ネコと和解した

 現在夕方。的場は悩んでいた。的場は創作者であり、現在TRPGのオリジナルストーリーを執筆している真っ最中だが、その進捗は芳しくない。


 頭を捻りパソコンに文字を打ち込んでいくが、書いていくうちに自分の書きたいものから遠ざかってしまう。ハッと正気に戻るように気を取り直して、気に入らないところを消していくと結局最初まで戻ってしまう。そんなことを数度繰り返していると打ち込んだ文字は万を超え、ついに的場はパソコンデスクに突っ伏してダウンした。



「(あ゛~無理。煮詰まりすぎてる。脳がしんどい手もしんどい目もしんどい腰もしんどい………)」



 若干フラつきながら立ち上がりベッドへと身を投げると枕を胸に抱えるようにうつ伏せに寝転ぶ。しばらく無の感情でボーっとしていると、自室のドアが自動で小さく開いて小さなスキマから小さな影が入ってきた。もう何も考えたくない的場は無の感情のまま無視するが、入ってきた小さな影は無遠慮にもベッドの上へとジャンプして上がってくる。

 的場が仕方なく反応し顔を横に向けるとそこには予想通り、つい先日家族になったプクネコのプニャちゃんが不機嫌そうな表情を的場に向けていた。おそらく家の中で探検していないのが的場の部屋で最後だったのだろう。ベッドの上から色々見ようとしたところ先住民へやのぬしが居たわけだ。



「……………」

『……………』



 …………なんか喋れと第三者が居たら言っているところではあるが、ここには疲れ切った大学生一人と最近出現するようになった猫系モンスター一匹だけなので何とも気まずい雰囲気が漂う。

 そんな中的場が動いた、片手を動かして最初に出会ったときのように下あごを軽くタプタプする。意外にもプニャちゃんは心地よさそうに目を瞑ってタプられているので、あの時はタプり方がしつこ過ぎてキレたのだろう。てかタプり方ってなんだ。


 少しの間そうやってタプっていたが、うつ伏せという若干苦しい姿勢でタプっていたため腕が痛くなったのでタプるのを止める。するとプニャちゃんはいつもより強いジト目で的場を睨み、力なくベッドに落ちた腕に肉球パンチをぺちりと撃ち込んだ。もっとやれの意思表示だろうか、それでも的場は限界だったので動けない。

 効いていないのが不服なのかプニャちゃんは数度に渡って肉球パンチを的場の腕に叩きこむ。それでも的場が反応しないのでムスッとしたまま的場の首の後ろに移動しノシッと乗り上げる。重みによる嫌がらせか、それとも別の何かか。だが今の的場にプニャちゃんの重みと体温は非常に心地よいもので、的場はそのままゆっくりと眠りに落ちていった。





いでででででででで!!!!」




 妙な体制で寝てしまっていたため起きた的場は寝覚め一発で強烈な体の痛みと戦うことになったが、プニャちゃんには関係のないことだ。一方プニャちゃんはといえば、階下のリビングで的場母にふやかしてもらったキャットフードをむさぼっていた。





 激痛と戦いながら夕食を終えシップを張ってようやく痛みが落ち着いてきた的場は、日暮から借りらされた・・・・・・リアモンのゲームをやってみることにした。最近執筆作業ばかりで若干ホコリを被りかけているゲーム機にリアモンのゲームカードを入れて起動してみる。



[ゲーム機本体のアップデートが必要です]

「…………………」



 ゲーム機本体のアップデートが入っていた。最近ゲーム自体をやっていなかったので忘れていた、中々長いダウンロード時間に若干出鼻をくじかれつつも待つこと数十分。



[新しいゲームを始めるにはアップデートが必要です]

「…………………」



 今度は新しいゲームを起動する際のアップデートが入った。出鼻がくじかれ過ぎて顔面真っ平になったが、どうにかモチベーションを上げてゲームをプレイする。

 ゲームとしてはオーソドックスな始まりだ、今回舞台になるマップや出現するリアモンをムービーでチラ見せしつつ、最終的には主人公が旅立つ街へとフォーカスされていく。やったことのないタイプのゲームをプレイする感覚に的場は久しぶりに少しだけワクワクした。この辺りはプロの犯行というやつだ、自身の創作にも大いに参考にもなる。

 と、名前の入力画面に入った。ここで少し的場は悩む。どうしたものかと数秒考えた後に入力した。


『あああああ』




 まぁだろうねという感じである。そして的場の初めてのリアライズモンスターが始まった。






ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ



「んで結局徹夜したのか」

「ん゛………」


 目の下に若干のクマを作りながら机に突っ伏してダウンしている的場が居た。友人の珍しい失態に日暮れは呆れたような目線を的場に送っている。


「次の日に跨ぐぐらいのダメージはお前にしちゃ珍しいな」

「夜更かしならずっとやってるんだけどな……三時くらいまで」

「シンプルに忠告だけど、お前マジでいつか死ぬぞ? まぁいいや、初めてのリアモンの感想どうよ?」

「まぁよかった。参考になるとこもいっぱいあったし」


 自分の好きなものが認められたのがうれしいのか日暮は満足そうだ。なんというか、後方師匠面というか、妙に腹の立つ表情に的場は少々イラッときた。


「ストーリー進捗どこまでいったよ?」

「アホ農家がリアモン暴走させて迷路作ってそこで延々と迷路をグルグル……」

「よりにもよってそれかぁ……ってことはクロスレッドとストレートグリーンのヤツか。俺も初めて攻略見たっけなぁ……でもまぁ、正直まさかお前がちゃんとプレイするとは思ってなかったよ」

「つい昨日ウチでプクネコってヤツを飼うことになって……それで」

「えーもうそんな身近に出始めたのか! 俺もちょっと探してみようかな……」

「あ、そうだ。プクネコの資料みたいなの無い? 母親から飼い方調べてくれって言われてたんだった」

「おk、帰ったらRINE《リーン》で纏めて送るわ。でもあんまり期待するなよ? 正直こういうのはフレーバー感覚で実際とは変わってくるだろうし」

「ん、さんきゅ」

「まぁよっぽどのことがない限り大丈夫でしょ。魚系リアモンは陸上に上がっても平気で生きてるし」

「それホントに魚か?」




 家に帰る道中コンビニに寄りちょっとしたものを購入し帰宅する。買ってきたのは猫特攻のあのペーストおやつと煮干しだ。玄関のドアを開けるとそこにはひんやりしたフローリングにぐでっと寝転がるプニャちゃんが居た。

 プニャちゃんが目を瞑ったまま少し鼻をヒクつかせると、『カッ!』と目を開き、シュバッと的場の前に立ちはだかる。長い尻尾は機嫌よさそうにゆ~らゆ~ら揺れている。そんな現金なプニャちゃんに的場は少し吹き出しつつもプニャちゃんを横にどける。


「わかったから。ちょっと荷物置かせて」

『プニィ』


 待ちきれないのかずっと的場の後ろについてくるプニャちゃん。ほんの少し猫好きの気持ちがわかった的場だった。




ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ



 tips・プクネコについて


 プクネコは基本的に家族単位の群れで生活し、両親と兄弟に囲まれて成長する。情が深いようで、成長し巣立った後も家族と再会すると楽しそうにじゃれあうという。ただ外敵に家族と認識したものを傷つけられるとかたきを覚えて執拗につけ狙い、必ず殺すまで狙い戦い続けるという。

 パラドクスワールドのプクネコ系はこういった仇討ちの面が強調されたのか、タイプが水・毒から水・幽に変わり仇討ちの苛烈さがより恐ろしく凄まじいものになっている。

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