第18話 ぬんの大切な「KながわNSB戦略課」の崩壊。

ぬんはまだ知らなかった、この高森さんが3年間、私を深い深い地獄に落としていくことを。

高森さんは、とにかくプライドが高い人だった。

ぬんはそれが、この人は英語ができ、そのため、トップに重宝に使われるからだと思っていた。

ぬんは、どういう役割を面接でアピールし、何をするために、この高森さんが43人の中から選ばれ、人事が高森さんに何をさせようとして、いつの間にKながわNSB戦略課長だけでなく、C事室C査課のK際戦略担当課長になっていたのか、ということを知らなかった。

ぬんは、KながわNSB戦略課の事業がそのまま続くと思っていた。

K奈川県の農業者さん、仲卸さん、企業さんに対し、合川さんがしてきた今までのとおり、K奈川県の人たちを大切に思ってくれると思っていた。

でも、それはぬんの思い込みだった。

道は、どんどん外れて行った。

KながわNSB戦略課で「地産地消」という言葉はどんどん消えて行った。


異動で細川理恵さんという人が入ってきた。

おとなしい人(だと思っていた。)だった。

高森さんは言った。

「細川さんは、少し心が疲れちゃって2年間お休みしていたの。優しくしてあげてね。」

細川さんはそのような人だったので、KながわNSB戦略課が、新しい高森さんによってガラッと変えられてしまったことを話さなかった。

あとあと、この細川さんが、ぬんに対し格下からのパワハラをしてきて、おとなしい顔をしながら、ぬんの首を真綿でギリギリと閉め、この人に苦しめられることになるのも、知らなかった。

高森さんが課長になったとき、「KながわNSB戦略課」だったが、すでにこの課がすべき仕事はしていなかった。

そして、高森さんは、秘密主義で、1日何でどこに行っているのかわからないことが多かった。

そして、高森さんは、ぬんの大切な生産者、JAあるいは民間企業の知り合いを紹介させ、自分にとって利がありそうな人を「KながわNSB戦略課長」とか「C事室の担当課長」という立場の名称を利用して、ぬんからどんどん奪い去っていった。

それでも最初のころはまだ穏やかだった。

それから、やたらにC事室に出入りし、「KながわNSB戦略課」を大切にするふりをして、それから逸れていく踏み台を確実に作っていた。


新しいトップはたびたび海外に出かけた。

トップが海外視察に出かける時、高森さんは通訳としてよくついて行っていた。

高森さん何を企んでいるのかが全く分からなかった。

しかし、最初、ぬんのこともある程度は評価してくれていた。

「霧野さんのアイデア、なかなか良いのよ。霧野さん、あなたは優秀よ。あなたを絶対、副主幹にするわ。あなたほどの人が評価されないのはおかしいわ。主査なんて合川さんも気が利かないわね。もったいない。」

この言葉は、次のたくらみ向けて、ぬんを持ち上げたのだろう。

評価の時期がやってきて、高森さんは、K境農政総務室人事担当ににこやかに出かけて行った。

しかし、帰ってくると、顔から笑みは無くなり、しかめっ面で言ったことは、

「霧野さん、あなたダメだって。次の昇格での副主幹候補76番目だって。あなた、療養休暇、取っているんだって?それで、副主幹にはできないって言われたわ。」

それだけだった。

ぬんは、思った。

(え、それって、障害者に対する差別?!K奈川県って、行政なのに、こんなに表立って障害者差別するんだ。仕事ができる、できない、での評価ではない。障害者というだけで、その障害のために療養休暇を取るだけで、純粋に差別するんだ。最低な障害者ハラスメント。基本的な考え方がこうだから、菊田さん、二瓶さん、合祖さんは、大手を振って、診断書をもらっているぬんに障害者いじめをしてきたわけだ。)

高森さんは、プイっとそれだけ言って、自席に座った。

ぬんは、療養休暇を取らなければいけない障害者だから昇格させないという障害者ハラスメントを明からさまにK境農政総務室人事が言っていることが大ショックだった。

でも、後々、ぬんはもっとひどいどん底に落とされる。

今はこんな程度だが。

元はと言えば、二瓶さんと菊田さんの3年間毎日続いたひどいパワハラによって、顎関節が壊されどんどん壊されていった体なのに、それで障害者になったのに。

このときはまだ、努力は、いずれ評価してくれるんだと思い続けていた、ぬんは大バカだった。


何も知らずぬんは、相変わらず、ホテルでのKながわフェアとか、東名高速道路のSAや駅ビルに県産品を置いてもらったりすることにひたすら奔走していた。

K奈川県産の小麦を使ったパンを作りたいという横浜で有名なパン屋さんがあれば、「K奈川県の名が売れる。」と思い、小麦を扱っている地域の業者を探し、小麦を仕入れ、製麺屋さんに頼み込み、アレルギーのもとであるそば粉がはいらないように、細心の注意を払って、粉を引いてもらって、パン屋さんに搬入して、「K奈川県産小麦で作ったパン」売っていただていた。

