第33話 アピリス診療所の実力
「ゾンビ専門のお医者さん!?」
じゃあ、やっぱりボクの推理は正しかったんだ!という気持ちは一瞬で別の感想に上書きされる。
「いや、そうだとしても何で君たちもゾンビなの!?あと何で『よーしゾンビと戦うぞー』みたいなテンションなの!?あと、銃刀法違反だよ!?」
ズドカァァァアァアアン!!!
ボクの刑事としての追及は、倉庫の中から吹き飛ばされてきたジョージさんの登場によって中断された。ジョージさんはしばらく地面を転がった後に素早く起き上がる。服はボロボロで、体中から緑とか紫っぽい体液が流れ出ているが、本人はいたって元気なようだ。さすがゾンビ。
「着いてるんなら早く助けてくれよ!!」
いたって元気だが、さすがに何人ものゾンビを相手に戦っていて余裕はないらしく、抗議の声を上げる。するとアピリスと呼ばれた銀髪褐色の肌の少女が一歩前に出る。
「ジョージ!状況は!?」
「男のゾンビが5!そのうち1人がデカい怪力タイプで厄介だ。ダンテの手下らしく、一般人を誘拐して無理やりゾンビにして、ダンテに献上しているらしい」
「ダンテ・・・!」
「なんて卑劣な・・・!罪もない人々を無理やりゾンビにするなんてことを、未だ続けているなんて・・・!」
アピリスという少女が歯噛みする隣で、赤髪で刀を持ったメアリという女性が怒りを露わにする。そうこうしていると倉庫の中からゾンビ達が出てきた。ボス格の大男・・・3メートル近いその姿をこうしてみると、改めて圧倒される。
「こいつ等かその外道は!許せない!全員叩き斬ってやりましょう!!」
「わぁ!こんなにデカくなるパターンもあるんですね!ミュータントタイプのゾンビかな!?」
「2人とも、テンション上げるのはちょっとだけ待って!」
少女たちは特に圧倒されていないようだ。だが大男ゾンビは威圧的な下卑た態度で彼女たちを見て笑った。
「おいおい、オッサンのお仲間らしいが、全員女かよ。俺たちのために生贄を献上でもしてくれるのかぁ?ん・・・、なんだぁ?ゾンビがいるじゃねぇか」
「あなたたち!」
大男の声を遮ってアピリスさんが声を張り上げる。
「ダンテに何を吹き込まれか知りませんが、あなた達の症状は病気なんです!このまあ放っておけば危険です!私ならあなた達の病気を治療して、健康に生活を送る手助けができます!だから今すぐバカなことはやめて、私の治療を受けてください!!」
その言葉に、その場にいたゾンビ達はざわっとする。誘拐犯の男達だけではない、誘拐されていた人々もだ。ニニカさんの後ろで怯えながらだが。
「治療・・・治るって、ゾンビから元に戻れるんですか!?」
その中の一人の女性が声を上げると、ニニカさんがニッコリ笑って答える。
「そうですよ!アピリス先生はゾンビ専門のお医者さんですから!」
「本当ですか・・・!」
「よかった・・・!」
誘拐されていた人たちは随分とホッとしたようで、多少緊張がゆるんだ。それもそうか。突然自分がゾンビになってしまい、これからどうなってしまうのか全く分からず不安だったのだ。それがゾンビが治ると知ったのだから。
「ははぁ、なるほど、その見た目にその言動・・・。てめぇがダンテさんが言ってた女、アピリスって奴か」
「アイツから聞いていたのね。それならなおさら、こんなバカなことはやめて治療を受けてください!」
「バカはお前だよ!こんなに好き勝手出来る力をワザワザ手放すか!それに、治療したってどうせ捕まるだけだろ?誰がそんな事を受け入れると思う!」
「はぁ・・・」
大男の発言に、アピリスさんは大きく失望のため息をつく。
「ほら、あんな下衆な奴ら、全員叩き斬るしかないですって!」
「叩き斬るのはちょっと・・・でも・・・・仕方ないですね」
アピリスさんは箱のような形の銃?を構える。
「緊急治療を開始します!」
「バカめ!野郎ども、やっちまえ!!」
大男の号令に、今まで律義に話を聞いていた手下ゾンビ共はこれまた律義に一気に襲い掛かってきた。随分調教された下っ端だ。なんてことを考えている場合じゃなかった。ボクは慌てて前に出ようとする・・・が、
ガシ!
後ろから体を掴まれた!?
ニニカさんがボクの体を掴んで引き留めていた。振りほどくこともできない、見た目に反した強い力だ。これがゾンビの力!?
「危険だから出て行かないほうがいいですよ。アピリス先生達に任せておけば大丈夫。多分、きっと」
「自信ないの!?」
「だってあのミュータントタイプのゾンビの強さ知らないし」
そんな事を言い合っている間にも敵のゾンビ達は迫って来る。それを迎え撃つ形で最初に動いたのはメアリさんだった。
彼女が地面を蹴ってジャンプすると、普通の人間ではありえない高さまで上昇した。敵のゾンビ達の上空でその手に握った赤い刀を数度振ると、月光に照らされた闇夜の中に、まるで剣閃が目に見えるかのように赤い煌めきの線が走る。そして彼女は地面に着地しながらのその刀を振り下ろす。ただし、その場所は敵のゾンビ達を飛び越した、誰もいない場所であったが・・・。
ズシャァ!!
