第56話 死後の世界?

 死んだらどうなるんだろう?

 そう考えたことは数えきれない。


 まあ、あのデスゲーム自体が死後の世界なのだけれど、コンさんや私にトドメを刺したであろう、あの女性の説明では、あそこは特例中の特例の空間だったらしい。

 じゃあ、この二回目の死こそが、本物の死と言えるだろう。

 地獄だの天国だのという、人間に都合の良いものが実存するとは、ちょっと信じられない。


 私が想像していたのは「無」だった。


 死んだら終わり。永遠に暗闇の中を彷徨い続ける。何故、人間が死を恐れて、死の先にも続きがあるなんて妄想してしまうのか。

 それは「何も無い」という、シンプルだけど圧倒的に怖い環境から逃れたいという無意識からではないか。


 しかし、そんな哲学もどきみたいなことを考えていた私を待っていたのは、謎の部屋だった。

 足元には、見たことのない緑色のカーペットが強いてあった。それの匂いを嗅いでいたから、妙に落ち着いてきた。何故だろう。初めて見るものなのに、懐かしさを感じる。



「それは、畳っていうんだよ」


 謎の心地良さに浸っていたら、女の子の声がした。年頃はユメやエミリーと同じくらいだろうか。


「こっちにおいで。こっちにもっと良いものがあるよ」


 誘拐で人生がメチャクチャになった私に向かって、典型的な誘拐犯のセリフを吐きやがって。行くわけないだろう。


「‥‥‥あれ?」


 しかし、次の瞬間には胡座をかいて座っていた。

 天板に挟まっている、分厚い布団に眠気を誘われる。さらに、中にはぽわっとした温度が漂っている。


「‥‥‥あったかい」

「そうだろう、そうだろう。私の故郷の自慢な暖房器具、コタツだよ。異世界には魔法やら剣やら珍しいものがたくさんあるが、コタツに勝る発明品は無いな」


 異世界?

 なんだっけ? どこかで聞いたセリフだな。

 記憶力には自信がないが、ここは頑張るべきだろう。


 ‥‥‥あ。


 二階堂沙優さんのゲームの説明で出てきた単語だ。

 確か、自分の生きてきた世界とは別の世界って意味だったっけ。


 そして、あの女性が語っていた内容で思い出した単語がもう一つ。

 日本。

 大体が、この国に住んでいた人が異世界転生とやらをするそうだ。

 その国名を、目の前の怪しい女も口にした。


「‥‥‥マジかぁ」


 盛大なため息とともに、本音が漏れた。

 やっと終わったと思ったら、まだ何かをやらされそうだ。

 もう疲れたから、無の空間に彷徨いたかったのに‥‥‥。



 

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