販路開拓も次々やっていった。

K奈川県は農産物の原材料を作る人はいる、製品にする人はいる、でも、運んでくれる流通やその中間の加工をしてくれる人がなかなかいない。

K奈川県は地方の県と違って、原材料になる農産物を作って大型直売所に置けば、都心からどんどん買いに来てくれる。

だから、加工して、流通する必要がなかったのだ。

県内各所に鉄道網はあり、高速道路もあった。

空港も羽田空港はすぐそばにあり、新幹線の駅もあった。

だから、県内でいかにものを動かすか、県内で県産品フェアをやるために農産品を集めるのが大変だった。

それを考え、あちこちにお願いして回る、その時期が一番大変な時期だった。

とにかく「神奈川県産の卵を使ったパウンドケーキ」を作りたいというケーキ屋さんがいれば、どんな苦労をして頭を下げまくって、卵を用意した。

頑張って、頑張って

「私が農産品は何とかしますから、K奈川県産フェアお願いします。」

とひたすらお願いして歩いた。

一緒に仕事をしていた海田秀彦さんは、また違う方面から、県産品と向き合っていた「Kながわブランド協議会」というJA-K奈川県中央会と一緒に組んで、県民と一緒に県産品を見に行く、農業体験してもらうというような事業を作っていた。

でも、二人ともそういう企画の仕事が好きだったので、どんなに大変でも、頑張った。

低い天井の新庁舎の三階で海田さんと二人で、こういう企画はどうか、こんなこと企画を考えたら県民の人は関心を持ってくれるだろうか、常に二人で語り合っていた。

毎晩、本当にへとへとになって、職場を後にした。

田中高志さん、仲野英子そして、唯一癒しの非常勤さんの伊岡英恵さんがいた。

田中さんは眼鏡をかけ、優等生で我が道を行くタイプ、仲野さんは、ちょっと小太りで豪快にお酒を飲むタイプだったが、1を言えば10を答えてくれる頭のいい人だった。


年度末になり、いきなり奇妙な話が耳に飛び込んできた。

「KながわNSB戦略課」が無くなるという話だった。

そして、KながわNSB戦略課はK光課の一グループとなって、大きな局という組織の中でも、K境農政局からS業労働局へと家移りするということだった。

高森さんは、「KながわNSB戦略課」の課長ではなく、K光課のかながわブランド戦略担当課長になるとのことだった。

「このことって本当ですか?」高森さんにぬんは聞いた。

「うん、そうよ。私は、県産品の輸出がしたいのよ。だから、トップに話したの。そうしたら、すごく乗り気でね。トップも全く同じ考えだった。外国相手に農産品を売りたいの。もう「地産地消」なんて、時代遅れ。古い、古い。」

ぬんは愕然とした。

「KながわNSB戦略課」が無くなる?

前トップと合川さんの思いでできた「KながわNSB戦略課」。

関係するK奈川県民の願いがやっと叶った「KながわNSB戦略課」。

「KながわNSB戦略課」に異動させてもらうために、ぬんはK奈川県民の思いをプロポーザルで思い切り語った。

「地産地消」でK奈川県を盛り立てていきたいと話してきたのに、こんなにいとも簡単に潰すなんて。

合川さんの思いはどうなってしまうの?何年間も準備して、やっとここまで来たのに、たかだか3年間で終末を迎えるなんて。

この高森さん、どういうつもりなの?

年度末まで、高森さんからの仕事はめちゃくちゃに降ってきて、「地産地消」をやっているものの以前ほどの華やかに販売促進を行う仕事ではなく、おまけでやらせてもらっている立場になった。


外部の、民間の方々は、急に手を引いた私たちの行動が理解できなかったと思う。。

昨日までは、民間の様々な事業を積極的に応援してきた。

それまで、農業者さんたちの集まりに呼んでもらったり、JAや箱根の民間の人の集まりに行こうとすれば、「どんどん行ってきて!」と言われていた。

ところがある日突然、高森さんが「旅費や時間を使って、行かなくていいんじゃない。霧野さん、あなた、その会に行って一体何しているの?」と全ての集まりにぬんが行くことを阻止した。

田中さん、仲野さんは「あ、そうですか。」と高森さんの言葉を聞いていた。

二人は、付き合いがある関係者も少なかったし、ぬんや海田さんのようにいろいろな県民の関係者との距離も近くなかったので、直に多くの不満の声も受けることはなかった。

外部の関係者んの人に、地産地消を大幅縮小のことを説明するのに、

「新しい課長の高森さんは、KながわNSB戦略課の課長で入ってきたが、実は「地産地消」はやりたくなかった、とのことです。とにかく輸出をしたくて、県庁に入ってきたとのことです。そして、トップと話して、海外進出という新しい道を進むことになったとのことです。だから、今までの事業はやめます。」とは言えない。

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