第31話 銀髪に褐色の肌の少女
「誰だてめえは!って言ってんだろうが!!」
大男はボクを担ぎ上げたまま、ジョージさんにもう一度怒声を浴びせた。だがジョージさんは相変わらずそれには答えず、ボクに向かって話しかけてくる。
「おーい、刑事さん!一応確認だけど、このいかつい男達が、あんたや、そこで怯えてる人たちを誘拐した犯人なんだよな?」
「え・・・は、はい!このゾンビの男たちが、このゾンビの人たちを無理やりゾンビにして、ダンテとか言うゾンビの親玉の所に連れて行こうとしてて・・・」
自分で言っておいてなんだけど、ゾンビばっかりで話しにくいな!
「おい!テメェ!あんまりしゃべるな!!!」
ボクを担ぎ上げた大男が、ボクを持つ手の締め付けを強くした。
「いたたたた!とにかく早くあなたも逃げて!警察を呼んでください!あなたまで襲われたら危ない!!・・・て、あれ?」
とても周りに気を配れる状態ではないのだが、それでも見逃せない事実が目に入った。ジョージさんの肌も青緑色になっている。つまり・・・?
「ええ!?ジョージさんも、ゾンビ!?」
どういうことだ!?ゾンビ専門のお医者さんだという情報で調べていたけど、そうじゃ無くてゾンビだった!?ゾンビだったらこの大男達の仲間!?いや、大男たちの反応からすると知り合いじゃないらしい。ゾンビ同士の抗争!?ゾンビはダンテとかいう黒幕が生み出してると言っていたけど!?
アイタタタタ!大男に担ぎ上げられたままじゃ、まともに推理も出来ない!!
「俺を、無視するなぁ!」
しびれを切らした大男が、なんとボクを思いっきり振りかぶる。いや、待て待て何をするつもりだ!!?
「邪魔する奴は、全員、ぶっ殺す!!」
大男はボクをジョージさんの方にぶん投げた!!
「うわぁあああああ!!!」
何も考える余裕もなく、ただただ叫び声を上げてジョージさんの方に飛んでいくボク。
ガシィ!!!
激しい衝撃に体が軋む!・・・だが、想像していたより痛みは少なかった。なぜなら、ジョージさんがボクの体をしっかりと受け止めてくれていたからだ。
「チッ!!」
大男は思い通りの結果にならなかったようで、苛立ちを見せた。一方ジョージさんはやれやれと言いながらも不敵な笑みを見せていた。
「あ、ありがとうございます・・・」
「まあまあ、さすがにタダの人間があの勢いで叩きつけられたら死んじゃうからね」
そう言いながらジョージさんはボクを地面に立たせると、ボクを縛っていた縄を引きちぎって、ボクを自由にした。
「あの!助けてくれるんですか!?あなたは一体何者なんです!?」
「いやー、通りすがりのゾンビと言うか・・・」
「あなたはあいつ等やダンテの仲間じゃないんですよね!?」
「おい、テメェ、ダンテさんの名前を軽々しく言うんじゃねぇ!!」
「自分でボクに教えたくせに!!」
ムカついたので思わず反論すると、周りの大男の部下たちも「だよなぁ」と頷いていた。それがまた大男の逆鱗に触れたようだ。
「うるせぇ!!テメェ、俺から逃げられると思うなよ!?そんなゾンビ一人助けに来たくらいで!そこのゾンビも、くだらない正義感で首を突っ込んできたのはバカだったな!お前もダンテさんに献上してやるぜ!!」
結局自分でもダンテの名前を言ってるし。
「おい、刑事さん」
ジョージさんが大男に聞こえないように小声で話しかけてくる。
「アイツらは俺がひきつけるから、刑事さんは戦いに巻き込まれないように、そこの誘拐されたゾンビの人たちを倉庫の外に連れ出すんだ。」
「ええ!?あなた一人であいつらを!?無茶ですよ!!大体市民にそんな危険な事させられない・・・」
「そんな事言ってる場合か!俺はゾンビを相手にするのが仕事だから気にするな」
「仕事・・・!?まさか警察内部の秘密ゾンビ部隊とか・・・!?」
「なんだそりゃ、そんなんじゃない!・・・善意の協力者ってやつだ!とにかくやれ!!外に出たら、俺の仲間がもうすぐ来るはずだから、そいつらに助けてもらえ!!」
「仲間!?」
「何人かいるけど、その一人は銀髪に褐色の肌の少女だから見ればわかるはずだ!!」
「何その属性多めな設定!?」
ボクは思わずツッコみを上げたが、大男たちが痺れを切らしそうになっているのを察したのか、ジョージさんはボクを押しのけて駆け出した。
まず手近な手下その1を駆け寄りざまに右のパンチで殴り倒し、その傍の手下その2を掴んで大男の方に放り投げ、そのまま自分の大男の方に距離を詰める。大男は飛んできた手下その2を手で払いのけ、迫って来るジョージさんに右パンチを繰り出した。3メートルもの巨体から繰り出されるパンチは拳の大きさだけでも凶器のようだったが、ジョージさんはそれを両の手で受け止める。一瞬の拮抗状態の間に、ジョージさんはボクの方をチラリと見て目で合図を送る。手下その1,2を倒し、その他の手下もジョージさんに気を取られたことで、誘拐された人達の周囲がガラ空きになっていた。
ジョージさんの正体など気になるが、今は考えている場合じゃない!ボクは急いで誘拐された人達に駆け寄り、座り込んでいた彼らを立ち上がらせた。
「ボクは刑事です!今のうちに逃げましょう!!」
恐怖から腰が抜けた女性もいたが、何とか抱えて立たせてあげる。誘拐された人達をともないって、周囲の敵のゾンビ達を警戒しながら倉庫の外へと駆け出した。ジョージさんは大男に吹き飛ばされた・・・ように見えたが、その実自分から飛びのいたらしい。大男たちと逃げ出すボク達の間に陣取り、ボク達が逃げるのをサポートしてくれている。
「チッ!逃がすな!!さっさとそいつをやっちまえ!!!」
大男の号令で手下たちはジョージさんに襲い掛かる、もしくはジョージさんを避けてボク達を追いかけようとするが、ジョージさんは大分戦いなれているようだ。巧みに手下たちの行動を遮り、引き付けてくれている。時々ジョージさんが敵に触れた手がバチッ!と音をたてて発光し、相手が吹き飛んだりしている。何が起きてるか全く分からないが、今は頼もしい。
ボク達は何とか倉庫の扉から外に出るところまでいった。このまま逃げたい気もするが、ジョージさんを置いて逃げるのも心配だし、言われたとおりにジョージさんの仲間を探すことにする。銀色の髪に褐色の肌の少女、その他にも何人かいるらしいが・・・。
人質達を建物の影に避難させながら、ボクは周囲を見渡す。
すると・・・
月明かりで出来た倉庫の影から、一人の人影が現れた。月の光に照らされたのは、銀色に輝く美しい髪、そして吸い込まれるような褐色の肌。16,7歳くらいだろうか。一人の少女だった。あまりの美しさに息を飲む。まるでこの世のものではないかのようだ。心なしか、まだまだ暑いのに急に寒気を覚える。
ジョージさんの言う特徴に一致する。この人が仲間だろう。だが、ボクはつい言葉を失ってしまっていた。すると、彼女の方が先に口を開いた。
「ここか、ゾンビが大量にいるという場所は・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます