第7話 傾倒
『女性に年齢を聞くのは自分の好感度を落とすだけで、それはバカな男がすること』、
ってばあちゃんがいってた。
おれのすべてはばあちゃんがつくってる。
俺は空っぽだ
それでいい。
おれはばあちゃんの教えを詰め込んだコピーになりたい。
ばあちゃんひとりを失った場合の世界の損失は計り知れない。
だから、おれはばあちゃん2号になりたいんだ
俺はヒーローになりたいんだ
ばあちゃんは、俺の憧れるヒーローだ。
うちの家はばあちゃんを中心に回ってる。
じいちゃんの名前の方が世間には知れ渡ってるけど、じいちゃんを支えたのはばあちゃんだ。
じいちゃんはいつもそう言うし、じいちゃんはばあちゃんのことを女神様だって言う。
ばあちゃんは朝起きると、まず家族の顔を見る。誰かがちょっとでも顔色が悪いとすぐ気づくし、世話を焼く。悩み事を聞き出すのもうまい。まあ世話を焼くと言っても、他の家族に指示を出すだけで、ばあちゃんは座ってるけど。
適材適所、ってやつらしい。
その人の長所と短所を見抜く才能があるだけ、って前に言ってた。
ばあちゃんは、その人の得意なことだけをその人にたのんで、また別の人にも同じようにたのむ。それだけ。人材集めは、じいちゃん担当だ。じいちゃんの会社にはあらゆる天才達が集まってくるから、だからじいちゃんの名前は有名だ。俺はだからおぼっちゃんってやつらしいけど、金持ちの子供が通う学校よりも普通の学校に行かせたいって父さんが行って、俺は今の中学に通うことになった。俺が良いとこの育ちだってことは、校長先生しか知らないらしい。父さんは徹底主義だ。
最初は、車で学校まで送ってもらえないこととかだるいなって思ってたけど、でも今は父さんに感謝してる。
じゃなきゃ、電車に乗って通学するなんて体験は俺の人生にはなかったし。満員電車は流石にイラッとしたから、少し早起きして時間をズラしたら解決したし。
じゃなきゃ、ぼんやり道を歩く、なんて、合理主義の俺は絶対にしなかった。通学の『散歩』は、慣れたら結構たのしくなった。
道端を彩る花は季節によって移り変わるし、キンモクセイの香りはだいすきになった。時々、ネコやイヌのパトロールに遭遇するイベントもあるし、毎日同じ道なのに、同じ世界はない。毎日が新鮮だ。すべては心の持ち方と捉え方しだい、ってばあちゃんが言ってた。
そして。
父さんのおかげで、もも先生といづる先生に出逢えた。
この学校の生徒で、多分ー番イケメンなのは俺だ。
親の七光りはだるい事が多いだけって父さんが言ってたけど、『顔が良い』ってことはめちゃくちゃ役に立つ。顔が良いだけでみんな親切にしてくれるし、尊重してもらえる。ちなみにばあちゃんは、顔が良いやつは運が良い、って言ってた。
俺のすげえとこは、さらに頭も良いとこだ。努力の天才だから、不可能はない。ピアノもヴァイオリンも演奏できるし、足も速いし。世界一完璧な中学二年生だ。
けど、やっぱり根本は全部、家族のおかげだ。じいちゃんの会社があるから俺の家族はお金に困らないし、ピアノもヴァイオリンも買い与えてもらえたし、色んな各方面のプロからの個人レッスンも受けられる。じいちゃんが前に言ってたけど、ばあちゃんの許可が出れば俺はどんな有名人にも会わせてもらえるらしい…まあ、テレビの中の人には興味がないからその話は流したけど。
じいちゃんがいなかったら、俺はただのクソガキだ。この容姿すらも、じいちゃんからもらったものだし。
うちの家族の教訓は「有ることが難しい、有り難いことに感謝」、だ。
まあそんな世界一のスーパーじいちゃんがメロメロなのがばあちゃんなわけで。
自分が俺様野郎でクソ生意気だってことは自覚してる。けど、ばあちゃんは、今はまだそのままで大丈夫だって肯定してくれた。神様が、必要な時に必要な経験を与えてくださるから、その時まではそのまま、ありのままの竹朧でいいんだよ、って。
だから俺は、俺自身の事が大好きで、俺には不可能なんてない、この世は努力すればどんな物でも手に入れられる俺の世界だ、って思ってる。
ーーまあ、こんなこと、わざわざ誰にも言うつもりは無いけど。俺は平和主義だし、言わぬが花って、ばあちゃんがよく言うから。
そんな事をぼーっと考えてて、はっとする。
夕食の時間まで、あと30分しかない。勉強しなきゃ。
机の横の本棚から、買ったばかりの参考書をとりだす。一緒に本屋まで付き合ってくれたの、うれしかった。もも先生の黒髪すげえ好きだけど、茶髪ショートもすげえよかった。どきどきしすぎて似合ってますって言いそびれたけど。
ぜってぇもも先生を支えられるいい男になってやるぞ。その為にももっともっと勉強しとかなきゃ。
よし、勉強、やってやるか!
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