2-2
「やはり開きません」
二階の高さにあるベルクフリートの扉は、固く閉ざされている。梯子をかけるのも簡単ではなかったのだが、もちろん敵だってそうしただろう。簡単に開く扉では意味がない。籠城するために作られた施設だから当然だ。もしかしたら、扉のように見せているだけでただの壁かもしれない。
「上から入れるはずだ。準備するぞ」
テクノアが指令すると、一人の隊員が縄を担いで壁を登り始めた。
「え、上から入れるの? 籠城の意味なくない?」
「籠城している間は閉ざされていたはず。穴が空いたからこそ、魔物が侵入したんだろう」
生きた人間のいなくなった建物は朽ちていく。形を保ちながら、穴が空いているものが魔物の巣となるのだ。
隊員は集まって、どうやって壁を登るか相談している。もちろん登れないような設計になっているのだが、そこは彼らもプロである。時間をかければなんとかしてしまうだろう。
「ええと、これって私も登るってこと?」
「そりゃ、記録しなきゃなんないもんな」
「……どうやって?」
「まあ見てなって」
とはいえ、作業は一日仕事だった。壁にはとっかかりが少なく、何もなしに登っていくことは不可能だった。そこで、足場となる楔を打ち込んでいく。これも簡単ではなく、熟練の「楔打ち職人」が今回の隊には加わっていた。
外からの侵入を防ぐための建築物であり、そんなに簡単に杭が打ち込めるわけではない。それでも建物の老朽化のおかげか職人の腕がいいのか、少しずつ楔は打ちこまれ、隊員たちは壁をよじ登れるようになった。
「ええと、私もこれを?」
「さすがに無理だな。俺も登りたくない」
上から、縄梯子が垂らされた。
「ええと、私たちはこれを?」
「まだましだろう」
とはいえ、俺だって登るのは怖い。
「アウレス、震えてる?」
「当然だ。あと、魔物に襲われる可能性があることを忘れるな」
「……そうね」
テイラも震えていた。
「確実にいるっていうのは嫌だね」
屋根に空いた穴を除きながら、テクノアはにやりと笑っていた。
「私も行かなきゃ駄目?」
テイラが尋ねてくる。
「そりゃそうだ。穴の記録書いても仕方ないだろう」
今度は縄梯子が、穴の中へと垂らされる。人が通るには十分な大きさだ。
「窓がないからな。灯りには気を付けろ」
魔物から良質な油が取れることが分かり、灯の燃料に関しては昔より大きく改善されているらしい。ただ、密閉されたところで火を使うと、窒息することは変わりないようだ。良質な空気も魔物からとれるようになるといいのだが。
そんなわけで、小さな灯しかないため建物の中はとても暗い。壁があって暗いのは、俺は正直怖いが……今度は、テイラはそうでもなさそうだった。
「アウレスまさか、怖いの?」
「え……平気なの?」
「慣れてるから」
いやいや、俺の方が慣れていないとおかしいのだ。俺だって最初から護衛係だったわけじゃない。様々な戦い、様々な任務についてきた。こういう場所だってたくさん経験した。でもいまだに怖いのである。
「まあ、頑張って護衛するから心配しないで」
「そう願うけど」
テクノアは慎重な男だ。ゆっくりと、確認しながら進む。
「なんかいるな。小さいみたいだが」
奥の方に、二つの光るものが見える。魔物の目だと思うのだが、やたらと低いところにある。小さいのか?
魔物を狩るのは俺の仕事ではない。隊員たちが数人前に出て、警戒をする。
二つの光が、突如天井に飛び上がる。甲高い声。わずかに照らされる。毛に纏われた体。あれは
「あああああ」
そして、まあわかっていたことだが一匹ではない。ご丁寧にテイラをロックオンしている。
「何? 犬派?」
「いやいや、とにかく魔物派ではない!」
「だろうね」
テイラを護衛するのが仕事なので、ここでは魔物と対峙するしかない。これでお給金をもらっているのである。
「あれ、跳びかかってくる?」
「ああ。動くなよ」
館美猫の動きは読みにくい。だから、動いてから反応するしかない。
「そうだよなあ!」
しなやかな動きで、空中で俺の方へと向きを変える魔物。こいつの狙いが俺いうことは、予想していた。弱い獲物は後からいたぶればいいので、まずは障害を取り除く。魔物にはそういう習性みたいなものがある。
空中でも向きを変えられるという館美猫だったが、俺の反応も速かった。剣が、館美猫を叩き落とす。さらに、床に落ちた館美猫を前方に蹴り飛ばした。
「とどめは?」
「面倒だからアイツらに任せる」
俺の任務は狩ることではない。次の敵に備え、「守り」の態勢をとった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます