あなたの辛いを食べたげる
とm
第1話 プロローグ
自分の人生をドラマにしたら一体、どんな作品になるだろう。
そんなことをふと、私、柊木
理由は特にない。ただ単純に仕事を終え、何となくそんな思いが頭を過ったのだ。
もしかしたら、その何となくの中に何かがあるのかもしれないが。
思えば、もう二十五歳。
事務を始めて、はや三年。
仕事は、大変で色々と面倒くさいが特に起伏はなく、もし人生に盛り上がり所を見出すとすれば、小学から高校一学期までの約十年間だろう。
あの十年間はほんと、色々あったなー。
遊んだり喧嘩したり仲直りしたり恋したり告白したり、振られたり……。
当時は何でもない、なんなら少し煩わしくもあるような日々だったけど、今思うと充実も甚だしい。
一周まわって今の私をバカにしてきてるようで癪に障る。
今日なんて、朝早く起きて人がごった返す電車で通勤、朝礼してパソコンと向き合って資料作成に確認、電話対応。
仕事を終えたと伸びてみればもう夕方の五時。
そして今、人生をドラマにしたらどんな作品になるかって、ただ虚しくなるようなこと思って。
なんか、辛くなってきた。 過去と今の自分の差が絶望的過ぎて。
つい、大きめのため息が口から溢れ出た。
酒で誤魔化すか。
そう帰路へと続く遊歩道を歩いていると、横の林立する細木から一人の少女がひょこっと姿を現した。
白いトレーナーに茶色のエプロンを羽織った、おかっぱ頭の少女。
身長が156cmある私から見て、みぞおち程の背丈で、クリっとした目と小さな鼻が可愛らしい。何となく小学五年生あたりな気がするが、一体どうしたのだろう。
髪型といいその身なり、この街では見かけないし何より、どこから出てきたのだろう。さっきまで人の気配すらなかったというのに細い木からひょこっと出てきて。
もしかしたら、この子は虫か花を探しにきていて、ずっとこの辺にいたが、私が気付かなかったのかもしれない。
ほら、私さっき物思いに耽ってたし。
すると、少女はまだ拙い可愛らしい声で私の目を見上げて言った。
「お姉さん、辛いの?」
予期せぬ出来事による当惑で一瞬言葉を失うが、心当たりを思い出し、この子は私のため息を聴いてそう言ってるのだと思った。
それからはたちまち愛おしくて堪らなくなり、つい私は「そうよー、おねーさんめっちゃ辛いのよー」なんて、おちゃらけた声で言ったが、その後の、少女の一言に思わず
『じゃあ、食べたげるよ。 その気持ち』
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