第2話

「な、何言ってるの?」

それが私の答えだった。


少女はニコニコしながら「ほら、やな感情思い浮かべながら、食べて欲しいって念じてみて。

食べたげるから」

と、手を前に出して広げている。


訳が分からないとは思いつつ、少女の言動や雰囲気がこの辺で見ない不思議なものだったので、試してみることにした。


「わ、分かったよ」


私は目を閉じて、イメージを巡らせた。

これまでの平凡な日々への後悔、今のやらされてるような人生に抱く空虚感に欠乏感、このままでいいのだろうかと囁く不安と焦燥感。


そして、それを食べて欲しいと念じる。


すると、手に少し冷たくて柔らかいものが触れたと感じるも否や、それに手を持ち上げられ───────

手を噛まれた。


えっ!? と驚き、咄嗟に自分の手を胸元に引き寄せる。


少女は、どうしたの? と首を傾げている。


「え、いや、何しようとしたの?」


「食べようとしたんだよ。 途中だったのに」


なんとも言えない表情をする少女に、より不思議めいた感情を抱いた。


「やり直し」


「う、うん」


心の半分で何してるんだろうと思いながら、周りを一瞥して、そう応えた。


周りに人がいないことを確認すると、それも不思議に思いながら再び目を閉じる。


再び巡らせる。


これまでの平凡な日々への後悔、今のやらされてるような人生に抱く空虚感に欠乏感、このままでいいのだろうかと囁く不安と焦燥感。


そして、それを食べて欲しいと念じる。


手を持ち上げられ───噛まれる。



その瞬間、私の中の嫌な感情が和らいでいくのが分かった。


驚きつつ、その感覚に身を委ねる。



みるみる、その嫌な感情は消えていき、少女の歯が手から離れた時には、無くなっていた。


不思議な感覚だった。


さっきまで私を憂鬱にさせていた感情が、こんなにもあっさりと消え失せたのだから。


「終わったよ。 中々薄味だったね」


少女は言う。


私は目を開け、少女を視界に招き入れる。


私は、この今起きてることが信じられず、夢なんじゃないかとも思ったが、あまりにリアル過ぎる感覚と景色に当惑していた。


「お腹張ったから一旦これで終わりにするね。またヤな感情食べて欲しくなったら呼んでよ。

心の中で来てって言ってくれたら、行くから。お腹減ってたらだけどね」


少女は軽く手を振り消え失せた。


私はただ、頷いて呆然としていた。

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あなたの辛いを食べたげる とm @Tugomori4285

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