第二話:クラス委員長


「はい、みんな席について~この時間ではクラスの係を決めたいと思います。」


 待っていました。係決め。クラス委員長にでもなれば優位に事を運ぶことが出来る。取るのはただ一択クラス委員長! そのために友達を作った!


「クラス委員長も決めたいと思うけど、まだそんなに関りが無いと思うから自己紹介がてらみんなで話してね。席は移動していいから。」


 ──なるほど。大人は入らないということか。クラス委員長を推薦、投票でやるならば、二票は入る。まずはこの二票を固めるために彼女らに話しかけるとしよう 。


「──ねぇ~二人とも~可愛いね。」


 しれっと入ってくるのが上手い。初動、会話を先に展開された。


「ごめん俺、安広。詐欺田さぎだ 安広やすひろって言うんだ。よろしくね」



 すっと差し出す手、言葉の抑揚、にこやかな顔。すべて完璧だ。初対面の人に与えるべきなのは怖い人ではないという安心感。

 差し出す手の握り具合までにも気を付けなければならない。そしてそれがすべてできれば相手は墜ちる。


 詐欺田 安広。詐欺師幼くして騙し取った金額は総額6000万円にも上るという将来有望な詐欺師。

 一家で計算すれば簡単に億を超える詐欺界の巨星、詐欺田家の長男。勿論対人での駆け引きでも強く、平凡な男をナンバーワンホストにした。など数々の異業がある。

 ──くっ、詐欺田め……せっかくの手駒に手を出すのか!? 貴様の名は意外と有名なのだぞ!? 事前情報収集中にはナンパ途中の目撃もある!


「やぁ、詐欺田君。僕は深闇って言うんだ、僕とも仲良くしてくれないか……?」


「僕は男には興味がないんで、また次の機会に~」


 ──殺す……!! なんだこいつ!? こんな奴一瞬で、


『いいか、狂夜。スパイたるものいつだって冷静でなくてはならん。感情に流されるなよ?』


 ……はっ!! 父上!! 僕としたことが……冷静にならなくては、


「君もクラス委員長になるのかい?なら無理だよ諦めな」


 まずは相手にこちらを注目させる。手っ取り早いのは煽る事だ。こういう奴は自尊心が高い。己の成そうとしている事を正面から否定すれば、


「どう意味かな……? 狂夜君?」


 食いついた──

「僕もクラス委員長の座を狙っているからね」


「何に関係があるんだい? その様子だと今はボッチかい?じゃあ無理じゃないかな、き・み・に・は」


「見てたけど君に票を入れそうな人はいなさそうだけど?天川さんにあまり相手にされてなかったよね?」


「──最近妹に負けちゃったんだよね~月の売り上げ。妹の方が釣るの上手いかもなんだよね~」


 報花の一言。売り上げ、釣る、妹、負ける、詐欺田の思考が止まる。


「えっと、妹さんがいらっしゃるんですか?」


「いないよ?」


 殺姫は少し困惑したような表情を浮かべる。


 このキーワードから導き出せるもの、それはただ一つ。


 口は大きく開け、声は小さく囁く。詐欺田は分かっているだろうこれが自分に関する事だということを、


「──ド・ン・マ・イ」


「……僕、他の人にも挨拶してくるよ。じゃあね二人とも」


「は、はい! ま、またお会いしましょう」


 同じ教室なのだからまた会うも何もないだろと殺姫の返事に突っ込みを入れたい。


「ところで、何がドンマイ何ですか?」


 聞こえてるだと!?


 ***


 詐欺田との口論をしていたらグループができ始めてしまっているな……

 残り物、そこにずっと座ったままの天川さんなどに票を入れてもらうしかないな、詐欺田が仕掛けて不発だったとなると相手は相当固いな、となると流れで入れてもらうしかない。


 一人一票の投票権があり、放棄はできない。

 勿論自己に入れることも不可。

 誰かしらに入れなくてはならない状況において、クラス委員長と言う座を適当には選べないだろう。


 ならば直前、または最初から周りを見ておく必要がある。

 一人と接触し決めるのではなく見渡して見る。そういうタイプの人達だろう。ならばやる事は一つ、


「二人は票をだれに入れるの?」


「私は別にアンタで良いんじゃないかって思ってるよ?」


「わ、私も狂夜さんに入れようかなって……思ってます」


 情報の開示……現段階での確定獲得票数の開示。


 これを聞き狙う者は危機感を持ち、狙わない者には彼はそれだけの価値、実績があるということを分からせる。それから仕掛ける。


「──初めまして。深闇 狂夜と言います。今日からよろしく天川てんかわさん。」


「……初めまして深闇 狂夜さん」


 名前を刷り込ませた。初動はばっちりだ。後は何気ない会話をするだけ。

 ここで相手から知的なところ引き出す。そして僕は天川さんに一票を入れる。


「天川さんはクラスの係は何がやりたいの?」


「……保険係」


 なるほど、動きたくないのか。


 保険係は怪我した人を保健室まで運ぶ係、または保健室に居ると伝える係。

 活動回数はとても少ないだろう。


 一つの質問から人物像を形作る。天川てんかわ 才奈さいなの情報は極めて普通だ。特に何もない。何日か尾行調査を行ったが特にこれと言った事もなかった。家族関係、家などにも目立つところのない。何があるか一番分かっていない。しかしここに入学したということは何かがある。


「僕はやっぱりクラス委員長だね。皆を引っ張ってあげたいからね」


「……肯定。そういうの向いてそう。」


「ありがと、天川さんもそういうの向いてると思うけどな~」


「……否定。固定観念、私には無理。」


 ──こいつ、めんどくさいな……天川さんに票を入れるのはやめておくか? いや、そうではなく──


「そうか?頭よさそうだし、ビシッと言ってくれそうだけどな」


「…………」


 否定はしないか、分かっていたがな。彼女なら問題ない。


 彼女を保険係には絶対にさせない。現在進行形で彼女の評価は上がり続ける。口調から分かる頭の良さ、それを前面にだす。


「天川さんもクラス委員長狙ってみたら?」


「……拒否。深闇 狂夜さんに向いてます。」


「いやいや〜挑戦してみようよ」


 そろそろ彼女も嫌になってくるだろう。これ以上目立つ事はしたくないはずだ。となると、次の行動は、


「……確定。ならば私は深闇 狂夜さんに一票入れます。」


 そう、彼女も分かっている最終的なゴールが僕への一票という事を。


 比例し天川さんの認めた相手、天川さんがクラス委員長に相応しいと認めた人。と言うレッテルが貼られた。まだそこまで天川さんの影響力は少ないが、これで大きく飛躍しただろう。


「──じゃあ、そろそろクラス委員長を決めようと思います。机に伏せてください。目を開けちゃダメだよ」


 全員が机に伏せる。教室がやけに静かに感じる。体重が掛かり音を立てる机、着崩れの音、


 なるほど、大体の票数は分かると言うのか……現状況で支持する人、現状況で投票するほど信頼されている。つまりはこのクラスの人物的影響が計れる。


「はい、ではこの人にクラス委員長になって欲しいって人に手をあげてください。」


 微かに聞こえる音を頼りに人数を数える。


「……はい、次は深闇 狂夜君にクラス委員長をやって欲しいと思う人、手をあげてください」


 一、 二、三、三人だけか?


 おかしい。隣から音がしない。血染は裏切ったか……? 既に詐欺田の手に落ちていたのか!? 侮っていた……流石はその道のプロ……誤算だった。


「──はい、顔を上げてください。このクラスの委員長は……」


 予想外の裏切りにより結果が分からない。最悪の場合天川さんでもいいと考えていたが、まずい状況に陥る。


「深闇 狂夜君です! おめでとー」

 当然の結果と言えば当然だ。僕の戦略は完璧なものであったからな……!


