「K光課の副課長に言っておきます。それで高森担当課長に話してもらって・・・」
「もういいです。前もそうでしたが、「公正・透明」に高森担当課長の暴力のことで私が相談して、それを「公正・透明」の方が、「霧野さんから、『高森担当課長から毎日、言葉による暴力と肉体的暴力を受けています。何とかしてください』と言ってきました。中田副課長が仲介に入って、高森担当課長と霧野さんでよーく話し合ってください。」なんて言ったら、今度は顔の流血だけでは済まなく、体中、ヒールでひっぱたかれて流血だらけになってしまうかもしれない。(あー、J事課、やはり全く無駄だった。)
こういう時、普通はどうするのだろうか?
最近、よくニュースで、女性のプロレスの選手の話や宝塚歌劇団の人の話で上司や周囲の人のハラスメントで自殺して、その人の親が訴えたりしているが、私も自殺して親にそうしてもらうのだろうか。
民間会社だったら、労働基準監督署に訴えるところだが、神奈川県はJ事課の仲間のJ事委員会がその役割をしているのだから、全く意味がない。
J事課とJ事委員会は、仲間同士だからな。こっちが不利だろうな、きっと。
弁護士の方に頼みたいが、神奈川県庁の中の話だからなあ、弁護士の方も勝手にやってくれって感じだろうか。
今日も二人だけ残った薄暗い蛍光灯の光と静寂の中、海田さんと向かいあって、どちらかともなく話し出した。
二人とも既に心が壊れていた。
「霧野さん、僕、明日から来なくなるかもしれません。最近、急行を見ると引き付けられるんです。」
「あ、海田さんも?」
「何で、霧野さんと僕だけ、あんなに高森さんに怒鳴られるのかなと思って。僕たち、何か悪いことしているんでしょうか?」
「海田さん。私も最近、G明寺の駅の下りのホームの一番前のところに立ったことが、何回もあるの。K速特急が来るたびに『今度は飛び込もうかな。今度は飛び込もうかな。』と見ているの。」
「霧野さんも・・・ですか?」
「高森さんに精神的にもいじめられ、肉体的にも暴力を振られ、怒鳴られ、仕事は頼られっぱなしなのに、企画を作ればぐちゃぐちゃにけなされ、でも、結局その企画をやることになって。なんだかバカみたいって思ってしまうの。
おまけに、高森さんが私をバカにするから、細川さんや小野さんからもバカにされて、逆パワハラもいいところ。はっきり言って辛い。」
何だかただただむなしくて、ぬんは鼻をすすった。
「K急線のG明寺駅ってK特に飛び込めば必ず死ねるって聞いたから、ここのところ、何度も出掛けてる。ホームの先に近づくと、電車がライトに光らせる、警笛鳴らされて。『何やっているの、ぬん。高森さんのために死んだら、「無駄死に」になっちゃう。』と思うの。」
「でも、霧野さん。僕、本当に辛いです。毎日毎日ここまで仕事をしていて、それでも『仕事ができない。』『まじめにやってない。』と高森担当課長から怒鳴られて。
お互い、次の日来なかったら、電車に飛び込んだんだと思いましょう。そして、棺に入った顔見たら、『海田さん、やっと高森担当課長に怒鳴られなくなって幸せになったんだね。』と思ってください。」
そのような話をした。
その日は、0時近くまで仕事をして、二人で駅まで行き、「お疲れさまっ!」と言って、別れた。本当に今日も疲れた。
8月になりフード・エクスポまであと2週間という時がやってきた。
ぬんは、今回こそはこんなに香港の仕事をやってきたんだから、行かせてもらえると思った。
ぬんは、英語もそこそこ話せるし、販売のノウハウもある、香港の地理感もある、極めつけは、私が全て作り上げた仕事だったからだ。
でも、またもや高森さんは、
「今回も海外をよく知っている小野さんに一緒に行ってもらうことにしました。」
と言った。
高森さんは、ぬんがプライベートの旅行で香港に行くときに
「Iオンスーパーの催事場を見てきて。」とか
「駐車場からの動線を見てきて」とか
「1時間で動く人の数を数えてきて。」とか旅行の予定をぐちゃぐちゃにした上、
ぬんの方がより香港のことは、詳しいことにねたみ、霧野を絶対に行かせてなるものかと思ったようだ。
はっきり言って、もうどうでもいいやと思った。
この高森さんは自分よりできる人がいると潰していく人なんだ。
自分が一番でなければ嫌なんだ、と思った。
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