第5話 もも先生は抹茶に目がない
ううむ、と鏡の前であたまをかかえる。
正直行きたくない。
誰に見られるか分かんないし。
先週の本屋は、ウィッグしてカラコンまでした。だって私に心を開いて話しかけてくれる唯一の生徒のお願いだったし、
『一緒に参考書選んで欲しいです…』
なんて、いじらしいお願い、絶対叶えてあげたいって思うのが『普通』の教師だと思うし。
喜ぶ竹朧くんの笑顔は実際めちゃくちゃかわいかった。
ーーだけど、今日は問題が別だ。
約束の時間までは、まだだいぶ余裕はある。
「映画のチケット買っちゃったんですが、友人にドタキャンされちゃって…」
と、困ったような顔で山岸先生は声をかけてきた。『もも先生』なら即、断る。
ーー『もも先生』なら。
問題は、その映画がアニメだったこと。しかも、それは『ももさん』が気になっていた映画で…なんなら原作全部追いかけてるくらい『ももさん』が熱を上げてる作品で…
『もも先生』はアニメなんて観ないキャラだ。
なんの偶然か、もしかしたら山岸先生はエスパーなんじゃないのか…そんないろんな葛藤で頭が真っ白になって、気がついたらそのチケットを受け取ってしまっていた。そして断る勇気が出せず、一日が立ち、二日が過ぎ…いよいよ、当日となった。
……ううむ。しかたない。タダだし。奢りだし。どうせ一人では映画館には行けないからって、DVDの発売まで諦めてたわけだから、むしろ倖運と割り切るか……楽しんでくるか…うん、楽しみだ!
待ち合わせ場所ーー映画館の入口ではなく何故か公園を指定されたーーへ着くともうすでに『山岸太陽』はそこに居た。
10分前なんだが…しかも本読んでるし…
ベンチに座って本を読む『山岸太陽』は、きっと『絵になるイケメン』と評価されるんだろう。
私は今日これから数時間、あのイケメンと並んで過ごすのか…他の女子からの妬みの視線が嫌だなあ………ああ、やっぱり帰ろうかなあ…なんて逡巡していたら、『タイミングよく』本から顔を上げた山岸先生が私をみつけてしまった。なんなんだこの人…ほんとにエスパーなのか?
「ももせ……っももさん!」
ーーおい。どうして言い直した。
「『山岸先生』、ごきげんよう。申し訳ないです、遅れてしまって…」
「いえ!まだ…うん、まだ約束の時間前ですよ!僕もついさっき来たばっかなのでお構いなく。それより来てくださって嬉しいです!」
時計から視線をまた私に戻して笑う。
言葉通り、本当に『嬉しそうに』笑う人だ。
この笑顔をみると、自分と本当に同じ人間なのだろうかと不思議に思う。
なんというか…笑うだけでお金を稼げそうな『完璧な』笑顔だと、しみじみ思う。
そして、やっぱり山岸先生の前だと落ち着かなくなる。いづる先生と竹朧くんの前なら平気なのにーーなんなんだろう。私の天敵なのかもしれない。なんだかざわざわする。もう帰りたい…帰ろうかなあ…
「ももさん。実は映画まで少し時間があるので……近くでお茶、しませんか?抹茶スイーツが有名なお店で…」
「どこですか?はやくいきますよ!」
「え…あ、は、はい!」
なぜ、私の好物を知っているのか。
思わず間ひとつ空けずに答えてしまった。
やはり彼はエスパー確定だ。よし、抹茶スイーツを全力で楽しむか。楽しみだ!
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