2-3

 一日目の探索は、最上階だけで終わった。ベルクフリートを出て、野営の準備をする。

「他のと比べてどうだったの?」

「まあ、普通だ……と言いけど。階段下りたとたん様子が変わるのはよくあることだ」

「すっごい魔物がいたり?」

「そういうこともある。テクノア討伐隊は経験豊富なようだから、滅多なことではやられたり無謀な突撃もしないだろうけど」

 前回のことがあったからか、こちらに近づいてくる者もいなかった。非常に平和的な夜が訪れそうである。

「すごい門……」

「通さないためのものだから」 「住みたくない」

「ずいぶん朽ちてるし。昔はきれいだったんじゃないかなあ」

「誰が住んでいたの?」

「この土地を代々治めていた王だ。帝国が支配してからは領代に指名されていたらしい」

 歴史には詳しくない。しかしこの土地のことは、代々語り継がれてきたらしくたびたび老人に聞かされる。

 このあたりの土地を治めていた小国の王たちは、西へと勢力を広げてきた帝国に服従した。そして土地を管理する領代に指名されたのである。しかしその権限は徐々に狭められていき、中央から派遣される公員が幅を利かせることも増えた。そのために帝国に反抗する者もいたが、武力によって打ち破られた。そのうちの一つが、この城にいた者たちなのである。

 今では城は使われなくなった。元々不便な土地にあり、このんで人が住むところではない。また、帝国に歯向かう勢力はなく、戦争も起こらない。

「魔物だけには居心地がよかったわけね」

「そういうことだ」

 建物の壁には、石弓や弩砲バリスタによってつけられたと思われる傷が残っている。周囲を取り囲まれ、何日も攻撃されたのだろう。領代たちはベルクフリートに籠り、耐えるしかなかったはずだ。最終的には食料が尽きて餓死したか、自ら命を絶ったか。 

 この辺りには、怨念が立ち込めているのかもしれない。そう考えると、いい気分ではなくなってきた。

「怖い顔してる」

「怖くなってきたんだよ。霊に睨まれているかもしれない」

「まあ、霊は見えないし」

 そう言うとテイラは横になった。



 二日目も、魔物は出てくるものの探索は途中まで順調だった。一つ階層を下りたが、特に気になるところはない。ベルクフリートの中には、意味不明なほどに構造が変わっているところもあるらしい。

 ただ、ここからも魔物が湧きだしていることは確かなのだ。すべて吐き出した後ということならばよいのだが。

「特に何も見つからなくても、討伐隊の報酬は出るわけね?」

「そりゃまあ」

「見つけない方がいいってことはある?」

「もちろん。それを監視するのが役目だろ」

「今のところ手を抜いているようには見えないけど」

 テクノアは、優秀な男だと思う。隊員が粗相をすることはあったが、それはある程度仕方がない。こんな地方で、完璧な人間を集めるなど無理だ。

 だが、正直だけでは隊長をやっていけないだろう。前回は何人かの隊員を失っているが、できればそういうことは避けたいところだ。今回のような任務では、必要以上に深入りしないことが正解になる場合もあるだろう。

「しかし、腑に落ちないこともある」

「何が?」

「ここに逃げ込んだ人間たちは上にいたのではないかな。当時は天井が崩落していなかったはずだし、扉を破られることを考慮したはずだ。だが、ここまで死体がない」

「魔物が死体を運んだんじゃない?」

「それもあり得るけど……聞いたことがないな」

 もしくは、魔物が骨までかみ砕いたのか。

「やばいぞ!」

 前方から、声が響いてくる。灯りがこちらに戻ってくるのが見えた。

「どうした」

 テクノアは冷静だ。

「な、なんか人影がっ!」

 そう言った隊員の首が、宙に舞った。

「なんだっ」

 さすがのテクノアも一瞬狼狽したが、瞬時に槍を構える。

 確かに、人型の何かがいた。だが、それはどう見ても生きている人間の顔をしていない。だが、動いているのだ。


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