第36話 再会

「お姉ちゃん!ずっと探してたのよ!ずっと心配して・・・!!」


 アピリスさんは感極まって、そして徐々に驚きよりも喜びが表情に現れて、コンテナの上に立つ少女、アピリスさんのお姉さんとやらに近づこうとした。その言葉と様子で、2人の間の事情が何となく察せられた。つまりこのお姉さんはこれまで行方が分からず、アピリスさんは必死に探していたのだろう。


 だが、当のお姉さんの反応は冷ややかに見える。それはその後、彼女の口から発せられた言葉からも同様だった。


「アピリス、もうこれ以上余計な事はしないで。早く故郷に帰りなさい」

「え・・・、お姉ちゃん・・・?」

「中途半端な知識でゾンビを相手に医者の真似事をしても、無意味よ」

「ちょ、ちょっとまって、お姉ちゃん・・・!」


 どうも、お互いに感動の再会、と言う雰囲気ではない・・・・。その様子を見てジョージさん、メアリさんも戸惑っているようだ。


 ニニカさんだけは微妙にワクワクした顔でボクの方に近づいてきた。


「あの人はね、わたしも初めて見たんだけど、多分アピリス先生のお姉さんのパナテアさんで間違いなさそうね」


 ボクが事情を分かっていないと思って教えに来てくれたらしい。名前を教えてくれるのは助かる。


「何かケンカしてるんですか?」

「分かんない。パナテアさんはこれまで行方不明で、アピリス先生はずっと探してたから、会えて嬉しいんだと思うけど、パナテアさんはちょっと違うみたい?」


 そうこう言ってる間にも、アピリスさんとパナテアさんの会話は続く。


「確かに私は完全な治療方法を知らないけど・・・。お姉ちゃんの知ってる知識と合わせれば、何とかならない!?お姉ちゃんなら私の知らない知識もお母さんから習ってるんじゃないかって・・・」

「そんなものは無いわ。私とアピリスは一緒に学んでいたんだから、知識の量に差はない。私もゾンビの完全な治療は出来ない」

「そ、そんな・・・」


 アピリス先生は混乱と落胆を隠せないようだが、なんとか気持ちを立て直して言葉を続ける。


「それなら・・・!いっしょにDr.アシハラを探そう!お母さんと一緒に研究していたあの人なら・・・」

「やめなさい!!」


 それをパナテアさんは、これまでにない強い口調で止める。


「ゾンビの研究なんてしてる人を信じてどうするの!あんな人を探すのはやめて!」

「あんな人・・・?どうしてそんな事言うの!?お母さんと一緒に研究してた人よ!?大体さっきからゾンビゾンビって、私たちがお母さんから受け継いだ、人を救うための技術をそんな風に言わないで!!」


 アピリスさんの反応に、しかしパナテアさんは苦々しい顔をする。


「あなたがそんな考えだから・・・・っ!!」

「パナテア・・・!」


 パナテアさんの言葉を、彼女の隣に立つ長身の女性が遮る。その言葉はパナテアさんに向けられたもので、特段大きな声ではないが、不思議とよく通る。


「あの男が来てますわ」

「!!」


 その言葉にパナテアさんは、アピリスさんを見下ろしていた顔を上げ、周囲を見渡した。


「フランシス!!」

「わかってますわ・・・!」


 長身の女性、フランシスと呼ばれた彼女は静かに答えると、立っていたコンテナから敷地の反対側のコンテナの上に一気に跳び移った。そして着地の瞬間その美しく伸びた細腕で、その先にいたに殴りかかる。

 だがその拳は空を切る。その代わり、がいた場所から跳びのく影があることはボクにも分かった。その影は、また別のコンテナの上に跳び移ると、月明かりの中にその姿を露わにした。


 男だ。

 金髪碧眼、端正な顔立ち。白のスーツに身を包んだ、すらりとした長身の男。


 その男は優雅な、そして皮肉めいた笑顔をたたえていた。


「残念、もう見つかったか。せっかく感動の姉妹の再会を見ていたかったのに」

「・・・お前は!!」


 その叫びは、誰から発せられたものか分からなかった。アピリスさんか、パナテアさんか、ジョージさんか、メアリさんか、ニニカさんか。ボクや誘拐されていた人々以外の、その場にいた殆どの人がその名を叫んでいた気がする。


「ダンテ・クリストフ!!」

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