第53話 ルカVSシキ

[シキ・バルンズ]


<いじめられる方にも原因がある>


 馬鹿がドヤ顔で言いだしたであろうセリフ。

 これって、「いじめられてる奴は、気持ち悪いしブサイクだから仕方ないよね。もっと、いじめられないように自分を変える努力をしたら?」という意味でしょ。


 クソ喰らえだ。


 そっちを変えるより、いじめる人のマインドを変えることが先だろうが。

 人を攻撃しなくちゃならないくらいに、自分を抑えられないんだから。そんな危険人物を野放しにして良いのか? そんなんだから、私にみたいな引きこもりが生まれるんだ。


 いじめっ子は、みんな異常者だ。

 害獣と同じで、駆逐する必要があるんだ。


「ゴ、ゴボババボ‥‥‥」


 手始めに、植物がたくさんある部屋から拝借してきた土を口に詰め込む。コツは、思っているよりも奥に入れること。相手が飲み込まざるを得ないくらいに。

 これは、学校で実際にやられたこと。


「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」


 力加減も、笑い声も、あの女達の真似をしている。

 でも、楽しくない。

 あいつらは、これの何が楽しかったんだろう。


 グンッ。


 私が要らない干渉に浸っていたからか、女が自力で上体を起こして這い上がってきた。私がされていた時は、あいつらが飽きるまで土地獄から抜け出せなかったのに。

 なんでだよ。お前も私と同じ目に逢えよ。


「無理すんな」


 口の中の土を唾と一緒に吐き出してから、女は言う。


「お前、そのやり方向いてねーよ」


 知った風なこと言う女を睨みつける


「アンタに何が分かる!」

「いや、そりゃ知らんけど」

「はぁ!?」

「さっき会ったばかりのお前のことなんか知るわけないだろ。私が言ってんのは、そんな非効率なやり方はやめた方がいいってこと」

「‥‥‥」

「まあ、私も変態誘拐犯に好き勝手された鬱憤を発散してるだけだから、偉そうなことは言えないけどさ。少なくとも殺す気でやってる。でも、チビスケのは嫌がらせの延長線じゃんか」


 サラッとチビスケと呼ばれたことにイラッときた。そっちも方が小さいくせに。

 でも、大事なことを言われている気がしたので、黙って聞くことにする。


「‥‥‥」

「‥‥‥」

「え!? 終わり!?」

「え? まあ、そうだよ。普通に殺しにこいよ」


 普通。

 生前、その意味が分からず、散々苦しませていた言葉。


 でも、今なら少しは分かる。

 ジャージのポケットに収まる程度の、小さなナイフを取り出す。


「そうそう。殺し合いなんて原始的なもんに工夫なんて要らないんだよ。さっさとそれで殺しにこい」


 舐められている。

 しかし、不思議と嫌な気分ではない。何だったら、この子に褒められたいとすら思ってしまっている。無意識に相手の方が上だと判断してしまったのだろう。


 もう、私には勝ち目は無い。

 でも、せめて一撃は喰らわせたい。


「死んじゃえ!!!!!」


 パフォーマンスではなく、本気で叫んで心臓を狙いに行ったが、平らな胸に辿り着くことすらできなかった。


 女な拳の方が先に、私の顔面にめり込んだからだ。

 大袈裟ではなく、顔が凹むレベルの衝撃が何発も襲う。


 あぁ。


 散々な人生だったけど、本物に殺されるのだったら、終わり方だけは悪くなかったのかもしれない。

 

 

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