第4話 狼男タイプのゾンビ
ウォォォオオオオオン!!!
廃ビルの屋上で狼男ゾンビが雄たけびを上げる。
そして次の瞬間には、そこから私たちの方に飛び掛かってきた!!
5階ほどもあるビルの屋上から一気に!
「きゃぁ!!」
私は慌ててその場から逃げる。
アピリス先生とジョージさんも慌てて身をかわしていた。
ドゴォ!!
私達がいたところに狼男ゾンビが着地する。
その足元は地面が少しえぐれてしまっていた。
私はゾッとした。
あの場所にいたままだったらどうなっていたか、という事と、
あんな衝撃で飛び降りてきたのに、
この狼男ゾンビが何事も無かったかのように立ち上がってきた、という事に。
間近に来たことで、男の状態がより正確に分かった。肌はやはり私と同じように青緑色に変色している。そしてその場所から獣の毛が生えることで、狼男のような様相になっている。口は牙が伸びて綺麗に閉まらないのか、よだれが溢れているし、白目をむいて正気であるかどうかすら分からない。
私が殺された時は一瞬だったので、こんな姿だったかは思い出せないが、その手に伸びた長い爪は目に焼き付いている。私を殺したゾンビに間違いないだろう。
「しまった・・・!」
アピリス先生の苦々しい声で、私たちが置かれた状況のマズさに改めて気づいた。
咄嗟に逃げた結果、狼男ゾンビは私達と、私たちが乗ってきた車の間に位置していた。
つまり、車に乗って逃げることは難しい。
狼男ゾンビは明らかに殺気立ってこちらを威嚇してきている。
またアピリス先生が戦うしかないのか・・・。
そう思っていたが、しかし
アピリス先生は銃口を狼男ゾンビに向けてはいなかった。
「落ち着いてください!私は医者です!あなたを助けに来ました!」
「ええ!?」
まさかこの状況で、患者として助けるつもり?
さっきゾンビ犬に襲い掛かられて、ほんの今、明らかに殺される勢いで攻撃されたのに!?
そんなこちらの気も知らず、アピリス先生は狼男ゾンビにゆっくり近づこうとした。
だが・・・
「馬鹿ッ!!!」
ジョージさんが叫ぶのとほぼ同時に、狼男ゾンビの姿が消えた!?
いや、アピリス先生の方へ突っ込んだのだ。
「!!」
アピリス先生は身をよじり、迫りくる爪の一撃を避ける。
そのまま地面を転がって距離を取り、体勢を立て直す。
「先生!」
先生の肩口が引き裂かれ、血が流れだしていた。
避けきれていなかったのだ。
慌てて先生の元に駆け寄る。ジョージさんも先生の前に立ちふさがった。
狼男ゾンビはというと、深追いはしてこず、引き続き私たちが車に乗り込めない位置に陣取っていた。
襲い掛かってこないのか・・・。
と思っていたら、その口がゆっくりと開いた。
「おまえ・・・『銀のアピリス』か・・・・!」
「!!」
アピリス先生とジョージさんに緊張の色が走る。
アピリス先生は痛みのせいか、それともそれ以外の理由もあるのか、苦々しく問いかけた。
「あなた・・・!やっぱり奴の命令を受けているのね・・・!?」
「ヤハリそうか・・・!我らゾンビを生み出す者を野放しにはデキん!!!」
「!!」
アピリス先生の表情が一層険しくなる。
え!?どういうこと!?アピリス先生がゾンビを生み出している?
私は意味を理解しきれず、誰かに問いただそうとしたが、狼男ゾンビはこちらを待ってはくれないようだ。
ウォォォオオオオオン!!!
狼男ゾンビは再び雄たけびを上げた。
すると廃ビルの周囲を囲む森の中から、ゾンビ犬が沢山・・・5体くらい?現れて、私達は廃ビルを背に取り囲まれてしまった。
これはどう考えてまずい。
「イケ!!」
狼男ゾンビの号令で間髪入れずに襲い掛かってくる。
「くそっ!ビルの中に逃げ込め!!」
ジョージさんが声を上げる。
先ほどまでゾンビが潜んでいたビルに入るのは心配ではあったが、今はそんな事気にする余裕は無かった。とにかく少しでも身を隠さないと。
幸い、ビルの中に他の気配はないようだったので、入った瞬間襲われることはない・・・と信じることにした。
「先生!だいじょうぶ!?」
「え、は、はい・・・」
取り合えず私はケガをしているアピリス先生の体を支え、先ほど男たちが出てきたビルの入り口に向かって走りだす。
だがやはりゾンビ犬は速い!
2匹ほどがすでに間近に迫り、飛び掛かって来る。
「先生!!」
私は無我夢中で先生の体に覆いかぶさる。
「ちょ、ちょっと!!」
ところがアピリス先生は慌てて彼女と私の体の位置を入れ替えて、私が先生に庇われる形になった。
ええ!?なんで!?
このままじゃアピリス先生がゾンビ犬に襲われてしまう!