 内心めっちゃ焦っていた。


「はい、他の係は狂夜君がまとめて決めてね」


 優雅に立ち上がる。威風堂々と、意気揚々と前に立つ。


「皆様の投票の元、このクラスのクラス委員長となりました深闇 狂夜と言います。皆さんよろしくお願いします。」


 さて、今ので実力の差を見せつけてやった、次にやることは一つ適材適所の場所に誘導する。


「じゃあ、まず初めに保険係をやりたい人は手をあげてください」


 天川さんの視線が鋭くなる。そう、これも戦略である。


 第一にクラス委員長の座を狙っていた者は優位になりたい為であり、決してこのクラスをより良く、引っ張っていきたいから。などというものでは無い。つまり敗者が次に求めるものは、


「一度に多くの人が手を上げてくれましたね。でも、一人なんで絞っていきましょう。時間もないのでジャンケンで決めてください。」


 運ゲーに持ち込む。そうすれば頭と善し悪しなど関係ない。


「では、ジャンケンに参加する方は立ってください。今ここ負けた人は二次希望となりますので、その点も踏まえた上で立ち上がってください。」


 四人が席を立った。その中に天川 才奈の姿はない。狙い道理に事が運んでいく。


「次は二人の配布係になりたい人は手を挙げてください」


「はい! はい! 私やりたいー!」


 予想はしていたが情乃 報花がここで立候補する。配布物と一緒に脅迫状でも仕込むつもりだろう。止めていただきたいものだが、彼女は今は協力的である。それを使い裏からも完全に支配できる。


 他にやりたい人もいないので自然に決まった。


 このまま進み二次希望に入る。


 ホワイトボードに書かれている残る係は体育係、レクリエーション係、生物係、副クラス委員長。運がいいのか運が悪いのか、天川さんはまだ残っている。そして楽な係はあと一つ。


「じゃあ、次にせ──」


 一人、もう手を挙げた人が一人。そう天川 才奈だ。流石に焦るころだろうとは思っていたが、行動が早い。是非とも副クラス委員長になっていただきたいものだ。


「……は~い、私も~」


 毒山 致死。目撃情報は少ないが大体の事件に関わっている毒山家。

 その一人娘である彼女は幼くして謎の化学薬品『ちょーやべーぜ』というものを発明。

 海外での使用記録では600人超が死亡し、1000人以上が症状を訴えたという。極めて危険な人物だが、不老不死の薬の着手、マジカルドーピング剤の開発など様々な偉業もあるため簡単に手を出せないのが現状だ。


「じゃあ、じゃんけんで。」


「…………」


 これで負ければ後は無い。それは天川 才奈自身でも重々承知である。


 人間観察。先ほどの皆がクラス委員長を目掛けて争う中、彼女は教室全体を見ていた。一人一人の情報収集を行っていた。

 危険事物となりそうな人を早期発見し対策する予定だった。

 しかし、その危険人物と認定した人間が話しかけてきた。そう、その人物こそがこの状況へと追い込んだ人間。彼女は正しかった。

 だが一つ誤算があるとすれば、自分の運の無さ。ここまでじゃんけんで負けるとは思っていなかった。


 一目。たった一目で分かる情報を把握。それをすべて提示、整頓、この瞬間に使えそうなもの選択。口調、姿勢、目、仕草、すべてを見通し確定させる。


「じゃんけん……」


 極限まで相手の手元を見る。手の開き具合を確認する──


「ポン!」


 毒山はパーを出した。そして天川は……


「──は、敗……北?」


 彼女の計算と戦略は敗北した。所詮は運ゲーだった。


「……はい。では生物係は毒山さんお願いします」


「は~い」


「じゃ、じゃあ次……副クラス委員長やりたい人いますか……?」


 残るはレクリエーション係と体育係どっちの転んでも彼女にとっては地獄だろう。静かに天川さんは手を挙げた。


 ……なんか、可哀そうと言うか、ドンマイ……


 残り二つも無事決まり、係がすべて決まった。


「はい、じゃあ明日からはこの係が仕事になります。ちゃんと役割を果たすように。そして明日から日直も始まります。詐欺田君からですね。明日もまだ説明とかで終わるので授業はもうちょっと先かな」


 初日にしては上々だ。クラス委員長の座をゲットし、有能な副クラス委員長もいる。

 情報屋とも仲良くなった。隣の席に変な奴はいるが大丈夫だろう。完璧だ。


「はい、じゃあ明日も元気に登校しましょう。さようなら!」


「さようなら」


 ランドセルを背負い、黄色い帽子をかぶり正門を後にする。この学校生活はまだ始まったばかりである。

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