3-4
ついに、例のベルクフリートを視に行くことになった。
艇護の人々は止めたらしいが、セノンドは「どうしても見ておかなくてはならないね」と言ったらしい。なかなか熱い男であるが、警護する方は大変である。
テイラは毎日、視察の報告書を書くので大忙しである。彼女の任務は討伐隊の記録だが、今回は中央にも提出しなければならないらしい。それはつまり、中央に彼女の仕事ぶりが確認されるということでもある。そんなわけでひどく熱心になっている。熱い女である。
ベルクフリートまでの道のりは5日かかった。いつもよりも周囲に対して警戒したうえで、野営の準備にも時間をかける。もちろん調理も慎重に行う。
「これが、その城か」
門の前から、セノンドはベルクフリートを見上げた。あの後一度別の討伐隊も派遣されたが、深層に至れず帰ってくることになった。まだあの中には魔物がいる。そんな中で中央公官が訪れているというのは異様でもある。
「テイラ、君は以前来たことがあるんだったね」
「え、あ、はい!」
「あの中はどうなっている?」
「暗くなっています。普通の魔物だけではなく、人型の魔物にも出会いました」
「人型、か。他にも報告例はあるらしいれど、それもベルクフリートだった。遺体がもとになっているのだろうな」
他にも例があるというのは知らなかった。ただ、同じようなベルクフリートは各地にあるので不思議なことではないか。
また、あれは人間が魔物化したというよりも、魔物が死体を乗っ取っているように見えた。その辺はテイラも報告書に記したはずだ。
「そう言えば君は、なんで公官になったんだい?」
「え、私は……その、父も公官だったので」
「なるほど」
「いずれは、中央に行きたいと思っています」
「そうか。叶うといいね」
テイラはなぜか、目を伏せていた。これはまさに、お膳立てされた状況だと思うのだが。
いくら視察と言っても、ベルクフリートの中まで確認するわけにはいかない。かと言って外からちょっと見たので帰ります、というわけにもいかない。今夜はここに陣を張ることになった。
確実に魔物がいる近くでとても偉い人を護らなければならないというのは、少し気が重い。いや、俺が直接護る義理はないのだが、何かあればそうせざるを得ない気がする。
「アウレス、ちょっと聞いて」
「どうぞ」
「じゃあ遠慮なく言うけど、私、セノンドが怖い」
「そうなのか。いや、相性は悪そうだと思ってたけど」
「見透かされているようで」
「そういう人間かなあ。まあ、見透かすのも仕事か」
「そう言うことじゃなくて……まあいいや。割り切る」
「無理すんな。いや、無理するときを見極めな。俺ごときには何聞かせたってかまわんのだぞ」
テイラが、じっと俺を見ていた。寂しそうな目をして。
「私の父は、罪人なの」
「え」
「今も捕まっている。だから、どんなに頑張っても、出世はできないかもしれない」
公官試験は、実力によって人物を登用するためのもの、とは言われている。しかし実際には、どこまでも平等、というわけにはいかないだろう。
「じゅあ、諦めてるのか」
「違う。実力だけで、つかみ取る」
テイラは、拳を握っていた。
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