湊百合・葵編

第13話 双子姉妹との出会い①

 朝日奈とのデートの翌日。

 俺は駅前の広場で行わている音楽フェスに来ていた。

 土日は愛理が叔父の家で仕事をするために帰っているので時間を持て余っていた俺は散歩をしていた。

 それでたまたま駅前で音楽フェスをしているのを見かけ寄ってみることにした。

 出店もたくさん出ていて、人も結構いる。

 

「誰か有名なアーティストでも出るのか?」


 出演者の名前が書いてある看板を見てみたが俺の知っている出演者は一人もいなかった。

 

「せっかく寄ってみたし、少し聞いていくか」


 ちょうどお昼時だったので俺は出店で焼きそばと唐揚げを買って空いている席に座った。

 イベントは十一時から行っているらしく、すでに二組の出演者の演奏が終わった後だった。

 

「それでは続きまして湊姉妹による演奏です。湊百合みなとゆりさん。湊葵みなとあおいさん。よろしくお願いします」


 司会に名前を呼ばれた二人の女性がステージに上がった。

 一人は銀白色のロングヘア、もう一人は青色のロングヘアだった。 

 姉妹と言っていたがどうやら双子らしい。

 二人の顔はそっくりだった。

 ステージ上にはピアノが設置されていて、銀白色のロングヘアの女性がピアノの前の椅子に座った。

 青色のロングヘアの女性はバイオリンを手に持っていた。

 どうやら二人はこれからピアノとバイオリンで演奏をするらしい。


「それにしても美人だな」


 双子は俺のハーレム候補にしたいほど美人だった。

 メイクをしているが、年齢は俺と同じくらいではないだろうか。

 銀白色のロングヘアの方は赤色のドレスを、青色のロングヘアの方は青色のドレスを着ていた。

 どちらも煌びやかなドレスで胸元が谷間が見えるほど空いている。

 銀白色のロングヘアの方の女性は司会からマイクを受け取った。 

 

「皆さんこんにちは。湊百合みなとゆりです~。これから二十分ほど私たち双子姉妹の演奏にお付き合いください」


 司会にマイクを返すと湊百合と名乗った銀白色のロングヘアの女性は俺たちにも分かるように大きく深呼吸をした。

 そして、ゆっくりと鍵盤に手を添えると、青色のロングヘアの女性(こっちが葵)と目を合わせるとピアノを弾き始めた。

 百合のピアノに合わせるように葵もバイオリンを弾き始めた。

 二人が弾いているのは今、世界的で爆発的ヒットをしてる二人組ユニットのアニメ主題歌だった。

 力強いピアノの音色と美しいバイオリンの音色が見事にマッチしている。

 双子だからなのか、息がぴったりで耳が幸せになる演奏だった。

 これを聞けただけで寄った甲斐があったといものだ。

 一曲目の演奏が終わると二人に観客席から割れんばかりの大きな拍手が送られた。

 続けて二人は二曲目の演奏を始めた。

 二曲目は誰でも知っている超有名なクラシックだった。

 二人の演奏は二十分では物足りないと思うほど素晴らしいもので、お金を出してでももっと聞きたいと思った。


☆☆☆


 その後も俺は他の出演者たちの演奏を聞いていた。

 二組くらい聞き終えたところで、焼きそばと唐揚げを食べ終えたのでデザートでも買おうと席を立った。

 

「先ほどの演奏とても素晴らしかったです。どうでしょう。よかったら、この後、俺たちとお茶でもしませんか?」


 いちご飴の出店の前で双子姉妹にチャラそうな大学生風情の男二人が話しかけていた。


「ありがとうございます。けど、ごめんなさい。そういうのは困ります」


 対応したのは百合の方だった。

 絵に描いたような笑顔を浮かべてやんわり誘いを断っていた。


「ちょっとお茶に行くらい、いいじゃないっすか〜。ファンサービスしてくださいよ。俺たち二人のファンなんすよ〜」

〈こんな上玉逃すのもったいねぇよな〉

〈はぁ〜。めんどくさい。断ってるの分かんないかな〉


 俺は茶髪の男と百合に『読心術』のスキルを使って心の声を聞いた。

 男達はファンというよりなんぱ目的で声をかけたといった感じだった。

 百合の心の声の通り、断わられているのが分かってないのか、それとも分かってわざと分かっていないふりをしているのか。 

 どっちにしろ、男達が双子姉妹のことを狙っているのは確実だった。


(俺が狙っている女性を狙うとはいい度胸だな)


