第49話 狙い
次の日も、先生は不審者が出てきたという連絡をした。犯罪者はきまぐれなやつのため捕まえるのが面倒になるのだが、こんな奴なら簡単に捕まえられそうだ。
「────っていうかさ~、これマジで謎メンじゃね?」
「そうっすね~」
謎メンという意味の分からない言葉を使う山下先輩と駄弁っていた。でも、二人きりではない。
「確かに謎メンですね。でも山下先輩も時之宮くんも結構人気者ですから、そういった類の似ている部分はありそうですね」
二年生の蒼瀬先輩もいる。謎メンとは、謎なメンバーみたいなものか。
俺と山下先輩が話していたら、たまたま蒼瀬先輩と遭遇したため巻き込んでいるが、どうやら山下先輩との会話についていけているみたいだ。若い人が使う言葉は全然分からないが、蒼瀬先輩が使いこなせているため俺も覚えていいかもしれない。
「いやいや、蒼瀬っちも人気者っしょ?去年結構モテてたし」
「へぇ~。蒼瀬先輩ってやっぱりモテるんですか」
「えっ⁈いやぁ…………そんなことないよ、あはは」
蒼瀬先輩は首に手を当てて少し恥ずかしさを誤魔化すように笑った。確かに可愛いな。
ひいき目に見ていなくとも、彼女はかなり可愛い部類に入るのだろう。そんな人があまり恋愛に慣れていなければ、自分にもチャンスがあると思う男はいるはずだ。
俺も折り紙やっていなかったらこんな美人な先輩たちとワンチャン付き合えるかもしれないのに………。
「本当ですか~?少し顔赤いですよ」
俺はあえて意地悪した。
「そ、そんなことより!最近不審者が出てるみたいだね‼」
「上手く逸らしましたね」
「それな、なんか最近変だよね~。この辺って不審者が出るほど治安が悪い場所じゃないし、敷田総理も来る場所ってこともあるから結構警備が厳重なんだけどね」
「そう言えば、去年は光原総理でしたよね。もう亡くなっちゃいましたけど……」
「なんかすごいよねぇ。未だに犯人が見つかってないわけだし、もしかしてその不審者と犯人が同じだったり」
ここで蒼瀬先輩がまさかの話題を出してきた。
ってか、え?………山下先輩怖くね?何でそのテキトーに言った感じなのに正解しちゃってんの。インテリギャルヤバすぎでしょ………。
口から心臓どころか、全てが出そうになった山下先輩の直感だが、俺はそのくらいじゃあ動揺しない。光原を直接殺めたのは俺ではないが少なからず間接的には関わってしまっている。しかし、この話題が出てくるのは想定済みだからだ。
「っていうか、聞いてくださいよ。昨日、俺知らない人に声掛けられたんです」
「え、何て言われたん?」
驚いて目をぱっちり開けた山下先輩がそう聞いてくる。俺はまた嘘をついた。
「時之宮って人知ってるか、って。これヤバくないですか?」
「もしかして……犯人の狙いって時之宮くんってこと?」
蒼瀬先輩は俺の顔を覗きながら気遣わしげに心配していた。俺は今二人を利用している。
今この瞬間に起きていることは、俺が世界警察を感知するためだけの簡易的な罠。それを作用させているだけだ。
だから、俺は山下先輩と仲良くなった。蒼瀬先輩と仲良くなったのは、この学校で生活していく上でラッキーだ。
だけど、人と仲良くなる理由がもっと素敵なら良かった。純粋な気持ちを無くしたら何も残らないのに、あったはずだったのに。
「かもしれないですね。う~ん、一体なんでしょうかね」
白々しい嘘を、俺はその髪で隠した。
*
その話の二日後、ある男が捕まった。この学校の生徒が通学中に俺のことを聞かれたようで、そのことを俺に言ってくれた。その後すぐに、皐月に連絡し警察に通報。警察はその男を捕まえると、すぐにその身を折り紙に引き渡してくれた。
ここまでの影響力をすぐにつけることが出来たのは山下先輩のおかげだ。彼女が軽く、俺がストーカーされていると言ったおかげでこの学校の人間は外の気配に敏感になった。今では簡単に情報が入ってくる。
「今朝、俺に情報を教えてくれた子は引っ込み思案であまり人と関わるのが好きな子じゃなかった。それでも勇気を出して俺に直接教えてくれた。山下先輩の影響力は凄いね」
犯人が捕まって一件落着、学校側は安心している。しかし俺の仕事はこれから。
「君が今日学校周辺にいた不審者ね」
「…っ」
俺に憎悪のまなざしを向ける男。両手両足を拘束されているにもかかわらず、今にも襲ってきそうな迫力だ。しかし、ここに誰かが来ることはまずないだろう。
東京のとある場所にて男を監禁している。俺の横には皐月もおり、事の面倒臭さを共有しているのだ。
「世界警察って本当に実在してたのね」
「まあ折坂が言ってたし、あるんだろうとは思ってたけどこんなに簡単に捕まるとは思ってなかったよ」
「また変なことやったのね。鳴海くんがストーカーに付きまとわれてるんだって~っていう噂が何度も聞こえてきたんだから」
「良いんだよ、実際に起きたんだから」
この男は誘導されて、一人で調査することしかなかった。俺の知り合いの情報屋に軽く情報を教えさせて、残りの情報は自分で模索することしか得られないようにした。あいつのおかげで中々楽になった。
警察も敷田が一声掛けてくれたおかげで、身柄を簡単に寄越してくれる。
「じゃあ、始めるか。尋問ってやつ」
ペティナイフを取り出した皐月は、俺にそれを渡してくる。折り紙はいつだってそうやってきた。この国に害悪をもたらしてくる人間たちから情報を引き出す方法というものはあまりに残虐的だ。
素直に話してくれるのなら快い死を。そうでないなら絶望だけ。
「まあ、全部言ってくれるのならすぐにみんな連れて行くから。悲しませないよ」
尋問はあまり慣れていないが、俺の役目になっちまったのか。
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