知らないのですか? 妹(偽)からは逃げられない……💖

「……ねぇ、しのぶと結婚しようよ、お兄ちゃん?」


「──ッ!?」


 この声は……!

 この声は……!


 この声を無視してはいけない……!

 だってオレはお兄ちゃんなのだから……!


「──ッ! 違う……! オレはお兄ちゃんじゃない……ッ! 今のオレはお兄ちゃんじゃない……ッ! だけど、この声は……この声はぁ……⁉ やめろ、やめろぉ……⁉」


「違わないよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはしのぶのお兄ちゃんなの。妹の言う事をついつい聞いてしまう素敵なお兄ちゃん。そして私が大好きな自慢のお兄ちゃんなの」


「やめろぉ……! やめろぉぉぉ……!」


「お兄ちゃんは、しのぶの事、嫌い?」


「あ、あ、あ……! アアアアアアアアアアアアアアアアァァァ────!」


 何、だ?

 突如オレの脳内に溢れ出した








       お兄ちゃん!

 お兄ちゃん?

       お兄ちゃん♪

 お兄ちゃん♡

       お兄ちゃん?

 お兄ちゃん!?

       お兄ちゃ~ん

 お兄ちゃん!

       お兄ちゃん♪

 お兄ちゃん♡











お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん














 存在する記憶。






「……そう、だ……! そうだった……! オレはしのぶのお兄ちゃん、だ……!」


「ふふふ、お兄ちゃんはしのぶに逆らえないねぇ……♪ だって、お兄ちゃんはしのぶの事が大好きだもんね……?」


 ──そうだ、オレはしのぶのお兄ちゃんじゃないか──!


「しのぶの言う事聞いてくれて嬉しいなぁ♪ そんなお兄ちゃん、私大好き♪」


「……あ、あ、あ……!」


 違う……! 

 俺は、俺には──妹なんていないんだ……!


「……あ、うぅ……! オ、レは……! オレは、兄なんかじゃ……!」


「あれ? あれれ? もしかして催眠解けちゃった? もう勝手に解いちゃダメだよお兄ちゃん。仕方ないからもう一回催眠音声やってあげるね……♪」


「……や、やめ、ろ……!」


「お兄ちゃんは私に逆らえない……♪ お兄ちゃんは私から逃げれない……♪ お兄ちゃんは私と結婚したくなる……♪」


「──あ、あ、あ、あ、あ──」


 力が、力が抜けていく。

 脳が、脳が溶けていく。

 耳が、耳が溶けていく。


 だけど、仕方ない。

 ──!


「うふふ。私の声のファンになったのが運の尽きでしたね奏斗さん。どうですか、私の催眠音声のお味は。これを知ったからには貴方は私以外の女という選択肢はありません。奏斗くんの身も心もは既に私だけのモノ。そして、私も奏斗くんのモノ」


「……お、お兄ちゃんをどうするつもりだ、しのぶ……!」


「ここに奏斗くんの実印があります。結婚届に押してみましょう。大丈夫です、書き損じしても大丈夫なように100枚も予備があります」


「ぐ……あ……だ、だめ……だ……それだけは……やっては……!」


「え〜? しのぶ、お兄ちゃんが印鑑押すところ、見たいなぁ?」


「押すー! 印鑑押すー! 押してお兄ちゃんしのぶと結婚するー!」 


「……よし。ボイスレコーダーの録音完了、と……。後は編集するだけですね」


「ところでしのぶ? 俺たち近親相姦になっちゃうんじゃないのかな? 結婚できなくない?」


「は? 近親相姦? いえ、私たちは普通に結婚できますよ?」


「俺はしのぶに聞いているんだ!!!」


「……えっと、実はね? お兄ちゃんと私、実は本当の兄妹じゃ──」


「────ふざけるなぁぁぁアアアアアアアアアア!!!!!!」


「っ!? 馬鹿な……! 自力で私はの催眠音声を破った……!?」


「兄妹モノはなァ! 本当に血が繋がっているからいいんだよ! 産地偽装してんじゃねぇぞしのぶゥゥゥウウウ!!!」


 このご時世!

 近親相姦はいけない事だと口酸っぱく言われるようなご時世!