 男達をボコボコにするのは簡単だが、こんなに人が多いと目立ちすぎる。

 だから、俺は双子姉妹の知り合いを装って話しかけることにした。


「おーいたいた。こんなとこで会うなんて奇遇だな。何してんの?」


 俺が双子姉妹にまるで友達かのように話しかけると四人が誰だお前とでも言いたげな顔で見てきた。


「誰だお前」

「俺ですか? 百合と葵の友達ですけど。そっちこそ、誰ですか? あ、もしかして、ナンパっすか? 二人美人ですもんね」

「ちっ、行くぞ」

 

 男達は俺に向かって舌打ちをすると立ち去っていった。

 

「あなたは誰ですか? 私達の友達にあなたみたいな子いないんですけど」

「あー。すみません。ナンパされてて困ってそうだったので咄嗟に友達ってことにしちゃいました。馴れ馴れしかったですよね」

「どうせあなたもさっきの男達と同じでナンパ目的なんでしょ。魂胆が見え見えなんだから」


 百合は警戒心剥き出しで俺のことを睨みつけてきた。

 実際、百合の言うことは正しい。

 見方は全く違うかもしれないが、言ってしまえばナンパと同じだ。

 俺が二人のことを助けたのは二人のことを狙っているからだからな。


「こら、百合ちゃん。そんなこと言わないの。助けてもらったんだから、まずはお礼を言いなさい。妹がすみません。助けていただきありがとうございました」


 そう言って葵は俺に深く頭を下げた。


「もぅ、お姉ちゃん。いつも言ってるじゃん。男を信用しちゃダメって。男なんてみんな嘘つきでエッチなことしか考えてないんだから!」

「分かってるわよ。それでも、お礼はちゃんと言わなきゃダメでしょ。例えこの方が善意で私達のことを助けたんじゃないとしてもお礼を言う。それがママとの約束でしょ」

「むぅ、そうだけど・・・・・・」

「ほら、お礼を言いなさい」

「は〜い。助けていただきありがとうございました」


 百合は不服そうな顔をしながらも俺にちゃんとお礼を言ってきた。

〈まぁ、この人、平凡な顔だし、ナンパできるような度胸もないか〉

(へぇ~。こいつ、俺の事そんな風に思ってるのか。まぁ、平凡な顔なのは認めるが、ナンパできる度胸がないと思われるのは心外だな)

 向こうの世界での俺はナンパ百戦錬磨だった。

 俺が声を掛ければ成功率は百パーセントだった。

(まぁ、こっちの俺は百合の言った通り、平凡な顔なのでナンパはしないけどな)

 イケメンの顔を失った代わりに俺は向こうの世界のスキルを使うことができる。

 スキルがあれば平凡な顔の俺だってこっちの世界で無双することが可能だ。

 目の前のこの二人を好き放題することもできる。

 昨日の藤宮や天羽のように。


「お二人は美人なんですから気を付けた方だいいですよ。そんな胸元開けた服を着てたら誘ってるんじゃないかって、さっきの人達みたいに勘違いする男いるでしょうから。あ、それから、お二人の演奏とても素晴らしかったです。思わず聞き惚れてしまいました。また機会があれば、お二人の演奏を聞きたいです。それでは、俺はこれで失礼しますね」


 スキルを使って二人に好き放題してもよかったがやめておいた。

 せっかく素敵な演奏を聞かせてもらったから、百合の失礼な態度には目を瞑っておいてやった。

 それに俺の体質が発動したということはこの二人とはいずれどこかで再会するということだ。

 二人のことを好き放題するのはその時でも遅くはないだろう。

 帰り際に俺は二人に対して『好感度』のスキルを発動させた。

 百合の俺に対する好感度は20で、葵は0だった。


☆☆☆


 遅くなりました。すみません。


 次回更新4/19(土)

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