第15話 部活動見学編③
今日も今日とて、俺と朝日奈は楪の部活動見学に付き合っていた。
今日は外の運動部の見学をしていて、楪は女子サッカー部の練習に参加していた。
俺と朝日奈は石段に座ってその様子を見ていた。
「なるほど。そんなことがあったのですね」
「まぁな」
昨日の駅前で行われた音楽フェスにあの二人が出ていてナンパをされていたということを俺は朝日奈に話した。
「私の時もそうでしたけど、永海さんはナンパとご縁があるのですね」
「なんかその言い方は嫌だな。まるで俺がナンパしているみたいじゃないか?」
「そ、そういう意味じゃないです。ナンパされている女性の方とって意味です!」
「あぁ、そういう意味か」
「そういう意味です」
ナンパに縁があるのは向こうの世界の時からだった。
というか、ハーレム候補は美人を狙っているだから自然とそうなってしまう。
なぜなら、ナンパされるのは美人な女性が多いからだ。
それにナンパされている女性を助けると俺の好感度が勝手に上がってくれる。
もちろんあの二人みたいに例外もあるし、いつもいつも感謝されるわけではない。
それは向こうの世界でもそうだった。
「なんでだろうな?」
「永海さんが優しいからだと思いますよ」
朝日奈が褒めてくれた瞬間、校庭の方から「危ない!?」という声が聞こえてきた。
その声に校庭の方を向くとサッカーボールが朝日奈に向かって飛んできていた。
「なんか、これ、デジャブだな」
俺は立ち上がり『身体能力強化』のスキルを発動させた。
出力は5%。
狙いは誰も守っていないサッカーゴール。
飛距離にして50mほど。
俺はしっかりと狙いを定めて向かって来ていたサッカーボールを蹴り返した。
俺の蹴り返したサッカーボールは狙い通り、誰もいないサッカーゴールに向かって飛んで行った。
「ゴール、っと」
今日は愛理がいないから朝日奈にカッコいいところを見せることができた。
「永海さん……凄いですね」
「あっ……」
(さすがに今のは目立ち過ぎたか)
朝日奈にカッコいいところを見せようと思ってやり過ぎたみたいだ。
校庭にいたサッカー部が全員俺のことを見ていた。
「朝日奈行くぞ」
俺は朝日奈の手を掴んでこの場から逃げるように中庭まで走った。
「な、永海さん。速すぎます。はぁ、はぁ……」
「あ、ごめん」
つい、朝日奈の手を掴んでここまで来てしまったが、『身体能力強化』のスキルを解除するのを忘れていて、朝日奈は肩で息をしていた。
出力5%とはいえ、常人がついてこれる足の速さではない。
「大丈夫か?」
「は、はい。なんとか……」
そう言いつつも朝日奈はまだ肩で息をしていた。
顔も真っ赤になっている。
(申し訳ないことをしたな)
注目されて焦ってしまった。
俺は朝日奈のことをベンチに座らせて息が整うのを待った。
「すみません。もう大丈夫です」
「こっちこそ、本当にごめんな」
「いえ、それにしても永海さんは足がお速いんですね」
「それは……」
さすがにスキルのことは言えないので誤魔化そうとしたところで「二人とも~」と楪の声が聞こえてきた。
「永海君! さっきのシュート何!? 凄すぎたんだけど!?」
楪は俺の両肩を掴んで至近距離で聞いてきた。
あまりにも近すぎて俺が少しでも顔を前に出せばキスをしてしまいそうだった。
「あんな距離からゴールにシュート決めれる!? 普通!? サッカー部の人たちも驚いてたよ!」
「と、とりあえず少し離れろって」
「無理でしょ! あんな凄いシュートを見せられて興奮しない人がいる!?」
楪は今までに見たことがないくらいに興奮していた。
(さて、どうしたものか)
あんな距離からゴールを決めれるのはプロの中でも超一流と呼ばれるような人たちだけだろう。
そんな神業みたいなことを俺は公然の面前でやってしまった。
朝日奈にカッコいいところを見せるためとはいえ、やり過ぎてしまったと反省している。
それはそれとして今はこの状況をどう乗り越えるかを考えるのが先だ。
スキルのことは絶対に言えないし、ここはてきとうに嘘でもつくか?
