第8話 朝日奈とデート②
千本桜公園を後にした俺たちは駅前に戻って来ていた。
「お昼ご飯ですけど永海さんは何が食べたいですか? 今日はあの日のお礼も兼ねてますので何でも好きな物を言ってください。私の奢りですので」
「食べたい物か~。そうだな。じゃあ、ハンバーグがいいかな」
「ハンバーグがお好きなんですか?」
「ハンバーグ好きだな」
「では、ハンバーグを食べに行きましょう」
「朝日奈はハンバーグでいいのか?」
「もちろんです。私もハンバーグ好きですから大丈夫ですよ」
「そっか。ちょうど気になってたハンバーグ屋があるんだけど、そこに行ってもいいか?」
「はい」
俺が気になっていたハンバーグ屋はつい最近駅前の商店街にオープンしたばかりのお店だった。
フォトスタというSNSで話題になっていて気になっていて、いつか行きたいと思っていた。
駅から徒歩十分もしないところにそのハンバーグ屋はあった。
「さすがに並んでるな」
「人気なお店なんですか?」
「最近できたばかりのお店だからな。朝日奈はフォトスタって知ってるか?」
「フォトスタ? 何ですかそれは?」
「知らないか。簡単に言えばSNSだな。写真とか動画を投稿できる。そのフォトスタで話題になってたんだよ。ここのお店」
「そうなんですね」
話題になっていただけあって、お店の前には行列ができていた。
俺たちはその行列の最後尾に並んだ。
「結構待つことになりそうだけど大丈夫か?」
「私は大丈夫で……」
朝日奈のお腹がぐぅっと鳴った。
隣にいないと聞こえないような小さな音だったが俺の耳は聞き逃さなかった。
「お腹なったな」
「き、聞こえましたか!?」
「バッチリな」
朝日奈の顔が見る見るうちに真っ赤になっていった。
「き、聞かないでくださいよ……」
小さな声でそう呟いた朝日奈は俺の腕に顔を埋めた。
〈は、恥ずかしいです〉
恥ずかしがっている朝日奈があまりにも可愛いから、つい、いじめてしまいたくなる。
「お腹空いてるなら別のお店にするか?」
「だ、大丈夫です。我慢できますから」
「そっか。まぁ、無理はするなよ」
「はい」
俺たちがお店に入れたのはそれから一時間くらい後のことだった。
☆☆☆
お店の中はハンバーグのいい匂いが充満していた。
だから、お店の中に入った瞬間に俺のお腹も鳴ってしまった。
しかし、俺のお腹の音はちょうと店員さんの声と被っていて、朝日奈には聞こえなかったようだった。
「わぁ~。どれも美味しそうですね」
「そうだな」
「永海さんはどれにしますか?」
チーズ・イン・ハンバーグ、デミグラスソースのハンバーグ、クリームソースのハンバーグ、メニュー表に載っているハンバーグの写真を見ているだけでよだれが出そうだった。
「どれも美味しそうだな」
「そうですね。あの、もしかったら二種類頼んで半分個ずつ分け合いませんか? そうしたら二種類の味が楽しめますし」
「いいのか?」
「もちろんです。私も二種類のハンバーグを楽しめますし」
「朝日奈がいいなら、じゃあ、そうするか」
「はい。どれとどれにしますか?」
「一つは朝日奈が選んでいいぞ」
「いえ、せっかくですので永海さんが二種類選んでください」
「俺が選んでいいのか?」
「はい。今日はあの時のお礼ですから。永海さんが食べたい物をどうぞ」
「そっか。じゃあ、チーズ・イン・ハンバーグとデミグラスのやつにしようかな」
俺は店員呼び出しボタンを押して二つのハンバーグを注文した。
「楽しみですね」
「そうだな」
ハンバーグが俺たちのテーブルに運ばれてきたのはそれから二十分後だった。
☆☆☆
「うわぁ~。いい匂いです」
朝日奈の方にデミグラスハンバーグ、俺の方にチーズ・イン・ハンバーグが置かれている。
鉄板の上に置かれたハンバーグはジュージューと音を鳴らしながら食欲をそそる匂いを漂わせていた。
「もうダメです。我慢できません。永海さん。ハンバーグを食べてもいいですか?」
「俺も我慢できなくなってたところだ。食べるか」
「はい」
俺たちはお互いのハンバーグを半分こずつ切り分けて、お互いの鉄板に乗せると手を合わせていただきますをした。
まずはチーズ・イン・ハンバーグを一口。
口の中に入れた瞬間、俺の体は震えた。
鳥肌が立った。
噛めば噛むほど溢れ出てくる肉汁、凝縮された肉の旨み、とろりと濃厚なチーズ、こんなに美味しいハンバーグは久しぶりに食べた。
「ふふ、美味しいですか?」
「あぁ、めっちゃ美味しい! 朝日奈も早く食べてみろよ」
「はい」
朝日奈はチーズ・イン・ハンバーグを口に運ぶと、目を見開いて俺のことを見た。
「めっちゃ美味しいだろ?」
「はい。めっちゃ美味しいです」
「だよな」
俺はデミグラスソースの方のハンバーグも食べてみることにした。
