第7話 朝日奈とデート①

 土曜日。

 朝日奈とデートをする約束をしていた俺は待ち合わせ場所に指定された駅で待っていた。

 

「少し早く着き過ぎたか」


 待ち合わせ時間は十時だったが、今はまだ九時四十分だった。

 

「それにしても朝日奈からこんなに早くデートに誘われるとは思ってなかったな」

 

 朝日奈の方からデートに誘われるのは完全に予想外だった。

 好感度はすでに80を超えているから、俺のことを好いてくれているのは分かっているが、朝日奈はもう少し奥手だと思っていた。

 出会って数日で異性をデートに誘えるような人ではないと思っていた。

 どうやら朝日奈に対して認識を改める必要がありそうだ。

 もちろん積極的な女性は好きだ。

 今日のデートでどこまで進展するか分からないが、朝日奈の好感度を90以上にできたらいいと思っている。

 そのために何をすればいいのかを考えながら俺は朝日奈が来るのを待っていた。


☆☆☆


 スマホを触りながら朝日奈を待つこと十分。

 辺りが騒がしくなっているのを感じ、何事かとスマホから視線を上げてその理由が分かった。

 

「そりゃあ、騒がしくもなるよな」


 朝日奈がこちらに向かって来ていた。

 俺に気が付いた朝日奈が手を振ってきたので、手を振り返した。


「もしかしてお待たせしてしまいましたか?」

「いや、俺も今来たところ」

「そうですか。それならよかったです」


 今日は休日なので当り前だが朝日奈は私服だった。

 朝日奈はイメージ通りの清楚感漂う薄ピンク色のワンピースを着ていた。


「私服可愛いな」

「本当ですか?」

「うん。めっちゃ似合ってる」

「ありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しいです」


 天使のような笑みを浮かべた朝日奈は俺の手を握ってきた。


「あ、朝日奈?」

「せっかくのデートなので。ダメ、ですか?」


 朝日奈は頬を赤くして上目遣い気味にそう聞いてきた。

 やっぱり朝日奈は積極的な性格だったみたいだ。

 俺は柔らかくて、スベスベで、小さな朝日奈の手を握り返した。


「ダメなわけないだろ。可愛い女の子から手を繋がれて断る男なんていないから」

「そ、そうですか。では、今日はこのままでお願いします」

「分かった。それで、どこに行くんだ?」

「それは特には決めてないのですが、せっかくですので桜を見に行きませんか? 道中で満開の桜を見つけて、ふと思ったのですが」

「桜か。確かにちょうど見頃かもな。今年は花見まだだし行くか。てことは千本桜公園か?」

「そうですね。千本桜公園に行きましょうか」


 千本桜公園には名前の通り公園内に千本の桜が植えられている。

 千本桜公園は全国的に有名なお花見スポットで、バスで三十分ほど行った山奥にある。

 なので、俺たちは千本桜公園に向かうバス停へと向かった。


「次のバスが来るまで少し時間があるな」

「そうですね」


 次のバスが来るまでもう少し時間がありそうなので俺たちはベンチに座って待つことにした。

 

「それにしても晴れてよかったな」

「そうですね」

「まさに絶好のお花見日和だな」

「永海さんは桜お好きですか?」

「好きだな。綺麗だし。毎年家族で見に行ってたな。朝日奈は?」

「私も好きです。綺麗ですよね。桜」

「今日の朝日奈のワンピースも桜色だよな」

「そうです。春なのでこの色にしてみました」

「可愛いな」

「あ、ありがとうございます」

 

 朝日奈は足をもじもじとさせて恥ずかしそうに下を向いた。

〈永海さんに褒められると何だが心臓がドキドキします〉

 俺は朝日奈の心の声を聞いてニヤッと笑った。

 好感度も90を超えていた。 

 ここまで好感度が上がっていれば大抵の事は許される。

 好感度90越えは、もう俺に惚れているようなものだからな。

 俺は朝日奈と繋いでいた手を指と指を絡めるように繋ぎ直した。


「な、永海さん?」

「ん? どうかしたか?」

「い、いえ……」

〈こ、こんなの……こんなの、まるで……カップルじゃないですか!!〉


 何とか顔に出さないようにしているようだったが顔が真っ赤になっているので丸分かりだった。


「あ、バスが来たみたいですよ」

「みたいだな」


 動揺しているのを隠すように朝日奈はバス停に到着したバスを指差した。

 到着したバスに乗り、切符を取った俺たちは一番後ろの席に座った。

 

☆☆☆


 バスに揺られること三十分。

 千本桜公園に到着した。

 この天気と休日ということで千本桜公園にはたくさんの人がいた。

 

「さすがに人が多いな」

「そうですね」

「これだけ人がいると学校の人に会いそうだな」

「会うかもしれませんね」

「手を繋いでるのを見られたら俺たちが付き合ってるって誤解されるかもしれないな」

「そ、それは……」

「俺は朝日奈と誤解されてもいいけど、朝日奈はいいのか?」

「……だ、大丈夫です」


 小さな声で呟くように言った朝日奈は俺の手をぎゅっと握った。


「そっか。じゃあ、このまま行くか」

「はい」


 朝日奈の言質も取ったので俺たちは手を繋いだまま千本桜公園の入口へと向かった。

 入口から満開の桜が俺たちのことを出迎えてくれる。

 毎年見ているはずなのに何度見てもその美しさに感動させられるから桜というのは本当に凄い。


「綺麗ですね」

「そうだな」


 どうやらそれは朝日奈も同じなようで、朝日奈も桜を見て感動していた。

 

「朝日奈。せっかくだから一緒に写真撮らないか?」

「と、撮りたいです」


 俺は優しそうな夫婦に写真を撮ってもらえないかとお願いをした。

 快く受け入れてくれた夫婦にスマホを渡して、俺と朝日奈は桜の木の下に立った。


「それじゃあ、撮りますよ~」


 奥さんの方が写真を撮ってくれた。


「確認してみてください」

「ありがとうございます」


 撮ってもらった写真を確認するとそこは緊張していたのか、ぎこちない笑みを浮かべた朝日奈が写っていた。


「すみません。もう一回撮ってもらってもいいですか?」

「もちろんです」

「ありがとうございます」


 もう一度写真を撮ってもらうために俺たちは再び桜の木の下に立った。


「朝日奈。リラックス。さっき変な顔してたぞ」

「す、すみません」

「ちなみにこんな顔な」

 

 俺は朝日奈に向けて変顔をした。

 すると朝日奈はくすくすと笑った。

 

「ふふ、なんですかその顔」

「そうそう。それそれ。その笑顔をキープな。すみません。お願いします」

「は~い」


 奥さんがもう一度写真を撮ってくれた。

 撮ってもらった写真を二人で確認した。

 写真には楽しそうに笑っている俺と朝日奈の姿が写っていた。


「バッチリです。ありがとうございます」

「ありがとうございました」


 写真を撮ってもらったお礼に俺も写真を撮ってくれた夫婦の写真を撮ってあげた。

 

「優しい人たちだったな」

「そうですね」

「この写真後で送るな」

「ありがとうございます」


 写真を撮った後はまったりと満開の桜を見ながら一本道を歩いた。

 もちろん手を繋いままで。


☆☆☆


 次回更新4/12(金)になります。

 今週は木曜日の代わりに金曜日に投稿させてもらいます。

 


 

 

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