第19話 パワハラやセクハラは、上からも下からも。
次の年度になり、ぬんが所属していた組織は大きく変わった。
K境農政局からS業労働局になり、KながわNSB戦略課は無くなり、K光課の一部になった。
高森さんはK光課のKながわブランド戦略担当課長に格落ちした。
課長から担当課長に格落ちしても、輸出業をしたかったわけだ。
ぬんのグループは、「県産品ブランドグループ」になり、「地産地消というわけではなく」、一体、何を扱うグループだかぬんもわからなくなった。
グループリーダーは、O茶の水女子大学を出た小林さんではなくなり、やせた鶏が眼鏡をかけたような守山明宏さんという人になった。
守山さんは農業を全く知らず、畑に野菜を見に行くのに、ある日、高森さんと出掛けたが、その時の格好がすごくおかしかったらしい。
高森さんは、「霧野さん、笑えるのよ。守山さんたら、畑来るのにスーツ着て、『帽子かぶってきてね』って言ったら、山高帽をかぶってきたのよ。おまけにビジネスバッグ持ってきて。どう異常でしょう。はははっ!」と大笑いしていた。
本庁舎の二階のK光課に移ってからの2年間、そして、担当課長の高森さん、少し心が疲れちゃって2年間お休みしていた細川さん、稚拙で高森さんの威を借っていじめを仕掛けていたのは、今年異動してきた、高校卒業して新採で入って7年目の小野香里さんだった。
ぬんは、上から下から襲ってくるパワーハラスメントに悩まされることになる。
初めて小野さんと出張に行ったとき、彼女は言った。
「霧野さん、私、19歳で結婚したんです。18歳で県庁に入って、すぐに子どもできちゃって結婚したんです。できちゃった結婚だったんです。だから、この年で2人の子どもがいるんですよ。2人、子どもいるけど若いでしょう。まだ、25なんですよ。」
ぬんは、あまりそういう話は好きではなかった。それぞれ人生あるしなって。
プライベートな話は、あまり職場では話したくない。
ぬんが県庁に入ったとき上司に言われた。
「霧野さん、『大学の時は、大学の時は。』とか言うことはやめてね。
県庁は、高卒で入庁する人がたくさんいる。
だから、大学出てきたことに妬む人もいるんだよ。
『女性のくせに、大卒だから威張りやがって』とかね。
だから、霧野さんにしてみたら、大卒が当たり前かもしれないけど、違う人もいるという認識を持ってほしい。」と言われた。
確かにそうだった。
ぬんは、大学の経済学部を出た。
県庁職員の構成も知らなかった。
ぬんが、大卒で入ってその話をしたとき嫌な思いをした人もいただろう。
それは、小林さんがO茶の水女子大学卒だから偉くなるけど、霧野さんは普通の国立大学だから偉くならないと、塩山さんから言われ、傷ついたような感じだろうか。
少し心が疲れちゃって2年間お休みしていた細川さんには、ぬんはとても気を遣っていた。
何で心が疲れちゃったのかわからなかったが、自死した山上さんのこともあるし、できるだけ、静かに優しく見守ってきた。
でも、その細川さんにその過去のことを何にも知らない、天真爛漫の小野さんは、すっかり細川さんにも言いたい放題言って、でもなぜか、不思議なことに仲良くなっていった。
まさか、その心が疲れた細川さんのいじめの標的にされるとは。
海田さんとぬんは、相変わらず県産品の販売促進事業に一生懸命だった。
いくら高森さんが地産地消から手を放そうと思っていても、今まで、県のKながわNSB戦略課の仲介に期待をしてくれていた民間企業などの方々の信用を簡単に裏切るわけにはいかない。
そして、海田さんはJAとの大切なつながりである「Kながわブランド協議会」との仕事を中途半端にはできなかった。
ぬんたちの立ち位置は、中途半端だった。
1つのグループなのに、全く違う2系統をしているようだった。
それも、水と油の関係だった。
とうとう、高森さんが化けの皮を脱いだ。
高森さんが県庁に入って1年ちょっと経って、K光課がある本庁舎に移ったころから、高森さんからのぬんや海田さんへの本格的なパワハラが始まった。
特に、高森さんからのぬんへのパワハラはひどく、「朝は7時半までに来て、K産品ブランドグループ全員の机の上を拭いておくように。」とか「朝、職場に来たらまず高森さんの机上にあるツタが飾ってある花瓶の水を取り替えるように。」など様々な雑用を命じられていた。
