第5話 ゾンビ誕生の秘密
「現代医学では『死亡した』と判断される状況からでも、蘇生させることができる。私が生まれた部族には、先祖代々伝わる独自の『医療技術』があったのです。」
アピリス先生は続ける。
その技術は「巫女」と呼ばれる家系だけが受け継ぐ秘密の技術だった。
死者を蘇らせると言っても、どんな状態からでも蘇るわけでもなければ、その後不死身になるわけでもない。単に、普通の現代医学よりも、ちょっと性能がいい蘇生技術、というだけだった。
だが2つだけ問題があった。
1つは、その原理が現代医学や科学では解明できない事。
もう1つは、治療を中途半端に行うと、異常再生力をはじめとした、人並み外れた能力が現れるようになる事。
「あなた達が『ゾンビ』と呼ぶ症状は、治療の途中に現れる副作用なんです。だから私はあくまで『病気』と呼んでいるんです」
「副作用で・・・あんなゾンビになったり、狼男みたいになったりするんですか?どういる原理で・・・?」
私は疑問をぶつけたが、アピリス先生は頭を横に振るだけだった。
「言ったでしょう。『原理が分かっていない』と。私達も、手順と結果を知っているだけで、なぜそうなるかは分からないのです。だからこそ秘密にしておきたかった」
その理由は容易に想像できる。絶対に悪用する者が現れるからだ。
「私の母が当代の巫女でした。私と、私の双子の姉は街の学校で医学を学びながら、
母からこの技術の勉強をしている途中でした。ですが・・・」
アピリス先生は自らの気持ちを落ち着かせるためか、少し間を置いた。
「母と私達姉妹は、蘇生技術を狙う者たちに襲われ、母は殺されたのです。そして蘇生技術の知識は、その一部を盗まれてしまった・・・」
「そんな・・・・」
私は言葉を失っていた。
「その後姉は行方不明に、私も、犯人たちを捕まえるために旅に出ました。しかし、私たちが危惧していたように、犯人たちは中途半端な知識で蘇生技術を使い、その患者たちが「人を襲う怪物」として野に放たれていることを知りました。彼らはきっと「実験」をしているのです。蘇生技術を完成させるために・・・、そして、より強い兵士を作るために。あの狼男のように・・・」
「じゃあ私も・・・」
「はい・・・あの狼男に致命傷を負わされた後、 中途半端な蘇生術を施されたのでしょう」
ゾンビというだけで浮かれていたが、実際に人死にが出るような事件が起きていたと聞くとゾッとする。
「だから私は、病気にされた人を治療するために病院を開いたのです。ですが、私は勉強中だったため、蘇生術の全ては知らないのです。症状を抑える事は出来ても、完治させることはできない・・・・」
そこまで話すとアピリス先生は私の手を握った。
「あなたの言う通り、この技術は死後時間がたった人を蘇らせることはできない。それに、完全な状態で蘇生治療を行える人間も、今は存在しない。だから、もうこの技術を追い求めるのはやめてください」
「先生・・・・」
先生のケガをした肩に目が行く。
すでに応急処置は終わっているが、血が滲み痛々しい。
私の考えなしの好奇心のせいで、先生やジョージさんを危険にさらしてしまった。
それに、先生がここまで詳しく身の上から話してくれたのは、私に対する誠意だ。私もそれに答えないと。
「分かっています。もう、人をゾンビにする方法を求めたりしません」
「・・・ありがとう」
アピリス先生の顔に、ようやく少しだけ微笑みが戻った。
「ありがとうな、ニニカちゃん」
ジョージさんが扉の傍から声をかけてくる。
急に話に入ってくるからビックリした。
「センセイ、なんでも自分一人で頑張ろうとするくせがあるからさ。ニニカちゃんと腹割って話せて、ちょっと気が楽になったみたいだよ」
ジョージさんはそこでちょっと意地悪そうな笑顔を作ってアピリス先生を見た。
「これからはもっと周りを頼ることを覚えてほしいですね」
「もう!何ですか、横から入ってきて!」
アピリス先生はむくれてしまった。
「ちゃんと外の警戒してくれてるんですか?」
「もちろんですよ。扉の外には気配は全然ないです」
「本当ですか?流石にそろそろ敵に見つかってもおかしくない頃だと思いますが・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
そう言えば
「結構長く話してるのに、全然来ないね」
私がボソッと言った瞬間、
「ナンダ、もう終わりカ。大した話はナカッタナ」
「!!!」
声は・・・上からだった!
