第20話 だらしない女性たちと飛んだ失敗!輸出事業。

そういう生活の中、いつだったかK光課の他のグループの何かの式典があった。

海田さんとぬんは先に部屋に戻ってきた。

式典から帰ってきても、高森さんから次に何されるのかと、一時も気を許せないようにピリピリしながら机に向かっていた。

その時、目に入ってきたのは、小野さんが机を背に椅子をくるっと向け、後ろの空間に向かって裏が赤い10センチヒールの靴が右へ左へポーンと投げ出されていた。

裸足のストッキング状態で床に足を投げ出し、足を広げ、中まる見えの状態だった。

課の男性たちが、じろじろとその姿を見ていた。

「あー、疲れた。私一人働かされた。」と言いながら、だらしなくおしりをずらして椅子に座っていた。

ミニスカートでみだらな太ももが見えたその姿に上席として、ぬんは声をかけた。

「お疲れ様。あの、小野さん、スカートの中が見えているけど。」

そのとたん、小野さんは怒り、

「霧野さん、いつも高森さんに怒られているからって、私に八つ当たりしないでよ。」と周囲にわざと聞こえるように大声で言った。

(全くそんな気ないけど、職場で脚広げて、スカートの中、丸見えだしもう勝手にしたら。)

そう思っていると、案の定、高森さんが出てきて、

「霧野さん、小野さんは疲れているんだから、いたわってもいいのに、怒るなんて、小野さんがかわいそうだわ。」と言った。

(はあ、本当に疲れる。パンツが丸見えだし、脚広げて中が丸見えで職場なのにあまりにもだらしないから、言っただけなのに、何だろう?本人もひどいけれど、高森さんはどういうかばいかたしているんだか。)


台湾のイベントが2週間後に迫ったとき、高森さんが「霧野さん、パスポート、持っている?」と聞いてきた。

ここまで苦労して、この事業を作り上げてきた。

やっと本番が現地で見ることができる、と思って、「はい。持っています。」と言った。

「じゃあ、台湾、お願いね。」と言われ、「はい!」と明るく答えた。

書類を用意して、地図も頭に入れて、事業も頭に入れて、イベントを行うデパートの売り場や少しばかりの台湾の言葉も覚えた。

自分の洋服の準備もスーツケースに用意した。

しかし、1週間前になって、台湾に行くことが決まったのは、小野さんだった。

高森さんが言った言葉は、「だって、霧野さんは『地産地消』が好きだって言ったでしょう。ふふふ。」だった。

「小野さんは輸出が好きですごく興味があるんだって。台湾も何回も行っていて、地理感もあるんだって。小野さん、一緒に行きましょう。頑張りましょうね。」

下を向いていた小野さんが、下からぬんを見て、ピースをしながら笑っていた。

どこまで非常識な人なんだ、高森さん。高森さんって本当にやり方が汚い。その一言だ。

喜ばせておいて、悲しみの世界に突き落とす。

それに、この小野さん、最悪だ。

上司と部下が手を組んで中間層の私を板挟みパワハラを楽しんで行っている。

上司からだけならまだしも、部下が先輩にパワハラするなんて、最低な性格だ。

もう見るのも嫌だ。


小野さんがうちのグループに異動してくるのが決まったとき、ぬんと一緒にパワハラされている海田さんが

「霧野さん、今度うちに来る小野さんってすごく性格悪いらしいです。僕の同期が小野さんと同じグループだったそうですが、上に良い顔して、陰で下の人をいじめるという最低な人らしいです。小野さんのせいでグループ内かき回されて、精神を病んでお休みに入った人もいるらしいです。取り扱い要注意です。」