彼女が刀を振り下ろした瞬間、敵のゾンビ達が一斉に斬られた!その体に裂傷が現れ、体から緑とか紫っぽい体液が飛び散る。
「グワァァァアア!」
「ウギャァアア!!」
斬られたゾンビ達が叫び声を上げる。あの一瞬の間に、刀を相手に触れさせること無く、全員斬ったのか!?
「って言うか斬っちゃって大丈夫なの!?死んじゃわない!?」
「大丈夫ですよー、ゾンビだから、体斬られたくらい」
ボクが思わず漏らした叫びに、後ろからニニカさんがあっけらかんと言ってくる。
「それにほら、あれは斬るのが目的じゃないし」
そう言われてゾンビ達の方を見ると、斬られただけでなく、彼らは何か赤い糸のようなもので体を拘束されて身動き取れなくなっていた。大男も同様だ。―――いや!
「一人逃がした!」
メアリさんが厳しく叫ぶと同時に、敵の手下のゾンビの一人が飛び出して、ボク達の方へ向かってきた。
「何だから知らんが人質を取れば!!」
ボク・・・というより、その後ろの誘拐されていた人たちを狙っているのか!?だが、それに対してジョージさんが突進して止める。
「大人しく寝てろ!!」
ジョージさんがそう言うと、バチィ!!と激しい音と光を出して敵のゾンビの体がビクッと跳ね上がる。そうだ、あれはスタンガンを食らった人間と同じような反応だ。敵のゾンビはぐたっと力をなくすと、ジョージさんは相手の体を他の身動き取れなくなっている敵ゾンビ達の方に放り投げた。
メアリさんとジョージさんは一瞬で敵ゾンビ達を無力化したが、その時大男ゾンビが怒りにまみれた声を上げる。
「ふざけるな!こんなくらいで、いい気になるなよ!ゾンビはいくらやられてもすぐに回復するんだ!!」
そう言うと大男ゾンビは、自らを縛る糸を引きちぎろうとする。他の縛られたゾンビ達も同様だ。体中を斬られたのに今はもう大して痛がりもせずにその糸から逃れようとしている。
だがその時、アピリスさんが手に持った箱のような形の銃を構えて駆け出す。まず手下のゾンビ4人の集団の中に飛び込み、駆け抜けざまに4人全員に銃を撃ち放ち、そして最後に一番奥の大男ゾンビにも数発撃ち込む!
「ええええ!?」
さすがに一般人が銃を撃って大丈夫なのか!?いや、刀を振り回してる時点で大概だけど、とボクは慌てるが、よく見ると撃たれたゾンビ達の胸の部分に針のようなものが刺さっているのが見える。するとさっきまで暴れていたゾンビ達が急に気を失い、その場に倒れだし・・・さらにその顔色も、青緑色から血色の通った色に戻っていった。
「ゾンビが・・・治った・・・!?」
「ふふふ、どうです、凄いでしょう!」
ボクが呆然と呟くと、後ろからニニカさんが得意げに口を出してきた。
「赤髪のメアリさんは糸の使い手!その糸で敵を斬ったり、拘束したりと自由自在!くたびれオジサンのジョージさんは電気ショックを使う格闘タイプ!そしてアピリス先生のニードルガンで打ち出された治療針で、暴れるゾンビ達も強制的に治療してお大人しく出来るってわけ!」
「本当かい!?す、すごい・・・・!!じゃあ君も何か凄い能力が・・・!?」
「わたし?わたしは何の能力も持たないか弱い一般ゾンビ・・・。いざとなったら目玉を取り外れるくらいしか能がない・・・」
「なにそれ?」
ボクは少し気が緩んでそんな会話をしていたが・・・、
「てめぇら、ふざけるなぁぁああ!!」
倒れこんでいた大男ゾンビが、体を縛っていた糸を引きちぎりながら立ち上がる。
「げげ!アピリス先生の治療針が効いてない!?」
ニニカさんが驚いてうめく。そう言われてみれば、ゾンビが治ってるなら彼の体も縮むはずだが、特に変わらず大きいままだった。確かに効いていないのか!?
「一瞬フラッと来たが、俺には効かないみたいだなぁ!薬も!体を縛る糸も!!」
そう言いながら胸に刺さった針を引き抜く。
「まさか、筋肉が分厚すぎて十分に針が届かない!?」
アピリスさんが焦りながらそう分析する。
「くそ!」
メアリさんは再び刀を振り、大男ゾンビを糸で拘束しようとする。だが――――。
「うらぁ!!!」
大男は力任せに糸を引きちぎった。
「げげ!300キロのバイクを止めらえるくらい強い糸なのに!?凄い!大型パワータイプのゾンビだ!」
ニニカさんは狼狽えた後に、何故か興奮しだした。
「一瞬ビックリしたが、テメェらの銃も、糸も、あとその男の力も、俺の敵じゃないみたいだなぁ!このまま全員ぶっ殺してやるぜ!!」
大男ゾンビがそう吠えると、ジョージさん、メアリさん、アピリス先生は険しい顔で改めて臨戦態勢を取る。
「これは結構、シンプルにピンチなのでは!?」
「キミは何でそんなに呑気なの!?」
ニニカさんだけはボクの後ろで興奮して実況している。
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