少し酸味の残ったデミグラスソースが絶品でチーズ・イン・ハンバーグとはまた違った美味しさがあった。
「こっちも美味しいな」
「ですね。美味しいです」
「一時間も並んだ甲斐があったな」
「そうですね」
こんなに美味しいなら一時間の待ち時間なんてお釣りが帰ってくるくらいだ。
そのくらいここのハンバーグは美味しかった。
☆☆☆
「ごちそうさまでした」
本当に美味しかったから俺はハンバーグはあっという間に完食した。
もちろんしっかりと味わって食べた。
ここのお店はリピート確定だ。
また食べに来ようと思った。
「永海さん。よかったらこれ食べますか?」
「え、いいのか?」
「はい。実はもうお腹いっぱいでして」
そう言った朝日奈の鉄板の上にはチーズ・イン・ハンバーグが半分以上残っていた。
「もしかして、チーズ苦手だったか?」
「そ、そんなことはありませんよ」
〈本当は苦手ですけど、そんなこと言えません〉
(チーズ苦手だったのか)
それなのに朝日奈は嫌な顔ひとつせず美味しいとチーズ・イン・ハンバーグを食べていた。
(なんだか申し訳ないことをしたな)
「ごめんな。チーズ苦手なんだろ?」
「え、なんで分かったんですか」
朝日奈は驚いた顔で俺のことを見た。
「さぁ、なんでだろうな。次からは食べる前に遠慮せずに言ってくれよ。無理されたら心配になるだろ」
「はい。すみません」
「じゃあ、もらうな」
「ありがとうございます」
俺は朝日奈の鉄板と自分の鉄板を交換した。
「てか、これって関節キスになるよな?」
「・・・・・・そ、そうですね」
「いいのか?」
「は、はい。残すのはもったいないですから」
〈な、永海さんと、か、間接キス・・・・・・。陽子ちゃんとはよくしていますが、男の子とするのは初めです〉
朝日奈の初めての間接キスを貰えるとは光栄だ。
「そっか。じゃあ、食べるぞ」
「はい。どうぞ」
俺がハンバーグを口に運ぶのを朝日奈はジーと見つめていた。
「そんなに見つめられると食べにくいんだが?」
「す、すみません」
朝日奈はスッと俺から視線を逸らした。
そんな朝日奈の行動がおかしくて俺は笑った。
「まぁ、見られててもいいけどな。朝日奈の大事なファースト間接キスだもんな」
「は、初めてではありませんから!?」
「あれ? そうなのか?」
「陽子ちゃんと何度かしたことあります」
「ふ〜ん。そうなのか。じゃあ、男ともしたことあるのか?」
「そ、それはありませんけど・・・・・・」
「じゃあ、男では俺が初めてってことだな」
俺はニヤッと笑って朝日奈の目をしっかりと見つめた。
すると、朝日奈の顔は見る見るうちに赤くなっていった。
今日、何度目の真っ赤な顔だろうか。
朝日奈は感情が表に出るタイプだから分かりやすい。
心の声を聞くまでもなく、恥ずかしがっているのが丸わかりだ。
「も、もぅ、いいですから、早くハンバーグを食べてください! 次の予定があるんですから!」
「分かったよ」
俺がハンバーグを食べている間、朝日奈はずっと下を向いていた。
「それで、次の予定って?」
「はい。次はゲームセンターに行こうと思ってます」
「また、ベタなデートスポットを持ってきたな」
「い、いいじゃないですか。ダメですか?」
〈陽子ちゃんに相談したら、デートならゲームセンターがいいんじゃないって言われたのに、ダメだったのでしょか?〉
(なるほどな。楪の入れ知恵ってわけか)
「いや、いいけどな。朝日奈とだったらどこに行っても楽しいし」
「あ、ありがとうございます」
「どこのゲーセンターに行くのかは決めてるのか?」
「はい」
「じゃあ、行くか」
俺たちは席から立ち上がってレジに向かった。
「本当に奢ってもらっていいのか?」
「はい。大丈夫です」
「そっか。じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうな」
朝日奈はブラックカードを財布から取り出してお会計をした。
まさか朝日奈の財布からブラックカードが出てくるとは思っていなかった。
「ブラックカードなんて持ってるんだな」
「はい。父が持たせてくれてるんです」
「そうなのか。朝日奈の家ってお金持ちなのか?」
「そうですね」
朝日奈の家はお金持ちというのを俺は朝日奈メモに書き加えた。
また一つ朝日奈のことを知った。
俺たちはハンバーグ屋を後にして、朝日奈が行くと決めていたゲームセンターへと向かった。
☆☆☆
次回更新4/13(土)7時
最近、デートはゲームセンターばかり書いてる気がする笑
さて、この二人のゲームセンターはどんな感じになるのか?笑
お楽しみに〜笑
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