 あぁ確かに近親相姦はいけない事だろう!


 だが、だが、だが!


 だからこそ、人は近親相姦に焦がれるんだ!


「お兄ちゃんを……近親相姦を……人の業を……舐めるなよ……!」


「……なんちゃってお兄ちゃん! 噓だよお兄ちゃん! 冗談だよお兄ちゃん! お願いだから正気に戻ってよお兄ちゃん! 私はお兄ちゃんと血が繋がっている正真正銘の妹だよお兄ちゃん!」


「おい、しのぶ……! 冗談でも言ってはいけない事はあるんだ……! それだけは覚えるんだ……!」


「……え、えぇ……?」


「返事は!?」


「は、はーい♪」


「実の兄妹は生かせ! 偽の兄妹は殺せ! はい復唱!」


「実の兄妹は生かせ……? 偽の兄妹は殺せ……?」


「産地偽装、ダメ絶対!」


「産地偽装、ダメ絶対……?」


「妹キャラは巨乳!」


「…………。ふふっ、お兄ちゃんは私に逆らえない……♪ お兄ちゃんは私から逃げれない……♪ お兄ちゃんは貧乳が好きになる……♪ お兄ちゃんは貧乳の私と結婚したくなる……♪」


「お兄ちゃん、しのぶに逆らわず逃げずに貧乳好きになってしのぶと結婚すりゅー!」


 妹はいいぞ。

 胸があってもいいし、無くてもいい。


 妹という存在は確かにそこにいる。

 胸なんてものは飾りだ。


 あぁ、オレはなんて馬鹿だったんだ。

 どうして巨乳なんかにこだわっていたんだ?

 

 思えば、聴覚情報で胸なんて必要ないのでは?

 それに、胸がないからこそ醸し出されるエロスもあるのでは?


 そんな当たり前で、だけど当たり前じゃないそんな事を『しのぶ』はオレに教えくれた。


 本当に『しのぶ』は俺なんかに過ぎた自慢の最高の妹だ……!


「……ふぅ。隙を見つけて再催眠は出来ましたが……はぁ……やっぱり胸なんですかね……どうせ胸なんですかね……あはは……胸欲しかったなぁ……」


 ため息を吐きながら、乾いた笑みを出しては貧相な胸を触る彼女が余りにも可哀想に思えた。


 なので、妹がオレにキスしてくれたように、オレは妹にキスをした。


「んんぅ!?」


 いきなりのキスに驚いてしまったのか、オレを押し倒していた彼女はバランスを崩して、俺の身体の上に覆いかぶさるように倒れ込んだ。


「……んぁ……や、やめ……んん……不意打ちは……んむ……ひきょう……んぅ……さいみん、とかない、と……でも、これ……いい……きもち、いい……にげたくない……ずっと、このまま……もっと……わたしを……」


 彼女は逃げようと思えばすぐにでも出来る癖に、逃げる事は一切せずに接吻に身を任せて、お互いに舌を絡ませ合っていた。


「あぅ……みなとくん……すき……」


「──────ハッ!?」


 『しのぶ』が言うはずがないを口にしたことで、俺はようやく正気を取り戻した。


 正気を取り戻した俺の視界に入ってきたのは、はだけた制服を身にまとい、気持ちいいと言わんばかりの法悦の表情を浮かべては、湿気を孕んだ浅い息を荒く何度も吐き出しては、オレの身体の上にしな垂れかかっている音無静香の姿だった。


「しまった……! オレは、催眠されていたからと言って……こんな酷い事を……⁉ しのぶの催眠音声でこんな事を……!? オレは……なんて最低なんだ……!」


「ふふふ……けいかく、どおりですね……」


「音無さん……! オレは、オレは……! 一体何ていう事をしてしまったんだ……!」


「……かんし、かめら……かって、よかった……あとで、せんかい、ぐらい、みよう……えへへ……」


 そう言い残すと、彼女は天井にかかる勢いで鼻血を噴き出して、とても幸せそうな表情を浮かべて。


「ぜったいにしあわせになろうね、ごしゅじんさま────?」


 そう言い残して妹にして妹ではない彼女は意識を失ったのであった。

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