「実は昔サッカー少年だったんだよ」
「へぇ~。そうなんだ」
なんとか誤魔化せたか?
楪は納得したのか俺の隣に座った。
「じゃあ、サッカー部に入るの?」
「いや、入るつもりはないな」
「なんで? あんなに凄いシュート打てるのにもったいなくない? 絶対にプロのなれるでしょ」
「シュートだけできても意味ないだろ。俺が得意なのは蹴ることだけだからな。他のことは下手だからプロにはなれないよ」
スキルを使えば当然だがプロにだって負けないだろう。
「そんなことより、もうサッカー部はいいのか?」
これ以上この話をしたくないので俺は話題を変えるために楪に話を振った。
「あんな凄いシュート見せられてそれどころじゃないって!」
「もう、そのことは忘れてくれ」
「だから無理だって! 一生忘れないって! てかさ、永海君って実は凄い人?」
「なわけないだろ。俺の顔を見てみろよ。平凡なモブ顔だぞ? そんなやつが凄いと思うか?」
「顔は関係ないでしょ。ねぇ、静葉」
「そうですね。お顔は関係ないと思います」
「ほら、顔は関係ないって。で、どうなの?」
せっかく話題を変えようとしたのにダメだった。
このままこの話が続けばいつかボロを出してしまうかもしれない。
「俺が凄い人だったとして、どうだっていうんだよ」
「別に、どうもしないけど。ただ、私の中の永見君へのイメージが変わるだけ」
「じゃあ、凄い人ってことにしてた方がいいか。楪の俺のイメージが今どんなやつなのか知らないけど」
「今の私の中の永海君のイメージ聞きたい?」
「いや、いい。どうせろくでもないだろうから」
「そんなことないけどね〜。まぁ、永海君の名誉のために言うのはやめといてあげるか〜」
「そんなにひどいのか?」
「さぁ、どうだろうね〜。もう、教えてあげない〜」
そう言って立ち上がった楪はソフトボール部の見学に行ってくると走って行ってしまった。
「俺たちはどうする?」
「・・・・・・」
「朝日奈?」
「は、はい!?」
「どうかしたか?」
「すみません。少し考え事をしてました。えっと、何の話でしたっけ?」
「だから、俺たちはどうするかって話。俺たちもソフトボール話とこに行くか?」
「そうですね。行きましょうか」
「分かった」
俺たちもベンチから立ち上がってソフトボール部が練習をしている第二グラウンドに向かって歩き始めた。
ソフトボール部が練習をしている第二グラウンドに向かっている途中も朝日奈は考え事をしていたようで、どこか上の空だった。
「なぁ、朝日奈。さっきから何を考えてるんだ?」
「私の中の永海さんのイメージです」
「そんなこと考えてたのか」
「はい。永海さんと陽子ちゃんの話を聞いてからずっと考えてました」
「答えは出たのか?」
「はい」
「言うなよ?」
「分かりました。私の中だけで留めておきます」
朝日奈と楪が俺のことをどんな風に思っているのか気にならないと言えば嘘になるが、面と向かって言われたくはなかった。
良いイメージなら恥ずかしいし、悪いイメージならメンタルを保てる自信がない。
だから、俺はあえて『読心術』のスキルも使わなかった。
「そうしてくれ」
「はい」
それから俺たちはソフトボール部の練習に参加している楪の様子をベンチに座って見守っていた。
相変わらずの持ち前の運動神経の良さで楪はソフトボール部の練習を楽しそうにこなしていた。
☆☆☆
次回更新4/22(月)7時
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