焦った瞬間――――
バチィ!!
「ギャウン!!!」
衝撃音と共に、襲い掛かって来ていたゾンビ犬が弾かれ、悲鳴を上げる。
「早く行くぞ!」
その脇からジョージさんが私達を急かす。彼がゾンビ犬を吹き飛ばしてくれたらしい。
そのまま私達3人は何とかゾンビ犬達に追い付かれずにビルの中に飛び込み、その扉を閉めカギをかける。
ゾンビ犬達が外でガンガンと扉に体当たりを続けているが、すぐに破られるほどではなさそうだ。
「あの狼男がここを壊す前に、ちょっとでも隠れられる場所に行くぞ」
ジョージさんが私達を促す。
◆
取り合えず私たちはビルの2階、倉庫のような部屋に隠れた。
あまり考える時間も無かったので、入り口にカギがかけられる部屋があったので、そこに入っただけだ。
「俺が入り口を見張っとくから、センセイは応急処置しておいてくださいよ」
と言ってジョージさんは部屋の入り口に張り付いて外の様子を伺う。
アピリス先生は身に着けていたバッグから消毒液や包帯などを取り出して、テキパキと自分の応急処置を始めていた。
「あの・・・私もなにかできる事ないですか?」
プロとは言え、自分の治療を自分でするのは大変だろうと思って声をかけたが、先生から帰ってきたのは全く想定外の言葉だった。
「どうして・・・さっき私を助けようとしてくれたんですか?」
「ええ?」
さっきというと、ゾンビ犬に襲われた時だろうか。あの時は結局、最終的には私が助けてもらった気がするが・・・。
「なんでって言われても・・・咄嗟だったし・・・?」
そんな事を聞かれてもどう答えたらいいか分からない。
「あの・・・ごめんなさい・・・」
「ええ!?先生どうしたんですか?」
先生は神妙な顔をしていたが、それは痛みのせいだけではない様子だ。
「あなたが『この病気』のなり方を知りたいと聞いた時・・・、あなたの事情も聴かず、頭ごなしに怒ったりして・・・」
「え、いや、その・・・。私もそういう事聞くのはよくないかな、とは思うので、怒られるのも仕方ないかなって・・・」
「その・・・どうして『この病気』のなり方を知りたいか、聞いてもいいですか?」
「それは・・・」
私は少し言いよどんでしまった。
「いえ、もちろん、無理にとは言わないので・・・」
アピリス先生は大分気を使ってくれている。恐らく、大方の予想がついているのだろう。しかしだからこそ、隠しても仕方ないと思った。
「私・・・お姉ちゃんが死んじゃったんです。いや、と言っても1年位前なんですけどね」
案の定というか、空気がさらに重くなった気がした。こういうのは私としては望んでいないのだが。
「あ、一年前に普通に火葬もして死体も残っていないので、今更ゾンビになんて出来ないって、分かってますよ?アハハ」
「・・・・」
少しでも空気が軽くなるかと思って言ってみたが、あんまり効果が無かったらしい。そりゃそうか。
仕方ないのでそのまま話し続ける。
「一年も前なので流石にもう立ち直ってるつもりだったんですけど、最近親が仕事のために海外に行っちゃって・・・。お姉ちゃんが生きていた時親は海外で、お姉ちゃんと二人暮らしだったんです。だから、一人暮らしになってつい、昔の事を思い出して寂しくなっちゃったんですかね。そんな時にゾンビの噂を聞いて・・・」
「それでゾンビが好きになったんですか・・・」
「いえ、ゾンビはお姉ちゃんが生きてた頃から好きだったんですけど」
「あ、そう・・・」
アピリス先生はさらに気まずそうだ。
「今更お姉ちゃんが生き返るなんて無いって分かってるんですけど、元々のゾンビ好きと寂しい気持ちが混ざっちゃって、変なテンションになってたのかも知れないですね・・・。
変なことして、本当にすいませんでした!」
私は暗い雰囲気が苦手なので、できるだけ明るく話をした・・・つもりだったが・・・・。
「―――――!」
自分でも気づかぬうちに頬を涙が流れていた。
私は無意識に自分の感情に蓋をしていたことが分かった。ゾンビ好きという『丁度いい動機』があったためだろう。ゾンビに襲われ、自分が殺される恐怖に身を晒してまでここまで来たのは、やっぱりお姉ちゃんに会いたかったからだ―――。
アピリス先生はそんな私にそっと手を添えた。
「そうですよね。 誰かを生き返らせたい、と思うのは、大切な人のことを想うからですよね・・・」
先生は少しだけ目を閉じ、意を決したように、目を開いた。
「へたに隠すより、正直に話した方が、あなたの安全のために良いと判断しました」
アピリス先生は一瞬だけジョージさんと目を合わせ、お互い頷いてから、私の方に向き直った。
「さっきのあの男が言う通り、この病気・・・あなた達が『ゾンビ』と呼ぶものが現れたのは、私の一族に伝わる、ある『秘術』のせいなんです」
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