第29話 捕らわれの刑事
車で連れ去られた女性と
幸いというか、倉庫街で人通りが少ない上にすでに日も落ちているので、俺がゾンビだと気づかれる危険性も低いだろう。という気休めの言い訳をすることで後は細かいことは考えないようにした。人間離れした速さで走る男は多少目立つかもしれないが。
とは言え、車より速いということは無い。ある程度までは追いすがったが、最終的には見失ってしまった。ただし、見失った時に車が向かっていた場所は倉庫街のさらに奥まったところにある、港に近い一角だ。恐らくは、車はこの区画のどこかに目的地があるはずだ。一つ一つ探していくしかない。
◆
天神警察署、特別捜査二課の期待の新人刑事であるボク、
犯罪者に後れを取ったことは刑事として恥ずかしい。ともかくボクは車で運ばれながら女性を助ける機会が訪れるのを待つしかなかった。そして車はしばらく乱暴に走った後に停止し、ボクと女性は車から降ろさた。手を縛られ、袋で頭を覆われたままボク達は少し歩かされ、どうやら何かの建物の中に連れてこられたようだ。
「オラ!手間かけさせやがって!!!」
男の乱暴な声と共に、頭の袋は取られ、そしてボクは突き飛ばされ床に倒れこんだ。すぐ傍に女性も同じように突き飛ばされる。
「何するんだ!彼女に乱暴な事するのはやめろ!!」
ボクは反射的にそう叫んでから・・・、周囲の状況が色々とおかしいことに気づいた。場所はどこかの廃工場か廃倉庫といった様子。その建物の中には今いる広い空間があり、その周りに小さな部屋がいくつもあるようだ。裸電球がチカチカと、暗い光をかろうじて放っている。そんな中、広間の中には先ほどボクと一緒に連れてこられた女性だけではない、4人ほどの男女が両手を後ろで縛られ、一カ所に集められ座り込んでいた。その周囲をこれまた5人ほどの男達が取り囲んで威圧的な態度で見下ろしている。見た目で人を判断するのは良くないかも知れないが、男たちは全員粗暴で攻撃的な態度を示しているように見える。
ならず者の男たちのアジトに拉致監禁された被害者集団、そこに連れ込まれたのがボクと先ほどの女性、という状況だろう。
ここまでは深く考える必要もなく、ぱっと見て判断できる情報だ。もちろんこれだけでも大事件なのだが、ボクはそこに付随されたもう一つの情報で頭がいっぱいになっていた。
ボク達を取り囲んでいる男達、そして、捕まっている被害者たち、ボク以外の全員・・・・。
「ぞ、ゾンビ!!?」
全員、通常ではありえないような青緑色の顔色になっていた。先ほど助けた女性も、ボクを拉致してきた男達もだ。彼女たちは先ほどまでは帽子とマスクで顔を覆っていたから気づかなかったが・・・。
「全員ゾンビ!?何なんだ君たちは!?」
「おい、なんだこいつは」
ボク達を取り囲んでいる誘拐犯の一人、2mはあろうかという巨体のスキンヘッドの男が、その強面に違わぬ威圧的な態度で、ボク達を拉致してきた男二人に問いただしてきた。
「いや、この女を捕まえる時に邪魔して来やがったんですよ!警察だっていうもんだから、面倒だし一緒に捕まえてきたんです」
「はぁ!?警察だ!?」
スキンヘッドの男がさらに激昂する。状況から察するに、この男がこの誘拐犯たちのボスか?そいつはボクの方に近づき顔を覗き込んでくる。
「お巡りさんよぉ。俺たちを邪魔して一体何のつもりだぁ?」
「何を言ってるんだ!連れ去られようとする人を見たら助けるのは当たり前だろう!!」
「ほう・・・」
ボクの言葉に、大男は片方の眉をピクリと上げた。怒りをぶつけてくるかと思ったが、そうではないようだ。
「なるほど、たまたま居合わせただけか。俺たちの事を警察が嗅ぎつけたのかと思ったが、そうじゃ無いならまだ安心だな」
そう言うと大男は手下の男達の方に怒鳴りだした。
「テメェらがこの女を逃がして!しかも捕まえるのに手間取るから余計な荷物までついてきちまったじゃねぇか!このバカ野郎ども!!」
「す、すいません!で、こいつどうします?見られたからには殺して埋めたりしちゃいます?」
「はぁ?それこそ馬鹿か、お前。せっかくここに来てくれたんだ・・・・」
大男はボクの方を見てニヤリと笑った。
「こいつもゾンビにしちまえばいいじゃねぇか。そうすれば、ダンテ・クリストフさんに献上するゾンビが1体増える」
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