初めてで唯一の一目惚れ
kie♪
初めてで唯一の一目惚れ
黒歴史と呼ぶかどうかはともかくとして人間誰しも思い出すと恥ずかしくて赤面してしまうような、出来ることなら関係者全員の記憶から消し去ってしまいたくなるエピソードの1つや2つくらい持ち合わせているものである。かくいう私もそういった話のネタはいくつか持っているけど、どれもこれも公の場で話すにはかなり勇気がいるものばかりなので普段は記憶の引き出しの奥深くにぐちゃぐちゃに詰め込んでいる。それでもたまにこうやって取り出さざるを得ない時のため、本当ならば捨てたいのに捨てられないままで何年もやきもきしているのだ。
さて、そんな中から「ギリギリ話しても恥ずかしいけど耐えられそうな話ならしても良いか」と思ったので今回はそういった話について書いてみようと思う。
時は私が高校1年生になったばかりの頃に遡る。私は志望していたとある私立高校に入学し、生徒会に入部した。そこでN君という同学年の理系クラスに所属する男子生徒と出逢った。N君はほかの男子生徒と比べてクールで大人びているが、だからといってぶっきらぼうでとっつきにくいといった印象ではない不思議な子だった。シルバーフレームの眼鏡を掛けた彼はいかにも知的で理系のオーラが漂っていて私は俗に一目惚れと呼ばれるものに陥ってしまった。
N君と初めて会った日の放課後、私と彼と彼の友人で同じく生徒会メンバーのT君との3人で高校の最寄駅まで一緒に帰ったことはもう15年以上経つ今でも薄っすら覚えている。彼らは中学校からの内部進学生なので学年主任の先生のあだ名の話では
「あの人、もう
と大いに盛り上がった。
そして彼らと別れた後すぐに商業施設の中にある本屋ですぐさま恋愛ハウツー本を探ったのは言うまでもない。それくらい私はN君に夢中になっていた。しかし高校生が恋愛のテクニックと言っても制服を着なければならないし、校則というものもあるのでお色気攻撃は使えやしない。そんな中、「メールで彼を落とせ!」というような私でも何とかなるかもしれないメールを使った恋愛テクニックを書いた本が目に入った。
すぐさま“これだ!”と思ってレジに中身も確認せずにその本を持って行く。当時の私はアルバイトをしていなかったので(多分高校自体がアルバイト禁止だったかもしれない)、なけなしのお小遣いからの購入だ。そしてその日から私は早速その本の中に書かれているテクニックを使ってみることにした。
……が、返事がなかなか来ない。信じられないことに彼は超がつくほどのメール無精だったのだ。そんな相手とは知らずにメールの恋愛テクニックを使っても意味がないだけなのだが私はコツコツとメールを送る必要があるときは絵文字を使う量を気にしたり文章の長さやワードセンテンスに女の子らしさをちりばめることに意識を使っていた。今から考えると空しい努力である。
しかしそんな努力もそこまで長続きはしなかった。私は入学してから数学の成績が芳しくなく補講の常連となっていたし、N君は美術部と生徒会の兼部をしていたのでお互い顔を合わせる機会もめっきり減っていた。私は近々生徒会を辞めようと顧問の先生に話をしてその旨を思い切ってN君にメールした。返事は期待していなかったのにいつも以上に早く着信音が鳴った。
「お疲れ様」
というたった4文字だけの返信だった。しかしメール無精の彼から届いたこの4文字に私は酷く感激し、この短いやり取りとも呼べないメールを暫く保護メールにして大切に保管していた。
あれから15年以上が経つ。その間に携帯も買い替えたし、彼とのやり取りは途絶えたけれどこの痛い一目惚れのことは一生涯忘れられない。そしてこの時に買った恋愛ハウツー本は未だに私の部屋の本棚で2度と役に立つことなく眠っている。
初めてで唯一の一目惚れ kie♪ @love_tea_violin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます