第30話 刑事の仕事

「ダンテ・クリストフ・・・?それがお前たちのボスか!?」


 ボクがそう問い詰めると、スキンヘッドの大男は考え込むように顎をさすりながら、ニヤニヤしながら答えてきた。


「ボス?そんな風に呼んだことは無いが、まあそうだな。あの人は俺の恩人だからな。何せあの人が俺をゾンビにしてくれて、そしてゾンビを作る方法まで教えてくれたんだからなぁ」

「え・・・?ゾンビを作る・・・!?」

「そうさ!ダンテさんはゾンビを沢山増やそうとしているんだ!ダンテさんがゾンビを生み出し、そしてダンテさんに認められた俺のような特別なゾンビが、またダンテさんのためにゾンビを増やしてるのさ!!」

「ゾンビを生み出すって・・・どうやって?ウィルスを感染させたりしているのか!?」

「あー、ウィルスか。そんなイメージあるよな。だが実際は違う」


 大男がしたり顔で解説を始めると、周囲の手下達が困った顔で何やら呟いているのが分かった。どうも「また始まったよ・・・」「説明したがりだからな・・・」というようなことをヒソヒソと言い合っているようだが、大男は気にせずに続ける。


「結構面倒なんだぜ、何せ、ゾンビにする奴を一度んだからな」

「殺す・・・・!?」


 ボクはいまいち話が飲み込めなくて眉をしかめて聞き返した。大男はニヤニヤしながら話を続けた。


「言った通りさ!ゾンビにするには一回殺さないといけないんだよ。お前も今から殺してやるから覚悟しろ!なに、安心しろ。ゾンビになったらちゃんと生き返るからよ!」


 大男はついに声を出して笑い出したが、ボクはそんな事を気にしていいられなかった。なぜなら、この大男の言う事が本当なら・・・。


 ボクは捕えられていた人たちを見る。全員怯えた顔でこちらを見たりうつむいていたり。そして、今ようやく気付いたが、その全員が、服の一部が破け、血がべったりついていた・・・!


「それじゃあお前!この人たちを酷い目に合わせたのか!!」


「殺す」という言葉を口にするのは躊躇われた。だが大男はそんな事気にしないようだ。


「さっき言っただろ、殺してゾンビにしてやったんだよ!!」

「なんて・・・なんて酷いことを!この人たちを傷つけて怯えさせて、何でこんなことをするんだ!!」

「だから!さっきも言っただろう!ダンテさんに献上するんだってな!!お前頭悪いだろ!!」

「いや、おかしいだろ!」


 ボクは全く理解できないことだらけで声を荒げた。


「キミの話だと、キミもそのダンテって奴に殺されてゾンビにされたんだろ!?なんでそいつのために働いてるんだ!?ゾンビになったらダンテって奴に逆らえないように洗脳でもされるのか!?」

「ははぁ、なるほど、それが理解できないのか・・・。それなら簡単さ。俺はゾンビにしてもらって感謝してるんだ!!」

「ええ!?ゾンビになって感謝!?」

「そうだ!これを見ろ!!!」


 そう言うと大男は自らの体にぐっと力を入れる。すると・・・。


 メリッメリッメリメリ!!!


 異様な音をたてて大男の体がさらに大きくなる。


「な・・・!」


 ボクは唖然として声を上げる。そこには、全身の筋肉が人間離れして盛り上がった、3メートルに届くかのような超大男の姿があった。ボクは驚きのあまり感情が追い付かなかったが・・・捕らわれている人たちはヒッと悲鳴を上げて怯えすくみ上っている。


「どうだ!俺のような特別強い力に目覚めたハイゾンビは、こんな能力まで得られるんだ!この力があれば俺はやりたい放題だぜ!!だからダンテさんには感謝しかねぇのさ!!」

「じゃあ、キミの手下たちは・・・!?」

「こいつらも同じさ、ハイゾンビとまでいかなくても、ゾンビになれば、普通の人間よりもはるかに強くなれるからな。まあゾンビの才能が無いと意識の無いゾンビになる奴もいるが・・・。こいつらはそうじゃない。俺と一緒に好き勝手やることにした奴らが集まってるのさ!」

「本当か!?キミたち!この大男に脅されているだけじゃないのか!?」


 ボクは周囲の手下たちに問いかける。が、彼らはヘラヘラといやらしい笑いを浮かべるだけだった。どうやら彼らは自分の意志でこの大男に従っているらしい。


「なんて奴らだ・・・!」

「そういう訳さ、これからお前はゾンビになるわけだが、もしその気があれば俺の仲間にしてやってもいいぜ?」

「断る!ボクは市民を守る刑事だぞ!悪の手先になんてなるか!」

「そうかい、じゃあゾンビになってこいつらと一緒にダンテさんに献上してやるぜ」

「それも断る!」

「はぁ!?」


 ボクの言葉に大男は素っ頓狂な声を上げた。ボクが泣いて許しを請うとでも思ったのだろうか。


「誘拐の現行犯を見逃せるわけないだろう!彼女たちを助け出して、安全を確保するのがボクの仕事だ!」

「バカかてめぇは!お前もその誘拐される奴らの中に入ってるんだよ!この俺の圧倒的な強さが見て分からないのか!?俺から逃げられるとでも思ってるのか!?頭おかしんじゃねぇのか!!」

「頭がおかしいのはキミたちだろう!人々を傷つけて勝手にゾンビにして、そして誘拐するなんて!まともな人間のすることじゃない!そんな事も分からないのか!!」

「てめぇ・・・!!」


 ボクの言葉が癇に障ったのか、大男の顔からニヤついた笑みが消え、怒りの色に染まる。その巨大な筋肉の塊と化した右腕を振りかぶってこちらに殴りかかってこようとしている。


 傍にいる捕らわれた人たちが恐怖から悲鳴を上げる。この人たちを危険にさらすわけにはいかない!ボクは後ろ手に縛られたままだったが、体に勢いをつけて立ち上がり、そのまま大男に体当たりする!だがその巨体はビクともしなかった。ゾンビの力がこんなにも強力なものなんて。普通の人間・・・少なくともボクの力では太刀打ちできないだろう。だけど・・・ボクが大男に近づいたことで、ボクが殴られても他の捕らわれた人たちにまで被害が及ぶことは無くなったはずだ。


「もうこんなことはやめろ!警察からは逃げられないぞ!!」

「うるせぇ!このクソバカ野郎が!!」


 大男はボクの体を掴み、その両腕で持ち上げる。そして思いっきり地面に叩きつけようとしているらしい。こんなバカ力で投げられたらたまったものじゃない!何とか受け身を取れるか!?


 そう頭を働かせていると・・・。


 ドガァアアア!!!


 倉庫の外へと繋がる扉が大きな音をたてて、外から中に向かって吹き飛んだ!!


「な、なんだ!?」


 全員がそちらの方を見る、と、破壊された扉から一人の男が入ってきたのが見えた。


「てめぇ!誰だ!!」


 手下が口々に男の正体を問いただすが、入ってきた男は彼らにではなく、・・・・ボクの方を見て話しかけてきた。


「よう、よく頑張ってるみたいじゃないか、刑事さん」


 その男は、つい先ほどまでボクが尾行していた人物。ゾンビ専門の診療所にいたあの男、バイトの女の子が名前を言っていた・・・そう、ジョージさんだ!

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