様々な仕事が全てぬんに来た。
ぬんの格下の細川さんや小野さんにその仕事を命ずることはなかった。
細川さんや小野さんは、高森さんに決して逆らわず、言われたことしかしない。
高森さんのお人形さん状態だった。
K産品ブランドグループは、完璧に二つに割れていた。
ある日、突然来た。
C事室C査課からの話。輸出のことらしかった。
その頃、C査課には本口真太郎さんというS策推進担当課長がいた。
高森さんは、この本口さんとで輸出の話を進めていたらしい。
新庁舎3階にいた頃も今も時々姿が見えなくなるのは、この本口さんのところに行っていたらしい。
とうとうぬんにも、台湾に冬瓜を販売する話の企画を作れという話が来た。
その頃のぬんの生活と言えば、地産地消の話をホテル、デパート、サービスエリアと進めながら、高森さんに言われた台湾冬瓜企画を毎晩0時過ぎまでかけて作成していた。
企画書づくりだが、それは、高森さんが18時半ごろ所属を出る時、「急がなくていいから。明日の朝、私が来るまでに作ってくれればいいから。良かったらそのまま上に持っていくから。」と言って帰っていくからであった。
上とは、C査課で、本口さんのことである。
「明日の朝までに、作ればいい。」ということは、つまり今日中には作成していなければならない。
ぬんは18時半から作り始め、疲れて回らなくなった脳みそを振り絞って、0時過ぎまで掛かり作成した。
しかし、次の朝出勤すると、高森さんはまず、「霧野さん、これで机の上吹いたの?汚いわよ。」と言いながら、人差し指で机の上をシュッとなぞった。
給湯室で作ってきたカップのハーブティーを歩きながらふうふうして飲み、優雅に椅子に座って、ハイヒールを履いた足を組んだ。
そして、ぬんがやっと作った5,60ページにわたる企画書をパラパラっと見て、「ふん」と言い、ごみ箱にガサっと捨てた。
「霧野さん、これ本当にまじめに考えて作った?私に恥かかせるの?今日昼まででいいから作りなおして。」と言った。
「今日は、H根で打ち合わせなんです。S南ゴールドのスイーツの。」
「何、言っているの?H根、まだ、H根なんか行っているの?H根のS南ゴールドスイーツより、台湾の販売の方が重要でしょう。もうあまり時間がないのよっ。急ぎなさい。」
怒られているぬんを見た小野さんと細川さんが笑った。
高森さんの二人への教育がいいので、下からもパワハラされる。
何とか昼までに作った。
その書類を持って、高森さんは3階のC査課の本口さんのところに上がっていった。
しばらくして戻ってきて「まあ、最初のとっかかりはこれでいいんじゃないかって。」
「では、H根に行ってきます。」
「言ったでしょ。とっかかりは良いって。つぎはもう少しまともなこと考えろってことよ。」
また、小野さんは、ちろっとこっちを見て、目が合うと、声を出さずに「ばーか」と言い、そのあと下向いてくすっと笑った。
また別なことで海田さんは、高森さんに怒られている。
「あなたってバカなの?これこの前もやったばかりじゃないの?面白くないのよ。こんなの全く面白くない。これでは、県民の人が応募してこない。海田さん、能力なし、あなた、本当に企画力ないわね。」
毎日がそんなだった。
毎日、何かにつけて海田さんとぬんは、キーキー声のヒステリックな高森さんから怒鳴られていた。
K光商業部の部長の大川康江さん、K光課長の村田忠彦さん、副課長の多田夕子さんは、K境農政局から無理やりS業労働局のK光課に入ってきた元KながわNSB戦略課のぬんたちは邪魔でこそあれ、歓迎という立ち位置ではなかった。
そのため、ぬんたちには全く無関心だったし、高森さんがパワハラをしようとぬんの足を蹴っ飛ばそうと知ったことではなかったようだった。
3人とも、自分が上に上がることしか頭に無いのだ。
ということは、つまり、この三人は管理者でありながら、その元KながわNSB戦略課の海田さんとぬんが、全く関与しないと考えている担当課長の高森さんにどんなにひどいパワハラを受けていようとどうでも良かったのだ。
今年、来た守山グループリーダーは自分も怒られてばっかりだったし、海田さんとぬんのために怒られたくないので、私たち見捨てでも、高森さんから逃げていた。
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