ドガアァァアア!!
「キャァア!!」
次の瞬間、天井の一部が崩れ落ちてきた!
幸い瓦礫に潰されることは無かったが、崩れた穴から狼男ゾンビが飛び降りてくる。
「上にいたのか・・・」
ジョージさんが恨めしそうに呻く。
アピリス先生から情報を引き出そうと、上の階で聞き耳を立てていたのか・・・・。
「コレ以上は痛めツケテ聞き出すしかナイようダナ・・・」
狼男ゾンビが話している間にも、天井の穴からゾンビ犬が降りてくる。
この部屋はマズい!
「逃げろ!!!」
ジョージさんが扉を開ける。
私とアピリス先生は立ち上がるやいなや扉へ向かって駆け出した!
当然、狼男ゾンビとゾンビ犬は飛び掛かてくる。
追い付かれる!!
――――と思ったが、
ガシィィ!!
「ジョージ!」
「ジョージさん!?」
ジョージさんが部屋から出る私たちの後ろに立ちふさがり、
ゾンビ犬達をその体で受け止めた。
だが・・・ゾンビ犬達の爪や牙がその体に食い込んでいる!
いくら何でも無茶だ!
ただのおじさんに・・・・
だが・・・
ジョージさんは背後のアピリス先生をチラリと振り返り見て、ニヤリとして言った。
「さっきも言いましたけど・・・・そろそろ俺を頼ってもいいんじゃないんですか?」
「分かっていますよ・・・!」
アピリス先生は決意を込めた・・・、そしてどこか清々しさを感じる顔で言い放った。
「
「りょーかい!」
ジョージさんは、ゾンビ犬を抑え込んだまま、自らの首元のシャツの中へ右手を入れた。そして何かを取り出す。
あれは・・・・
私がアピリス先生から貰ったのと同じ、ゾンビ症状抑制の薬袋!
ネックレスにして首にかけていたものを掴んだのだ。
「何ヲする気ダ!!」
訝しんだ狼男ゾンビがジョージさんに向かって突っ込んでくる!
だが、その前にジョージさんは、首から下げた薬袋を引きちぎり投げ捨てた。
途端・・・ジョージさんの肌が青緑色に染まる――――。
「オラァ!!」
体に牙を食い込ませたゾンビ犬達を片手に1体ずつ掴み、力づくで引き離し、右手のゾンビ犬を大きく振りかぶって・・・、狼男ゾンビの方に力任せにぶん投げた!!
「グゥッ!?」
狼男ゾンビはカウンターを食らう形で体勢を崩し、そのまま壁際まで吹き飛ばされた!
周囲にいた他のゾンビ犬も巻き込まれて方々に飛ばされる。
「まだまだぁ!」
ジョージさんは左手にゾンビ犬を掴んだまま、狼男ゾンビに向かって突っ込み、そして、左手のゾンビ犬も叩き込んだ!!
ドガァァアア!!!
今度は部屋の壁ごと突き破った!!!
狼男ゾンビはビルの外まで吹き飛ばされる。
「よっしゃぁ!」
ジョージさんはそれを見下ろし、ガッツポーズを取る。
ゾンビ犬に噛まれた体は、もうとっくに治っていた。
青緑色の肌。
人並み外れた怪力と再生力。
「ゾンビじゃん!!」
私はアピリス先生の肩を掴む。
「先生、ジョージさんはゾンビじゃないって言ってたじゃん!」
だがアピリス先生はムッとした顔ですぐに反論した。
「だから、あれはゾンビじゃなくて病気だって言ったじゃないですか!」
「そういう意味の発言!?」
私の聞き方が悪かった、という事か。
私達がそんな話をしている横で、
ジョージさんは部屋の中にいたゾンビ犬を全部外に放り出していた。
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