と言っていたのを何となく思い出してきた。

上の人の取り入ることが得意の小野さんと、それに気が付かない高森さん。

いや、高森さんは、知っていて後ろから糸を引っ張っているのかもしれない。

「霧野さん、ご苦労様。あとは私たちがうまくやるから。」小野さんが勝った!という笑い顔で、心の無い言葉を投げつけてきた。


ところがどっこい、台湾のデパートでの販売事業は様々な問題が浮上した。

デパートで売るはずだった冬瓜の3分の2は、台湾についた時、コンテナの中で腐っていた。

冷蔵で送るべき冬瓜なのに、常温で送ったらしい。

コンテナの中は思っていたより高温だったのだ。

最初からみそが付いた。

二つ目として、高森さんは、デパートのイベントでK奈川県の公式キャラクター、「Kながわキンタロウ」の着ぐるみを持っていき、お客さんを呼び込もうとしたかった。

でも、所有している所属から断られ、結局、高森さんはほとんど無理やり、圧力をかけてJA―Kながわ西湘から「S湘きんじろう」の着ぐるみをかしてもらった。

しかし、一緒に台湾に行った関係者の話だと、冬瓜腐り事件のため、目玉商品が無くなってしまい、「S湘きんじろう」の出番は一回もなく、かわいそうに彼は台湾の空気を吸うこともなく、陽の光を見ることもなかった。

結局、「S湘きんじろう」が入れてあった大きな箱は、物置き場にちょうど良いということで、別な使い方をされていたとのことであった。

ぬんを足蹴にして出掛けた台湾デパート販促事業は、失敗に次ぐ失敗で、予算をたくさん使ったにもかかわらず、大失敗だったので、報告することは何もなく、高森さんからも小野さんからも結果がどうだったか聞くことはなかった。


その台湾事業が終わると、高森さんは10日間ぐらい夏季休暇でベトナムに行った。今のK奈川県のベトナムとの交流を考えると、このころから知事の特別命令で動いていたのかもしれない。


その間、高森さんに怒鳴られることもなく、少しは心が安らぐかと思ったら、またまた事件は起こった。

JA―KながわS湘からお借りした「S湘きんじろう」の着ぐるみが横浜港に帰ってきて、検疫が終わったから、取りに来てほしい横浜税関から電話がかかってきたのだ。

「S湘きんじろう」は、高森さんが個人的にJA―KながわS湘の鈴野部長に頼み込み、借りてきた。台湾に連れて行くときはJA―KながわS湘の人が横浜港まで持ってきてくれたらしい。

(でも、帰りはどういう手配になっているの?)

台湾に一緒に行った小野さんは、あんなに高森さんに付きまとっていた割には、何にも知らなかった。

今日の4時までしか保管できないという話だったので、海田さんが県庁の車を至急手配し、JA―KながわS湘まで運ぶことにした。

「S湘きんじろう」は、大きかったので、車の手配の調整は大変だったが、何とかC舎管理課にお願いし、海田さんが何とか運んでくれた。これで、一件落着かと思った。


すると今度は、JA―KながわS湘の部長の鈴野さんが「霧野さん、この『S湘きんじろう』の台湾までの輸送料を立て替えているのですが、返してもらえませんか?」(ええっ、何その話???)

「ちなみに、それっていくらですか?」

「9万円です。」

「え、9万円?」

「返してもらわないとJA―KながわS湘でも欠損になってしまって困るんです。」

「そうですよね。」

「高森さん、『県でお金払うから、ちょっと待って』って言ったんです。」

台湾へ行くまでも大騒ぎ、行っている間も冬瓜が腐った事件、「S湘きんじろう」も使用せず、帰ってきたら「S湘きんじろう」の運賃未払い問題。

よくまあ、次から次へと出てくる。

どうするのこの問題。

そういう送料なんて予算はないでしょう、夏季休暇から帰ってきた高森さんが何て言うのでしょう。


それから10日間経つと、高森さんはバカンスを終えて、ご機嫌で帰ってきた。

お気に入りの細川さんと小野さんだけにお土産を買ってきた。

そして、うちのグループリーダーの守山さんからJA―KながわS湘から「S湘きんじろう」の運賃の話を聞いて、「あ、そう。払っておいて。」と簡単に言った。

それから、C査課の本口さんにはお土産を買ってきたらしく、ルンルンとした足取りで、階段を上がって三階のC査課に向かった。

一方、うちの課に残された守山さんは、大きなため息をつき、どこを見ているかわからない目で、空を見ていた。

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