1-7
――――――………
――――……
「――――ミーち…………頭は冷えた?」
「リア…………私、どうしてあんなこと……でも、いや……その気持ちも忘れたくない……」
「ミーち…………」
リアは知らない。彼女の恋を。だからリアが彼女にしてやれることは、彼女の心を想像して思いやることだけだった。
「…………じゃあさ、忘れそうになったら、またあそこにパフェ、食べに行こう?」
リアは辛うじて隣家の火災からの被害を免れた、「サギュリティア」と書かれた看板を掲げる店を指さした。
「…………ごめん、あんまり味憶えてないかも……」
「あはは、そうだよね」
「だったらさー、またエル君と一緒に食べに来ればー?とりあえず天気の話でもすれば、たぶん同じ味になるぞ」
リアはクエリの発言に若干の違和感を覚えながらも、ついに彼の一握りほどの優しさが仲間を思いやる方向へと向かおうとしていることに、少しだけ感動していた。
(ふふっ、クエリっちもたまには良いこと言うじゃん)
「あ……そういえば、私。今日エル君とデートしてたんだっけ…………」
「そうそう、甘酸っぱかったよねー、きっと一生忘れられないよねー、今日は寝れないかもねー、なんせあんなにコーヒー飲んでる人初めて見たもん」
(ん?)
「あ…………うん……私コーヒーそんなに飲まないからそうかもね……あ……あれ?私何話してたか、もう憶えてないや……」
「く、クエリっち……?」
「うんうん、そういうと思ってね……えっと、ちょっと待ってね――――おっ…………あった、あった――――だが安心しろミーシャ!!録音はばっちり録ってある!!これでいつでも思い出せるぞ!!」
『あの、エル君………さん………?』
『どうした?』
『きょ、今日は良いお天気ですね』
『ああ、そうだな』
『最近暖かくて……その……良い気分ですね?』
『ああ、春だからな』
『えーと……あの、その………あっ、ご趣味は何ですか?』
『ダンジョン経営だ』
「…………」
クエリが取り出した手のひらサイズの棒状の物体から流れるのは在りし日のおもひで――――
「あ……あー、思い出してきたかも…………私こんな事言っちゃってたな――――…………あー!やばい恥ずかしい!!思い出しただけで顔が赤くなってきたよー!!……ってあれ?なにこれ…………なんでこんなものを――――」
「にちゃあ…………」
「クエリっち…………」
「あーー!!嘘ーーー!!みんなあれ聞いてたの!!??あっ、ひょっとしてメイリさんも!?そうだよね、そうじゃなきゃ…………あー!やだーー!!もう忘れたいーー!!」
「もう矛盾しんじゃん……」
「あー!落ち着いて、ミーち、これ公共物だから。あなたがガンガン頭で砕いてる石畳公共物だから」
ああ、美しきかな思い出――――甘美たる純白の口どけと、ほろ苦い漆黒の舌触り。彼女の五感は在りし日を忠実に再現し、鼓膜を刺激する、無駄に鮮明且つ雑音のない、きめ細やかな旋律は止めどなく流れて、その心を揺さぶる。
『…………ああ、だから、すまないが僕にはお前が必要だ』
『…………!…………これって…………私の勘違い…………?でもでも…………今しかないの…………!行かなくちゃ…………!私、行くからね…………!メイリさん…………!』
『?』
『エル君…………!あのね――――!』
『ああ――――』
『――――だ……だったらね、私達その……一度つ、つ、つ、つ、付き』
『つき……?』
『…………付き――――……』』
『…………』
『――――――月が……綺麗ですね……?』
『いや、今は昼間だが』
「ああああああ!!!!!!!!」
“おお!!勇者ミーシャの勝鬨だ!!”
“あんなに可憐で可愛らしいのに、なんて力強い咆哮……!!”
“うおーーーー!!ミーシャ!ミーシャ!ミーシャ!”
「ああああああ!!!!!!!」
「くえりっち……今度からこの店来るとき、全部くえりっちの奢りな」
「ええ!?なんで!?」
村は勇者の勝利に沸き立つ。村に伸びる石畳は、得体の知れない力に対しての恐怖を打ち払ってしまうほどの熱気に震え、それはいつまでも鳴りやまない。彼女がそして、彼がそれを望む限りそれはきっと永遠になるだろう。それは彼女の醒めぬ夢。今日も彼女は夢の中に居る。
――――――…………
――――……
――……
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