高校入学編

第24話 記念日

 人生に記念日は幾つあるのだろう。初節句、七五三、義務教育、飛んで還暦。


 数えてみれば色々ある。人間は日々の日常に名前を付けない代わりにそういった記念日を大切にする。


 もちろん、全員がその記念日を享受できるとは限らない。


 だからこそ誕生日にはお祝いをするし、その日には感謝をして喜び合う。生まれてきてくれてありがとうなんていう素敵な言葉は、そういった時に改めて感じさせてくれる。



 俺にとって、記念日はコミュニケーションだった。



 普段から忙しかった俺は家に居ることは少なく、帰ってきたら寝て朝になったら自分のやることを黙々とやる生活が殆どだった。それは記念日を大事にしているとは到底言えなかった。それほど、生きる意味をどこかにぶつけていたのだ。


 俺はいつか犯罪で死ぬと確信していた。


 だけど、ある犯罪者は違った。



「なる〰〰〰〰〰〰‼お誕生日おめでとぉぉぉぉぉぉぉ‼」



 家を出ようとした時に後ろから抱きつかれる。彼女は最も自由だった。俺が嫌そうな顔をしても、お構いなしのわがままさ。しかもそれだけではない。彼女にとって記念日なんて関係なく、いつも嬉しそうに人生を楽しんでいた。地獄でしかない世界で彼女は笑う。



 今は亡き『宵の明星』、粼心だ。



 彼女は俺の人生を変えた。暗い世界で生きている喜びや幸せ、愛を大切にすることを教えてくれた。血は繋がっていなくとも、姉のように慕っていたし、弟のように扱われた。


 折り紙で一番長く時間を共にした彼女は、犯罪で散った。


「一番の宝物です」


 最期にそう言い残して、イヤリングを置いていった。


 また、ひょっこりどこかから現れて後ろから抱きついてくるあの日常はもう戻ってこない。


 だけど、俺はそんな世界を憎んだりしない。


 それは代償であり、彼女は既に命と引き換えに支払い終わった。介入する余地は無いし、終わったことをとやかく言うのは野暮だ。




 人生には楽しいことが色々ある。それは記念日だけではないことを教わった。

 でも俺には何がそうなのか分からない。だったら行動する。それが折り紙だ。


 さて。昔話はここまでにして、俺は晴れて高校生になれた。都立憐帝高校という場所が俺の新しい世界。


 九紋竜、刃、様々な困難から生き抜いたが問題が山積みだ。正直学校に行っている暇なんてないと思ってしまう。だが、時間は止まることを知らない。全てやってしまえば何も問題はない。


 今日はその記念すべき一日目である入学式だ。

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