第34話 突破口

「表皮が固いってのはシンプルに厄介ですね。治療針が心臓まで刺さらない」

「多少は刺さってはいるけど、体が大きくて薬が効きにくいのもあります」

「デカいだけで芸がないように見えて、意外とアピリス先生の天敵なんですねぇ」

「ねえみんな!分析するのはいいけど、出来るだけ急いでやってくれないかな!?」


 ジョージさんが叫んで抗議する。


 ジョージさんは一人で大男ゾンビを相手しているのだが、力の強さも体の大きさも相手が上のため、基本的にはボコボコにされている。相手を抑えられているだけでも凄いことだ。それを横目にアピリスさん、メアリさん、ニニカさんは作戦会議をしているのだ。それでいいのだろうかとボクが口出ししようとしたが、「危ないので、誘拐された人たちと一緒に下がってて」と言われてそれ以上の事は出来なかった。


「とにかく体の内側まで針を撃ち込まないと。心臓に近ければなおよいんですが」

「じゃあ、奴の左腕を斬り落としてその傷口に針を撃ち込めば!」

「ええ・・・ちょっと絵的にグロテスクすぎるかな・・・」

「先生医者だから平気でしょう!?」

「手術で切るのとはちょっとニュアンスが違うというか」

「あと、腕切った状態でゾンビから治療したら、ちゃんと腕くっつくんですかねぇ」

「そんな怖い事やったこと無いから分からないですよ・・・。とにかく別の案を考えましょう」

「そんな!じゃあ私はどこを斬ればいいんですか!」

「なんでそんなに斬りたいの!?」


 呑気なような物騒なような、おかしな会話を続けている。


「罪もない人を誘拐して無理やりゾンビにするような極悪人は、ちょっとくらい斬って制裁を加えた方がいいですよ!!」

「もう!ちょっとメアリさんは一旦黙っててください!私とニニカさんで考えるから!」

「それならメアリちゃんはこっちを手伝ってくれてよぉ!!」


 メアリさんが戦力外通告された。いや、ジョージさんに戦力として扱われたのか?ややこしい・・・。と思っていたら、ニニカさんがアピリスさんに何やら耳打ちしだした。


「外皮が固い相手の体内に銃を撃ち込む手段としては・・・(ゴニョゴニョ)」

「・・・!なるほど・・・でもそれなら・・・(ゴニョゴニョ)」


 どうやら作戦が決まったらしい?アピリスさんはメアリさんにも小声で作戦を伝えると、ジョージさんには大声で指示を出した。


「ジョージ!そのままその患者に組み付いて動きを止めて!」

「そんな無茶な!?」


 ジョージさんは抗議の声を上げるが、口とは裏腹に、すぐに言われたとおりに大男ゾンビの体を、その両腕もろとも抱え込む。と言っても大人に子供がしがみついているような体格差だ。大男ゾンビは余裕の笑みを浮かべてそれを引きはがそうとするが・・・。


「メアリさん!!」


 アピリスさんの合図と共に、メアリさんが空中に跳び、刀を振るう。先ほどと同じように大男ゾンビが糸に絡み取られる。しかしその糸はすぐに引きちぎられるはず・・・。


 だがそうはならなかった。なぜなら、


「なにぃ!?」

「そ、そうか、俺が一緒に縛られることによって、俺の力とメアリちゃんの糸の力が合わさって!?」


 そう、ジョージさんが抱き着いた状態で、ジョージさんもろとも縛られているのだ。絵面はあれだが効果はシンプルに力の足し算!!これで今までよりは長く敵を拘束できるはずだ!


 そしてアピリスさんが駆け出し、地面を蹴ると大男ゾンビの頭上まで跳び上がり、その肩に足をかけて立った。ジョージさんの頭もちょっと踏んでる気がする。


「なんだぁ!?」


 大男ゾンビが自分の体の上に乗るアピリスさんの方に顔を向け驚きの声を上げると、その大きくあいた口にアピリスさんは銃を突きつける。そうか!体の表面が固くても、口の中なら針が通るかも知れない!!あの位置まで近づくために大男ゾンビの動きを封じたんだ。


 これで治療針を撃てば勝てる!!


 そう思ったが・・・。


「ふぁふぁめ!ふふぃふぉふぉふぃれば!!」


 大男ゾンビはアピリスさんの意図を察知し、口を閉じてしまった!たぶん「ばかめ!口を閉じれば!!」と言っているのだろう。


 そして大男ゾンビは体に力を入れ、結局糸を引きちぎり、ジョージを引きはがして自らの両腕の自由を取り戻してしまった。アピリスさんが危ない!!


「これでいいんですよ、


 だが、アピリスさんは慌てる様子もなく、凛とした声でそう告げると、銃を数発撃ち放った。


「ぐぁぁあああ!?」


 余裕のはずの大男ゾンビから苦痛と困惑の声が漏れる。アピリスさんの針は、全て大男ゾンビの体内にまで深く突き刺さったらしい。


「な、なんで・・・」


 よろめく大男ゾンビから飛び降りたアピリスさんを、ジョージさんが受け止める。


「体が硬いと言っても、動いているなら人体構造があるということ。肩口から心臓まで骨や筋肉のすき間をぬったルートを狙えれば、と思いましたが、上手くいきましたね」


 アピリスさんは、医者が患者に手術の説明をするようなトーンでそう告げた。大男ゾンビはそれを聞けていたかどうか、分からないが、ついにはそのまま気を失い倒れてしまった。その体は急速に元の大きさに戻っていく。


「いえーい!やりましたね、アピリス先生!」

「しかしまあ、結構危なかったなぁ。センセイも下手すりゃ握りつぶされてたよ」

「そうですよ。相手は極悪人なんですから、もっと痛い目見せてもいいのに」


 みんなアピリスさんに近寄り、口々に感想を述べる。笑ったり渋い顔だった李、各々の表情もしているが、全員強敵を倒した安堵も見える。それは彼らだけではない、ボクの後ろにいた誘拐された人々も随分ホッとしているし、そしてボクも・・・


「凄い!凄いですね!!」


 興奮を抑えられず駆け寄る。


「あんなに恐ろしい犯罪者を!あ、そうだ、先にお礼を言わないと。暴漢の鎮圧へのご協力ありがとうございます!」


 ボクは慌てて略式の敬礼をする。


「それにしてもやっぱりすごい!ボクではゾンビに太刀打ちできなかったのに、同じゾンビなら対抗できるんですね!!」


 ボクはさらにアピリスさんの方へグイっと近づく。


「ボクもゾンビにしてください!!」

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