1-3

「あったかいスープが幸せー」

 テイラはとてもほっこりしている。

「広い庭があってよかった」

「え、ないとどうなるの」

「俺たちは街の外だ」

「ひどい話」

 教会は寝床を提供もするのだが、この人数では無理だ。場所の問題もあるが、こちらの金銭的事情もある。善意に対しては、寄付金で応えるというのが暗黙の了解なのである。そして、屋根付きの善意は高い。

「こんな時ぐらい、俺たちの輪に加わってもいいんじゃない? もう旅も終わりに近いしさあ」

 なんか、いかにも粗野な大男が、俺たちの前に立っていた。隊員なのだろうが、いちいち顔は覚えていない。

「交流は禁止されているので」

 テイラの目は笑っていない。すごいにらんでいる。

「そう邪険にするなよ。ちょっと一緒にご飯食べませんか、って話だ」

 俺は立ち上がり、二人の間に入った。

「規約なんだ。罰金とか払いたくないだろ?」

「ああ、あんたが独占ってわけか?」

 こういう相手は慣れているが、腹が立たないわけじゃない。休日に街中でならば喧嘩をしてもいいというものだが、今は仕事中である。「俺の意志では」手を出すことができない。

「このことも報告される。隊長に迷惑をかけるのは感心せんね」

 男が俺の胸倉をつかんだ。体が浮きそうになる。

「何をしている!」

 テクノアの声が響き、男は手を離した。気が付くと、周りに何人もの隊員が集まってきている。

「その、食事の誘いを断られましてね……」

「それは禁止されていると言っただろう。離れろ。いや、迷惑をかけたね」

「否定はしない。ただもう少し遅かったら、あんたのところの隊員が一人のされて、そっちに迷惑をかけるところだった」

 テクノアは興味深そうに鋭い目をして笑った。俺と自分のところの隊員と、どちらが強いか興味があったのだろう。俺に決まっているのに。

「今度はのしてしまって構わない。では、失礼するよ」

 隊長とともに、集まっていた隊員たちも去っていった。

「下卑ている」

 男たちがいなくなったのを確認して、テイラがはき捨てた。

「そうだな。詳細に報告されることも知らずに」

「そうね。『無謀にも美女を食事に誘った』と書いておく」

「まったくの事実だ」



「ああ、帰ってきた」

 二人は街に戻り、艇護の公官所に来ていた。報告するのまでが仕事である。

「この町の出身でもあるまいに」

「人間社会に帰ってきたという感慨よ」

 係の者が差し出した書類に、テイラはサインをし、俺は拇印を押した。

「……次の依頼が来てる」

「ああ嫌だ嫌だ。魔物は尽きんね」

「またテクノア討伐隊みたい。例のあの男は解雇してもらわないと」

「周期があっちゃうよなあ。まあ、隊長は悪い男じゃなかった」

「そう? 内容は……ベルクフリート跡地の清浄化」

「……マジ?」

 思わずテイラの持っている書類を覗き込んだが、当然俺には何が書いてあるのかわからなかった。

「大変なの?」

「まあ、そりゃ。確実に魔物がいるし」

「確実なの?」

「そ。いるから依頼来てるわけ。ベルクフリートは昔の城跡、真ん中にある。そこを魔物が根城にして、困ってるというわけだ」

「ふうん。でもわかってれば、対処できるんじゃない?」

「それがそうもいかないのがねえ。ベルクフリートはもともと籠城するための設備で、とにかく堅固。で、中の構造がまちまち、資料にも残りにくいらしい。そこを魔物がさらに改造して、わけわかんなくなってることがある」

「そういうものなのね」

「報酬はいいだろうがね、こっちは固定給なんだよなぁ」

 公民はどれだけ働こうが給料が増えない代わりに、減ることもない。つまり、仕事は楽な方がいい。

「討伐するのは私たちじゃないし」

「俺の仕事が増えるんだよなあ」

 建物内の戦いでは、敵と距離をとることが難しい。討伐隊の戦いに巻き込まれやすいのだ。

 などと考えるのはやめよう。今はとにかく休みたい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る