第18話 ちょっとした暇潰し
次の日、俺は柏木との作戦会議のために昨日と同じ場所にやって来ていた。そこには、岩井の姿は居ない。話によると、今日と明日は社長の代わりをしているようだ。
「────────という感じだけど、明日は俺に任せてほしい」
「分かりました。でも、本当に来ますかね?」
「当たり前だ。折り紙だぞ?最近惨敗を喫して本当に終わりかけたけどな」
「駄目じゃないですか」
頭を抱えて、大丈夫かなぁとぼやかれる始末だ。俺は親指を立てて励ますが、項垂れて頭のてっぺんが俺の視界に入ってくる。
あ、もっと励まさなきゃ。
「もう、負けないよ。お前だけに責任を背負わせるつもりはない」
「………時之宮さんがそこまで言うのなら」
「ありがとう。じゃ。………あ、そうだ。昨日は助かったよ」
「いえいえ。この程度ならどうってことないですよ」
あいさつを簡単に済まして部屋を出る。俺は出口に行こうと歩き出す。
「ん?なんだあれ」
俺が見る先に、何かが落ちていた。近寄って確認すると、白の洋形封筒が落ちていた。表面には、何も書いておらず封もされていない。
「………勘弁してくれよ」
嫌々それを開けると、昨日と同じ暗号文が書いてあった。だが、今回はそれだけ。怪文書は無く、ただ気味の悪い暗号が並べられた一枚の手紙だけが入っていた。
誰かのイタズラだろうか。仮に岩井がここに落としていったのなら、何かメッセージくらいは残してくるはずだが、そんなものはどこにも落ちていない。
だとしたら、こんなことをするのは刃か?いや、あいつらは俺がここに居る事を知らないはずだ。
「明日が余計楽しみになってきた。どんな犯罪に出会えるのだろう」
あとは敵の能力次第だ。
記憶を操作なんていう常識外れの技をしてくる人間や未来で待っているという、あたかも未来が見えると言っている人間がいる刃。間違いなく、それは明日会えるのだろう。
そんな彼らに打ち勝つことが出来るのだろうか。異能なんていうものを持っていない俺が、戦えるのだろうか。
「勝てる可能性は………五パーセントもないな。一……………いや〇・一くらいか」
今挙げた異能力以外も明日対峙すると考えたらそのくらいだ。
そもそも、刃の本来の目的はなんだ。俺を捕まえる事か?それとも殺すことか?
一体何がしたい。俺を捕まえることで何かプラスに働くことがあるのか?
「考えるだけ無意味か。ここからは常識が通じないからな」
もう一般人が介入するべきでない領域まで来ている。だから、折り紙の皆は殺された。
ここからは一人も死なせない。誰一人として。
いや、二人死ぬか。
しかし、だ。新宿駅はどうしてこんな人が多いんだ?まあ、山手線やら京王線もあれば賑わうか。こんなに人が居る所に本物の爆破予告なんか出すなんて、なかなか面白いことをしてくる。
まあ考えるのはこれくらいにして………。
今日やることは全て終わっているため時間にはかなり余裕がある。俺は駅中にある複合施設をじっくり見ながら、明日の決戦に備えることにした。もちろん遊びという意味だ。
まず俺が向かったのはお洒落なカフェだ。ここ二か月間、まともにゆったりできる時間は無かった。依頼が終われば下水道生活をしていた俺には無縁だった。
皐月から貰っていた一万円の残りを使って小さいアイスコーヒーを購入した後、店内でちびちび飲んでいるとまたナンパをされる。いかにも清楚系という感じの女性だ。
「おにーさん暇ですか?」
「………」
またかよと口にしたくなったが、逆にもう自分に呆れた。多分ナンパされる俺が悪い。
品定めをするかのようにちらっと女性を見る。鼻に違和感を覚えて俺は立ち上がって悪態をつくように言った。
「付けたばかりのトップノートの香り。カフェで付けるほどの周囲が見えていないわがままさ。メンズのネックレス。高い服の割には傷の多いブランド物のバッグ」
「え…………」
「ホストはほどほどにしなよ」
余計なお世話だと思うが、関わってきたので俺の大切な時間を妨害されるくらいならこうしたほうが早そうだったので、酷いことを言ってしまった。俺はそそくさとその店を去ることにした。
次に向かった先はインテリア雑貨屋。新居で飾りたい置物などを見たかったからだ。その中でも気になったのは、ネオンサインで作られている猫型のライトだ。飼い猫のビアンカを思い出す。
あれ……?ビアンカってもう生後約三か月なの……。絶対一番可愛い時期じゃん。
猫の成長の過程を見ることすらできないのは、なんてキツイことなのだ。
めげてしまいそうだが、もうすぐ会える。我慢我慢。
このままではビアンカに会いに行ってしまいそうなので、猫型のライトから目をそらしてそのまま店を出た。
その後も俺は駅中をゆっくりと巡回して憩いの時間を満喫する。
恐らく新宿駅を全部回ったであろう俺が最後に来たのは新宿西口の地下広場。どうやら散歩はここまでのようだ。
すると、俺は近くにコインロッカーを見つける。お金を払えば荷物をその場に置いておけるなんて良いサービスだ。どうやら一つだけ使用されていなかったため、俺は残っていた現金でそこを使ってみることにした。
だが、何も預けるものは無い手ぶら状態だったので中には何も入れずそのままロックを掛けて支払いを済ませた。
「パスワードは793488か。時間をかければ解けそうだな」
600円という良い買い物をさせて頂いたところで、俺の準備は終わった。
コインロッカーを背もたれにして周りを観察する。上を見上げると監視カメラがあったが、360度見えるカメラでは無くバレット型の正面しか見る事の出来ないタイプだ。
天井を見てみるとカメラがいくつかあるが、コインロッカーを写しているカメラは一つも見当たらない。
「ビンゴだな」
今日の散歩は楽しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます