元凶と言えば元凶だけど全く意図しない所で黒幕になるとか誰が予想できるかって
前書き
今回取り上げる架空の(ここ大事)ゲーム会社クレイジーゲームスですが、文字打ったら候補で似たようなモンが出てきて、検索したら微妙に同じ名前の何かが出てきてビビリました。これはあくまでフィクションで現実の実在する似たような名前のものとは一切関係ありません
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株式会社クレイジーゲームスの会議室。今をときめく……ときめいてるかコレ? もとい、今ありとあらゆる話題をかっさらっている会社の会議室にて。クレイジーゲームスの経営陣の会議は早朝からずっと紛糾していた。会議の題はもちろん、現実に現れてしまったリアライズモンスターについて。
「こんなのどうすればいいって言うんだ!!」
「そんなものここにいる全員が思っている!! それでも我々が動かなければならない、わが社の門を見ろ! まだ朝の七時前だというのに既にマスコミで壁ができ出入りすらままならない、警察まで出撃してブロックしている!! このままでは自衛隊すら出動しなければならないほど混乱するぞ!!」
頭を抱えて叫ぶ上級役員に同僚らしき役員が大声を出す。それもそうだ。自分たちが想像したモンスターが現実に現れるなど、世の中よりもずっと自分たちの方が混乱している。
すべてはクレイジーゲームスが手を引いているなどという普通なら鼻で笑うような陰謀説すら現実味を帯びる尋常ではない事態。当然ネットやSNSは大炎上なんて生易しいものではなく大爆発と言っていいほどで、リアモンが発見されてここ数日は不名誉な方向でずっとトレンド一位を獲得している。
クレイジーゲームス社員全員は既に急性胃潰瘍を発症している。あまりのことに通常業務など行えるはずもなく、役員以下の社員は全員自宅待機を命じられ、役員は昨日の深夜からひっそりと出勤しこうして会議をしているわけだ。
全員が血を吐きそうな表情で会話を交わす中、若くしてゲームの開発を直接指揮している部長『中森』が重々しく提案する。
「……まずはやれることを探しましょう。現状ではどれほどのリアモンが現れたかはわかりませんが、わが社のHP《ホームページ》やSNSで全てのリアモンのデータを公開しましょう。今までリリースされたゲームの全ての図鑑データ、今まで隠していた裏データも裏設定も何もかもです。そして防衛省や国土交通省、環境省など……特に防衛省と警察組織には最優先でリアモンのデータを渡して、リアモン絡みの事件の対応に当たってもらいます。現状、出来るのはそれくらいかと……」
「リアモンをどうにか捕獲することはできないのかね?」
「ウチと提携しているメーカーが作ったおもちゃはありますが、そういった効果があるとは思えませんし……我々はゲーム会社です、我々が作った世界とはいえその辺りの科学は管轄外ですから……」
「一先ずは物理的に捕獲するしかない、ということか……あまり攻撃的なモンスターには出現してほしくないな……」
「言葉と話が通じ意思疎通ができるインテレックスが最初に発見されたのが幸いでしたね……」
古今東西、様々なモンスターを仲間にして冒険するRPGが発売されたが、そういったゲームは大体二つに分けられる。戦闘でモンスターと戦い倒すことで確率でモンスターが自分の意思で仲間に加わってくれるタイプと、モンスター捕獲用の道具があり、それを使ってモンスターを捕まえることで仲間にするタイプだ。そこに卵から孵して仲間にしたり、モンスター同士を合成して仲間にするタイプもあるが、それは割愛。
そしてリアライズモンスターは後者に当たる。『リアライズガン』と呼ばれる銃のような形をした捕獲アイテムに、空の『カートリッジ』と呼ばれるアイテムを装填する。そして戦闘で弱らせたりしたリアモンにリアライズガンを使って空のカートリッジを発射することで一時的にカートリッジにリアモンが入る。そこから確率でゲットできたり、もしくはリアモンが抵抗しカートリッジから逃げ出し戦闘が続行するという二つのルートに分かれるのだ。
リアモン世界を作った側とはいえ、そういったその世界特有の謎科学は管轄外もいいところだ、こちらはゲーム会社なのだから。
「それでですが、現在開発中の新作『リアライズモンスター《キングレッド/クイーンブルー》』は一旦開発を凍結します。ただでさえ不安定になったこの世界で新作は出せません」
「異議なし。だが……わが社の経済的損失は……」
「経済的損失はいい、問題は世論だ。私たちだけじゃない、社員も……もはや外を歩くことができん……もし社員に何かあったらどうする? 場合によっては命の危険すらありうる!」
「もはやどうにもならん。最悪、この会社を畳むことすら視野に入れねばならんだろう……」
沈痛な空気が会議室を包む。会議は進まず、いったん休憩が入った。役員が一旦会議室を出て散った後、中森は一人座ったまま動けない。
子どものころ憧れた世界に努力を重ねて携われるようになり、そう思えばついにはそれがやってきた。本当なら無邪気に喜びたい。でも世界がそれを許さない。新作発表からずっと待っていてくれるファンを裏切ってしまっている。様々な感情が泥のように重く中森の心にのしかかる。
「大丈夫かい、と聞くのはヤボか」
「日尾代表……」
「わかっているとは思うが、今回のことで君が気に病むことは何一つないよ。もっと気楽になりなさい」
「ですが……」
中森の肩にねぎらうように手を置いたのはこの会社の代表取締役の日尾代表だった。何を隠そう中森を開発部長に推したのが日尾であり、プライベートでも度々中森を飲みに連れて行ってくれたり何かと気にかけてくれた尊敬する上司だ。日尾はいつものように柔和な笑みを浮かべて中森を窘める。
「色々とやるべきことは山積みになってしまったがね、今はせめてやるべきことをひとつずつ確実にこなそう。ほら、ファン達はちゃんとわかってくれているよ」
「え?」
日尾が懐からスマホを取り出しとあるページを開いて中森に見せる。開かれていたのはクレイジーゲームスの公式SNSだ。ツリーの一番上には公式が出した声明が固定化されており『現在起こっていることについて』の報告で、内容は空しく『現在起こっているリアライズモンスターの出現については調査中です、後報をお待ちください』とだけ書かれている。その声明のツリーにはとんでもない数の返信という名の反応が付いており、どんな罵詈雑言が書き込まれているかと戦々恐々しながら中森はスマホをスワイプする。
『当事者といえば当事者だけど被害者過ぎる、調査頑張ってください』
『俺はいつまでも新作を待つぜ!!』
『多分この先クソ忙しくなるだろうけど、頑張ってほしい』
『私松わ』
『俺は竹』
『あたしは梅』
『↑お前らwwwww』
『松竹梅で草』
『入社倍率エラいことになるやろなぁ……』
『それな』
『がんばってください』
『クレイジーゲームスは創造神だった……?』
『笑えないんだよなぁ……』
『クレゲお抱えの最強の弁護士軍団「青ざめる顔」ヒョエ』
『逆ゥ!!』
様々な反応が付いていた。日本語だけでなく外国の言葉も多数見受けられ、そのどの反応もクレイジーゲームスを悪く言うものはなく、むしろ同情的でかつ純粋に応援してくれるような反応ばかりだった。
偉大な先達が創り出した広大な冒険心煽る舞台設定を中森が継いだ時、プレッシャーで潰されそうになったことがある。一度新作の発売を延期せざるをえなくなった時、病みそうになった中森をもう一度立ち上がらせてくれたのがファンの暖かい声と日尾だった。
何があっても変わらず自分たちを思ってくれる人たちがいる。軽口がほとんどだが、それでもこちらを攻めるような反応はずっと少ない。
「大丈夫だ。我々なら乗り越えられる。乗り越えた暁にはこの新作を世に出そうじゃないか」
「ッ、ハイ、もちろんd、です……!」
中森は暖かい声という名の訓練されたファンによる軽口に泣き、何としてもこの難題を乗り越えると誓った。
なおこれから数年に渡って彼らクレイジーゲームスは別の意味で泣かされ続けることになる。
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